ベッド「やぁ!!」
さて、朝になりました。
憂鬱な朝がやってきたよ。
私はもぞりと布団の中でうつらうつらしながら身動きをする。
( .......。もうズル休みしちゃお)
今日の授業を考えるだけで憂鬱過ぎて嫌になったので、二度寝を決め込もうと目を閉じた。
ドパァァァァァァァンッ
「いつまで寝ているんですの!!起きなさいですわ!!法国の!!」
「ぅしょっひょいっ!!」
ドアが勢いよく開いた音で私の頭は完全に覚醒。
ベッドの端によって横向きで寝ていた私はかなり驚いたせいかベッドと壁の隙間に挟まってしまった。
(え。なんで私挟まってんの?どうしようこれ。壁しか見えないんですが。抜け出せるかな)
取り敢えず体をウゴウゴと動かしてみる。
動かしたかいあって腕のみ自由になったけど、隙間から脱出するには力が足りない。
( .......。完全にハマってて腕しか動かせないんですが.......。え、マジでどうしよう.......。)
どうしよう.......。と思っていたら突然ベッドが動き隙間にハマっていた私の体の角度が変わり顔面、しかも鼻から床に落ちた。
(顔面痛い。てかアレ?誰が私を助けてくれたの?いやその前に私の部屋に入ってきたのは誰?)
頭に疑問符が浮かびつつ起き上がる。
鼻から床に落ちたから骨が折れてないか心配だけど今は部屋に入ってきたヒトを見る方が先だろう、と体を起こす。
起き上がった途端に鼻の奥から鉄錆みたいな臭いが。
(これは、やっぱり鼻血出たか?)
鼻をこすって指を見てみれば案の定、血が付いていた。
(あー、見事な鼻血ですね。上向いてっと、誰が入ってきたのかなーっと。)
私は顔を上に向けると、ベッドの向かいに視線を向けて誰かを確認。
.......そっと視線を上に向け見なかった。
「法国の!!今ワタクシの事を見て見ぬふりをいたしましたわね!?そうはいきませんわよ!!」
パタパタとスリッパの立てる音が聞こえ、今日も縦ロールが元気な少女の顔がドアップで私の視界に現れた。
「なんでまた鼻血を出しているんですの!?」
「さっきベッドが動いたお陰で顔面から落ちて鼻血が出ただけですが」
「うぐっ.......!ワ、ワタクシのせいですわね.......。ごめんなさいですわ.......。」
ルルーフェちゃんは肩を落として謝ってきた。
私はと言うと
(あ、鼻血が止まった気配がする。今回のは短い時間で止まったから小さい血管が切れただけかな。)
上に向けていた顔を前に戻し鼻を手で触って確認。
もう血が出ていないことを確かめた私は立ち上がる。
「私的には助かったから別にいいんだけど。それよりも、パジャマから制服に着替えたいから出来ればそこから退いてもらえると助かるかも」
「そ、そうかしら.......?はっ!そ、そうね.......!ワタクシは外に居るから早く着替えるんですわよ!!」
パッと顔を上げたルルーフェちゃんは急いで部屋から出ていった。
ようやくベッドの隙間から出た私はベッドを元の位置に戻し.......戻せ.......戻せなかったので諦めてクローゼットへ向かう。
クローゼットを開けると適当にパジャマを脱ぎ中にいれる。
そしてハンガーに吊るしてある制服を手に取りさっさと着替えて適当に手ぐしで髪の毛を整える。
机の上に置いていた金タライを抱えるとドアを開けた。
ドアの外にはルルーフェちゃんが立っている。
「さぁ、準備が出来たから食堂に行くわよ縦ロール界の異端児ちゃん」
「なっ!!法国の!ワタクシの事をそんな渾名で呼ばないで下さります!?」
ジト目で目の前の少女を見つめる。
「なんですの!法国の!」
「それ」
「は?」
「私の呼び名」
