縦ロール「やぁ!!」
さて、自室に帰ってきた訳ですが.......。
私は適当に金タライを放り出してベッドにダイブする。
放り出された金タライがゴンッガランっと音を立てながら床に転がった音がする。
「いぃやぁぁぁぁああああ!!!!!なんで今日の私ニンニクばかり食べたのよ!?推しに会うかもしれない事失念し過ぎでしょう!?」
掛け布団を被ってベッドをゴロゴロと端から端まで転がりまくる。
私のバカァァァァァァ!!!
と叫んでいると、ドアからゴンゴンゴンッという音が聞こえてきた。
「ひょへっ!?」
その音にビックリした私はベッドから落ちた。
ゴドンッと酷い音がして私の上半身と片足が床に落ちた状態になっている。
ついでに言うと、手はバンザイの姿勢だ。
今はめっちゃ逆さのドアが見えている。
(この体勢なんだっけ。犬神家の体勢だっけ?元ネタ知らんけど。
犬神家ってよく言われてるけど何なんだろうね?犬神家って)
「ちょっと!うるさいですわ.......なんで部屋の鍵開いてるのよ!!しかも何その格好!?」
ドアを開けたのは誰だこれ。
私が見えるのはスカートからのびるニーハイソックスを履いた足のみ。
中々に良い絶対領域をお持ちで。
じゃなくて、えーと、
「どちらさんです?」
「これだから法国の人間は.......。相部屋のヒトの名前さえ覚えてないとかヒトとして失格ですわ!」
視界が逆さのままそのヒトを足の先から順に視線を上に上げていく。
足はニーハイソックスにスリッパを履いている。
私は室内では裸足派である。
(服装、学校の制服ですねー当たり前かぁー。
んで、顔は、と。ごめん、逆さで見てるから良く分かんないや)
髪色は明るい水色で顔の横にある髪が縦にロールを巻いている。
(いわゆる縦ロールというやつですね!
憧れないけど本物は面白いわねー。
毛先掴んでミョーンってしてみたいミョーンって!
そして!頭に何耳か分かんないけど獣耳がついてる!!
獣人よ!!頭わしゃわしゃしてぇ!!
てゆーかだな。私このヒトの名前本当に知らんわ)
「んー。名前知っている知ってない以前に、そういえば私達って自己紹介してないよね?」
「..............。」
グッと黙り込む縦ロール少女。
構わず私は自己紹介をすることにした。
「んじゃ勝手に自己紹介始めるわね。知っているとは思うけど私の名前はアリス・ルミエール、法国の聖女って言うクソな肩書きが付いているわね」
簡潔に言うと、私は逆さのままじーっと縦ロール少女を見る。
押し黙ったままの縦ロール少女。
なおも私は見る。
苦虫を噛み潰したような顔になってきた縦ロール少女。
私は見続ける。
獣耳がじょじょにへしょげてきた縦ロール少女。
あー、あの耳をモフってみたい。尻尾とかもあるならば出来れば尻尾もモフりたい。
あー.......でも仲良くなってからモフってみたいな。
「.......。ど、どこを見ているんですの!?」
「胸」
「なっ!?」
嘘です。獣耳見てました。
引いた感じの縦ロール少女は自らの胸を両腕で隠すように覆う。
「貴女よりもワタクシの方が小さくて小ぶりで貧相で脆弱だとでも言いたいんですの!?なんて失礼な人間なの!流石は法国の人間ですわね!!」
「そこまで言ってないんだけどまぁそれは置いておいて貴女の名前は何なの?なんて呼べば良いのか分かんないからこれから名無しさんって呼ぶわねうんよし決定」
一息に言ってしまえば縦ロール少女は俯いて身体をプルプルと震わせ始めた。
俯いてても逆さのままになってる私からは縦ロール少女の顔思いっきり見えてますけどね。
めっちゃ眉間に皺寄せて唇噛み締めて怒ったような雰囲気出してる。
「っ!ワタクシの名はルルーフェ・シルヴェット。シルヴェット族の異端児よ!何か悪くって!?」
(異端児?)
「えっ何それカッコイイじゃない!!」
「は?カッコイイ?ワタクシのどこが?」
「異端児よ!!」
本気で疑問マークが浮かんでいる縦ロール少女に対してベッドから落ちた体勢そのまま私は言い切る。
「私なんかクソ国のクソ聖女なんて呼ばれんてんのよ?最低じゃない?はーあ、ホントにあの国滅んだら良いのに!!」
「お、乙女がその様な穢れた言葉を使うなんて.......はしたなくってよ!!た、確かに法国は最低ですわ。でもその国の聖女と呼ばれる貴女自信が自国を貶すなんて.......」
「え?だってホントにあの国存在しててなんのメリットがあんのさ。消えたって別に誰も困らない気がするんだけど?現に私は困らない!」
キリッとした顔で言い放てば縦ロール少女は呆れた顔をする。
「国が無くなれば路頭に迷いますわよ?.......貴女、本当に法国の聖女なんですの?」
なんかめっちゃ縦ロール少女が不審な目で見ているけども、だ。
え、私あのクソ国無くなると路頭に迷うの??
「え、困る。流石に路頭に迷うのは困るな.......どうしたらいいと思う?」
「ワタクシに聞かれても困りますわ!.......それよりも!いつまでその格好でいるつもりなんですの!!早く起き上がりなさい!!」
「えー」
「えー。じゃありませんわ!なんですのその返事は!!は、入ってもよろしくって!?」
どうぞー。とのんびり床に落ちたままの姿勢で答える。
足音を立てて入ってきた縦ロール少女はベッドから落ちてバンザイしたままの体勢の私の頭の上まで来る。
私の両腕を持つと一生懸命ベッドの上に戻してくれようとしている。
しかし、ずり落ちている身体の範囲が広いせいでそれも上手くいかない。
私は思った
(縦ロール少女のパンツ?スパッツ?がっつり見えてます)
私はそっと目を閉じた。
うん。見なかったことにしよう。
まさか、ドングリ柄のスパッツ履いてるなんて.......突っ込んだら可哀想だもんね。
すると諦めたのか縦ロール少女のスカートの影が少し離れた。
ので目を開けると私はベッドに乗っていた片足を床に降ろし身体の向きを変えると私は普通に起き上がりベッドの縁に座る。
「なっ!!自分で起きれるならワタクシの手を煩わせないでくださるかしら!?全く!!これだから法国のヒトはなってないと言われるんですのよ!?」
「ごめんなさいねー。突然ドアを物凄い勢いで叩かれたからビックリして落ちちゃったって言うね」
「それはっワタクシの落ち度ですわ.......でも!貴女がとても五月蝿くしていたせいですのよ!?」
なんか落ち込み始めた、と思ったら怒り始めた。
まぁ、確かにさっきの私は五月蝿かったわよね。
「そんなに頷いているという事はやっとご自分の五月蝿さがお分かり頂けたようね!法国の人間は皆して五月蝿いんですもの!!たかがあれっぽっちの魔力量で威張り散らしている上にヒトの事を見下したあの目!!虫唾が走りますわ!!」
(ぷりぷりと怒っている縦ロール少女、ではなく、アレ?名前なんだったっけ?おかしいなーさっき聞いたのに忘れてしまった。
縦ロール界の異端児と言うのが強烈過ぎて忘れるとか.......仕方ないわよね)
「ねぇねぇ、縦ロール界の異端児さん。五月蝿かったのは謝るわ。色々と聞きたいんだけど良いかしら?」
「な!?あっ貴女と言う人間はっ!!ワタクシの事をバカにしているんですの!?」
「え?全然してないけど?どしたの?」
何故かまたもやぷりぷり怒る縦ロール少女に私は目を丸くする。
「これだから法国の人間は嫌いなんですのよ!!」
「私も法国の事嫌いなんですが」
「だったらなぜワタクシの名前を言わないのかしら!!」
「ごめん縦ロールに目を奪われて名前を速攻で忘れたから」
「なっ!?」
私がドヤ顔で言い放つと縦ロール少女は絶句したような顔をして一歩後ろに下がった。
「忘れたなら貴女の足りない頭に刻み込んでやりますわよ!ワタクシの名前はルルーフェ・シルヴェット!!決して!縦ロール界の異端児ではありませんわ!!」
「やっぱり異端児って格好良いわよね」
「聞いているんですの!?」
眉を吊り上げて近付いて来た縦ロール少女、ではなくルルーフェちゃんはベッドに座っている私に顔を近づけて.......。
ウグッと言って鼻を押さえた。
「な、貴女お口から凄い臭いがしますわよ!?」
(お口から臭い匂い.......あぁ!アレか!!ニンニク!!)
「夕飯にニンニク増し増しステーキ丼食べたからだと思うんだけど」
「正直に言いますわ!!貴女今とてつもなく臭いですわよ!!歯磨き道具は勿論もってますわよね!!早く歯磨きして下さいまし!!」
はて、この世界にも歯磨き道具あるんだな。とか私は思いながらクローゼットの中から旅行鞄を引っ張り出す。
旅行鞄の中を開けて見てみると、確かにあった。前世でも見た事のある歯磨き道具が。
私はそれを持つと部屋を出てトイレに行く。
トイレにある洗面台で紙袋から歯ブラシを取り出し、平たい容器に入った軟膏の様な歯磨き粉を歯ブラシで掬うと口に突っ込みブラッシングする。
シャコシャコシャコシャコシャコ
(中々に泡立たないなこの歯磨き粉。
なんか洗った気がしないし.......。
んー。まいっか!)