「法国の、は法国の。でしょう?昨日名前を聞いた気がしますけど覚えておりませんわ」
何言ってるんだコイツ。みたいな表情で言いやがりましたよこのルルーフェちゃんは。
「んじゃあ私も貴方の事は縦ロール界の異端児ってずっと呼ぶけどいいの?何があっても大声で呼び続けるけど」
「ワタクシはそこまで言ってませんわ。法国の人間ごときにワタクシの名を呼ばれるとか虫唾が走るんですもの。仕方の無い事でしょう?」
ルルーフェちゃんは腕を組み侮蔑の色をその目に浮かべて私を見ている。
(あー、私めっちゃ下に見られてるなー。肩書きの所為でこうなっているとしても、これは流石の私でもモヤッとするわー)
「.......。貴女とは、私が一方的にだけど友達になれると思ったのにそんな目をされるんなら無理そうだったわ。
この学園に来てから初めてのヒトとの触れ合いでテンション上がってごめん。じゃあね」
私は金タライを抱え直しすとルルーフェちゃんの傍を通り抜ける。
(酷い言い方になってしまったような気もするけど、下に見られたまま友達関係とかを続けるのは嫌なんですぅー)
すったすたと歩いていると後ろに手を引かれて危うくバランスを崩して倒れそうになった。
振りほどこうとしてんだけど結構な力で手を掴まれていて動きゃしない。
「.......。何?」
仕方なしに後ろを振り返るとルルーフェちゃんが顔を赤くして立って私の手を握りしめている。
(可愛い。可愛いんだけどもちょっと待って手がだんだん痛くなってきたんですが?ちょっ、痛い、いたたたたたた)
「こっ.......!」
「こ?」
(今ここで鶏の練習?それよりも手が痛いから離してほしいです。手が潰れそうです)
「このっ.......ワタクシをっ友達ですって.......!?」
私の顔を睨みつけるルルーフェちゃんだが全然怖くない。可愛いが過ぎる。
(てか、これはアレか?アレだな。.......うん。アレだ。言葉が出てこないけど、無礼者!!みたいなアレですねきっと)
「っ!そんな嬉しい事何故もっと早くに言わないんですの!?でしたら虫唾が走りながらも頑張って名前を言いますのにっ!!」
「あ、そっちー.......」
「他に何があるんですの?」
「.......知らなくて良いです」
一気に脱力してしまったが良かった。
(一度関わったヒトに嫌われるのは心的に辛いからやだったんだよねー.......。
まぁ一番嫌なのは推しに嫌われることだけど)
「っ!あ、貴女の名前.......もう一度、教えてくださるかしら.......?」
ルルーフェちゃんは顔をうつ向けて恐る恐るといった様子で問いかけてきた。
獣耳はペッタリと寝ている。
(あー、可愛いなこの生き物。撫でくりまわしたい)
「アリス。アリス・ルミエールよ。宜しくね、縦ロール界の異端児ちゃん」
「そこはワタクシの名前を思い出して仲良しになるところでしょう!?」
「知らんがな」
真顔で言い切ればルルーフェちゃんは怒った表情をして握っている私の手に力を入れた。
「いたたたたたたたたたたっ!!折れる!!手の骨折れる!!!」
「はっ!ごっごめんなさいですわ.......。本当に人間って脆弱ですのね.......」
「そりゃー生身ですもん。当たり前じゃない。それより早く朝ごはん早く行こうよ。朝ごはん食いっぱぐれたらどうすんのルルーフェちゃん」
「そ、そうですわね.......!早く行きましょう!」
ルルーフェちゃんの名前を言ったら凄く嬉しそうな顔をされた。
(私的には縦ロール界の異端児というあだ名も気に入ってるんだけどね)
私達は廊下へと続く扉を開けると急いで食堂へ向かった。
結果
朝飯は食いっぱぐれました。
頑張って早歩きしたのになんでや.......!!