水道の魔石に触れてコップに水を溜める。
その水を口に含む。
カッー、ペッ!
「ふー。すっきりしたような気がする」
「なんですのその磨き方は!?淑女としてあるまじき磨きかたですわよ!」
「ひょへっ!?いつからいたの!?」
背後から大っきい声がしてビックリした私の口からは変な声が出た。
腰をひねって後ろを見ればルルーフェちゃんが腰に手を当てて立っている。
「初めからいましたわ。.......臭いは軽減されたから良しとしましょう。それで法国の」
「あ、それなんだけどさ。私の名前は一応アリスって言うだよね。法国のって呼ばないでいてくれると嬉しい。さもないと.......」
「な、なんですの.......?」
私は言葉を一旦途切れさせタメを作る。
「縦ロール界の異端児、と呼ぶわよ」
真剣な顔で言ってみればルルーフェちゃんは頬を赤くして獣耳が倒れている。
「それが嫌なら私の事名前で呼んでくれると嬉しいんだけど」
「ぅぐぅー!法国の人間に名前を呼ばれるのも異端児と呼ばれる事も大変腹が立ちますわ!」
どうすればいいんですの!! とか言いながら地団駄しているルルーフェちゃん vs ニマニマしそうな表情筋を必死に動かさないように真顔で頑張る私。
さーて多分1分たちました!
(実況は私真顔で頑張っているアリス・ルミエールがおこないます!!
ルルーフェ選手は〜?
腕を組んで片方の足をパタパタ動かしております!!
これは苛立っておりますねー!)
眉間に皺が寄っていますが可愛いです!!
(はー!! 可愛い!!!
っと、これは真顔で頑張らないと私の鼻が大変なことになってきましたね
アリス選手鼻血の予感だー!!
自分で内心思ってて虚しいけれども頑張って鼻血を出さないように務めますよ!!)
5分経過!!
(ルルーフェ選手の獣耳がぺったりと後ろに倒れております可愛いです。
腕を掴んでいる部分の制服の皺がエラい事になってきてる!
そんなにやったら制服の皺取れなくなっちゃうよー?
おっとー? 息が荒くなって参りましたねルルーフェ選手。
私? 私は真顔で頑張ってる)
10分経過です。
(凄いね!!
よく持ってるよ私の鼻!!)
ルルーフェ選手は喉のどこから音が出ているのか分からないけれどグルルルルルッと聞こえる。
よっぽど私に名前を呼ばれるのが嫌らしいようだ!! 地味に傷付く!!
お互いの目を見てどちらが先に音を上げるかになっている気がするこの勝負。
(あ。いかん。鼻がムズムズする)
ルルーフェ選手は何を見たのか目を軽く見張る。
きつく引き結ばれていた口元がゆるっと解れていく。
(お? 降伏するまであと少しか?
その前にティッシュ欲しい。切実に)
ツゥっという感覚と共に、滑り台で滑ってくるかの如き速さで生暖かい物が出てくる。
私は頑張ってソレを下に落とさないように鼻をすする。
「.......。なぜ鼻血を出しているんですの貴女は.......。」
「よっしゃ!! 私の勝ちぃ!! その前にティッシュ頂戴!!ヤバいマジで鼻血が溢れる!!」
「貴女が鼻血なんかを出すからワタクシが負けてしまったのでしょう!? 貴女ハンカチくらい持ってないんですの!?」
憤ってるルルーフェちゃんが可愛すぎて余計鼻血が出る。
上を向くことで鼻血が出る事を阻止する。
「いやー。ハンカチとかいうシャレオツなもんは持ち合わせてないのよねー」
「は? 何言ってるか分からないですわ。でも持ってないという事は分かりましたわ! 仕方ないからこれをお使いなさい!!」
ツンケンしているけど可愛いし優しいルルーフェちゃんは制服の胸ポケットから青いハンカチを出すと私の鼻に押し付けてきた。
ついでのように強引に顔を正面に向けられた。
「鼻血を出した時に上を向いていると血を吐いてしまいますのよ! そのハンカチはもう要りませんからお好きに使いなさい!!」
「はー。可愛いですルルーフェちゃん」
「ワタクシは可愛くありませんわ!! 良いから自分で鼻を押さえなさい!! いつまでワタクシにやらせているんですの!!」
鼻の奥からドロっとした物が流れてきて気持ち悪い。
ルルーフェちゃんのハンカチを有難く借りて鼻を押さえる。
「.......貴女、光魔法の使い手なのでしょう? でしたら癒しの魔法も使えるはずでしょう? でなければ聖女なんて呼ばれる筈が無いですもの。何故使わないんですの?」