◇
さて、気を取り直して授業を受けようか。
お腹がめっちゃ鳴ってるけど昼まで我慢ですね。
今日の授業は.......何だっけ?指輪必須っていうのは覚えてるんだけど.......。
教室の後ろの端の席に座って先生が来るのを待つ。
カタッと音がして普段誰も座ることの無い隣の席の椅子に誰かが座る。
チラリと横目で確認してみるとルルーフェちゃんだった。
(あ。ルルーフェちゃんも同じ教室だったんだ。良かったー。空腹仲間が出来た)
チラチラと見るのも失礼だと思って頬杖をついてジッと隣を見ていたらルルーフェちゃんの方からも、くぅ、とお腹がなる音が聞こえた。
それに返事をするかのように私のお腹からも、グゴロロロロロロッと盛大な音が鳴る。
同時に先生が教室に入ってきた。
「.......。」
なんか、あの、うん。
教室にいる皆の視線は私に突き刺さることはないんだけど、誰も私を見ないからね?でも気配?みたいなもんが突き刺さっている気がする。
先生からの視線も痛いです。そんな眉間に皺を寄せなくても良くないですか?
(あー.......。穴があったら入りたいとはこの事ですね.......。)
「.......。各自席に着いているな、では始業の刻を始める」
(やったー.......!!私のお腹の音流された!!)
心の中で喜びながら頑張って先生の話を聞く。
聞いてメモしておかないと後が大変なので頑張る。
「今日の授業内容は魔法属性検査と使い魔の召喚だ。故に今日は別の教室へ移動を行う」
先生の言葉に教室内がざわめき、隣の生徒と話すヒソヒソと言う音が響く。
(ふむふむ。魔法属性検査に使い魔のしょうかん.......あれ、今日これだけなの?指輪ってどこで使うの?そして皆何を噂してんの?)
疑問に思っていると隣からボソボソと何やら聞こえてくる。
(え?何?ルルーフェちゃん独り言言ってるの?怖っ!)
ボソボソッと言う囁きが大きくなった。
(んー?何言ってんの?ちょっと気になるじゃない聞き耳立てて良いってこと?立てるけど)
という事でルルーフェちゃんの言葉に聞き耳を立てることにした私。
「──は、しょ──の時──────。」
(破傷風の時、傷で遊ぶな?
何を言いいたいのかさっぱり分からんぞ?もう一回.......!もう一回言ってくれると嬉しいな.......!!)
優しいルルーフェちゃんはもう一度、さっきよりも少し大きめの囁き声で再度言ってくれる。
「指輪は召喚と属性検査の時に使いますわ。召喚の授業で時間がかかるから今日はこれだけなのですわ」
( な る ほ ど ! ! )
先生に気付かれないようにポムっと手を打って納得した私。
「法国の。ようやくお喋りは終わったようだな」
(気付かれてたー!!!やっばっ!!どんだけこの先生地獄耳なのよ!!)
眉間の皺が凄いエルフの先生。
思いっきり大きな溜め息を吐いたエルフの先生は苛立たしげに私を見る。
目には侮蔑の色が混じっていることはご愛嬌なのだろうか。
「何も入らないであろう頭の中がカイメンの如き貴様でも分かるように話してやらねばならんのか」
「いえ!多分大丈夫です!多分!!」
「全くもって分かっていないようだな。.......法国のなんぞに時間を取られても困るだけだ。説明はいらんな」
(てかさ、私喋ってなくね?一言も喋ってないよね?なにゆえ矛先が私に??
あ!法国だからか!!クソくらえ法国!!燃えちまえ法国!!滅びろ法国!!)
自分が生まれ育った国だが、法国だと言うだけでこんな言われようは正直腹立つ。
腹立つけども仕方ないと思ってもいる。
(だって法国本当にクソなんだもん!!どこがって?全部よ全部!!)
「属性検査と召喚の為に教室を移動する。くれぐれも離れぬように」
行くぞ。とエルフの先生が教室を出ると教室の中にいた生徒達も立ち上がりざわざわと小声で話しながら教室を出ていく。
内心怒っていた私は反応が遅れてしまって殆どのヒトが教室から出ていってしまった時に慌てて立ち上がり教室から出た。
(ど、どうしよう!?こんな広い校舎迷子になるに決まってるしまたエルフの先生にあの目を向けられるっ!)
「.......何をしていたんですの。遅いですわ!」
「ルルーフェちゃ〜ん!!私のために待っててくれるなんてめっちゃ嬉しい!!」
「良いから早く行きますわよ!」
プンスコしているルルーフェちゃん可愛い。
さっきのエルフの先生のあの目とかどうでも良くなるくらい可愛い。
.......いや、どうでも良くない。
やっぱり怖いです。
そんな事に気を取られていたせいか、私は教室にアレを置いてきていることをすっかり、頭の中からすっぽりと抜け落ちて忘れている事に気付いていない。
◆
私は500年程前に賢者様が造った魔法学園の教師だ。
生まれはエルフの里だが幼い時に人間に連れ去られ法国に奴隷として売られそうになった事がある。
その時にこの学園の理事長、ルークス様の手によって助けられた。
ルークス様は素晴らしいお方だ。
魔法といい魔法を使わない近接戦闘も全てが一級。
法国の奴らに里を焼かれ私が孤児になってしまった時などあの方は魔国に孤児達を受け入れて下さり衣食住を整えてくださった。
私はこの素晴らしい学園に通い勉学に励むこともできた。
そしてこの学園の教師となる事ができた時にはどれ程の喜びを感じたことか。
私はこれまで様々なヒトを卒業させてきた。
つまり、見てきた。
この学園に入学するヒトには、たまに法国の人間が混じっている時がある。
その子らを見てきた上で言おう。
法国の人間は子供であろうと法国の思想に凝り固まった救いようの無い頭をしている。
他の種族を奴隷としてしか見ておらず、自らよりも下の者を蔑んだ目で見るあの瞳。
その身に纏う魔力も濁っていて汚らしい。
今年、あの法国が聖女だと言い張っている人間が入学してきた。
視界に入れるのも嫌だが私は教師だ。
分別のある大人だからな。
そう思いつつ入学して来たばかりの生徒になる子らを見ていると早速法国のが問題を起こしていた。
くすんだピンクブロンドの髪に金色とも言い難いくすんだ瞳。
それに指に付けている煤で汚れたような金色の石を付けた指輪。
一目で分かる。
法国の人間は全体的にくすんでいるから分かりやすい。
その法国の人間は私の受け持つクラスになった。
最悪だ。
しかも始業式にも出ず一番初めの授業もすっぽかしていた。
本当に良いご身分だな。法国の人間は。
教室に帰ってきた時には何故か大きな金タライを持っていたのが不思議で取り上げようとしたが、取り上げた瞬間に金タライが手元から消え法国の頭に降っていくのは、ちょっと、いや、だいぶ、面白いと思ってしまった。
それからの授業、法国のは終始微笑みを浮かべてノートを取っていた。
本日は魔法属性検査と魔法を使うにあたっての補助をする為の使い魔召喚の授業だ。
(正直言って法国のがいる為心配しかない。それに今年は黒の者もいると聞く。私は今回の授業特別者達を受け持っている。.......気が重い)
授業の説明をしていると法国のと隣の獣人が話している。
もう既に法国のは自らの奴隷を得たというのか気分が悪い。
それよりも法国の聖女という人間はいつもニコニコとしていて気持ちが悪い。
今もそうだ。
「何も入らないであろう頭の中がカイメンの如き貴様でも分かるように話してやらねばならんのか」
「説明は大丈夫ですわ先生。きっとなんとかなりますもの」
ニコニコと笑いながらそう宣う。
授業を馬鹿にしているのか裏のありそうなあの笑顔が気に食わない。
だが私は教師だ。
気に食わないという理由で一個人を差別したりはしない。
さて、とっとと教室を移動することにしよう。
今年の召喚と検査の授業は.......大波乱になりそうで気が重いな。
ベッドに縦に挟まると本当に抜け出せなくて焦る