一向に止まらない鼻血を心配してなのかルルーフェちゃんが聞いてきた。
私は、んー。と視線をよそにやりながらハンカチで鼻を押さえたまま話す。
「.......残念ながら忘れたのよねー。あははー」
(お? なんか鼻血止まった気配がするぞ? )
ソっとハンカチを離すと血の塊が鼻からズルッと出てくる感覚が。
ハンカチを見ればそこには立派な血のシミと血の塊がある。
(んー.......。この血のシミ普通に洗って落ちるかなー.......。)
「ん?」
なんか静かだなー。と思って前を見たら絶句したかのように固まっているルルーフェちゃんがいた。
「ルルーフェちゃん? どうしたの?」
「ハッ!! 貴女!! 授業はちゃんと聞いていました!?」
「うん。聞いてた。でもわかんなかった」
ルルーフェちゃんに突然両肩を掴まれて質問されたが正直な気持ちを話す事にした。
だってココで嘘言っても仕方ないからね。
「嘘でしょう.......!? あれほど分かりやすい授業だと言うのに.......!! なんで、貴女は分からない所を先生なり近くの生徒等に聞かなかったんですの!?」
(え? そんなん考えなくても当然分かることだと思うんだけど)
「ねぇ、ルルーフェちゃん。私は法国の聖女よ? 誰が質問とか勉強とか教えてくれるって言うの?」
「くっ! でしたら! 法国にいた際に魔法の基礎知識だけでも習ったでしょう!? それはどうしたんですの!?」
「綺麗さっぱり忘れたー」
「忘れたー。じゃありませんわ!! 此処は魔法学園ですのよ!? これからどうしますの!?」
(どうすると言われてもねー。魔法の使い方分かんないし)
「退学?」
私が首を傾げながら言うとルルーフェちゃんに掴まれている両肩がミシミシと音を立て始めた。
「いたたたたたたたっ!!! 痛い痛い痛い痛いルルーフェちゃん爪!! 爪刺さってる!!」
私が本気で痛がっているのが分かったのか両肩を掴んでいる手の力を緩めてくれた。
「いいですわ。ワタクシが勉強を教えると致しましょう。光栄に思いなさい!!」
「え?あ。うん。ありがとう?」
「なんで疑問形ですの! そこは素直に喜ぶのが筋というものでしょう!!」
うん。勉強を教えてくれるヒトをゲット出来たのは素直に嬉しい。
(あ、そういえば.......。これ聞いとかないと)
「ねぇ.......。身分証の指輪ってさ.......石の色とか、変わることってある.......?」
「何を言っているんですの? 指輪の石の色はそのヒトの魔力の色ですわ。変わる事なんて無いに決まっているでしょう?」
ルルーフェちゃんがキョトンとしながら言ったその言葉に私は絶望した。
「マジかー.......。」
「どうしたんですの?」
「ううん。大丈夫。なんでもない」
訝しげな表情をしたルルーフェちゃんは何か思いついたかのような顔をすると私の指輪が嵌っている方の手をとる。
ふわー! ルルーフェちゃんの手柔らかい!! っじゃなくて!!
私は指輪を見られまいと手を引こうとしたがルルーフェちゃんの方が力が強くしっかりと指輪の石の色を見られてしまった。
「この色.......!!」
ヤバい。
「何処ですり替えたんですの!?」
「そっち!? あー.......。机の中に入れて気が付いたらこの色になってたのよ」
「ちゃんと探しましたの!?」
「探したよ。トランクもクローゼットもベッドの下も。全て。でもこれしか無かったのよねー.......。」
あははー。と笑う私の手をルルーフェちゃんは掴むと後ろを向き歩く。
どこに向かうのかと思ったら私の部屋だった。
「もう一度、探しますわよ!」
ルルーフェちゃんは振り返ると私に向けてそう言った。
◇
結果。
私が今付けている指輪以外、指輪は出てこなかった。
消灯時間も過ぎたことなので探すのはお開きになって私はベッドに転がっている。
ルルーフェちゃんが部屋から出ていった時に寝巻きに着替えて寝る準備はバツグンだ。
だけど.......
「あー.......。明日の授業憂鬱だなー.......。」
またあのエルフの先生の冷たい視線に刺されるとか考えただけで胃が痛い。
気が重いなか私は眠りについた。
鼻血って布に付くとマジで取れにくいよね。