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地球と分子に挟まれて  作者: 半ノ木ゆか
第3章 環境
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3-2. 集団と環境

◆あらまし◆


 もっと細かく見てみましょう。


 群集が気温や降水量から影響を受けるように、集団も環境から影響を受けます。また、群集が光環境や土壌をつくるように、集団も環境をつくり出します。この頁では、集団と環境の関係について見ていきましょう。



◆種間競争◆


 異なる種の集団の間には、食べ物、すみか、光、栄養分などをめぐって競い合う種間競争しゆかんきようそう (interspecific competition) が生じます。競走は暮しに必要なものを取り合う関係なので、お互いに不利益をもたらします。


 2種のゾウリムシを用いた実験は、種間競争を示す代表的な例です。ゾウリムシとヒメゾウリムシは、それぞれ別の入れ物で飼うと、どちらの集団もS字型の成長曲線を描いて成長します。しかし、2種を混ぜて飼うと、小型のヒメゾウリムシの方が食べ物である細菌類を効率よくれるので、ゾウリムシの集団は競争に負けて絶滅します。このように、種間競争によって一方の種がもう一方の種を駆逐することを競争的排除きようそうてきはいじよ (competitive exclusion) といいます。


 植物の種間競争では、光や栄養分をめぐる奪い合いが中心となります。このうち、光をめぐる競争では、背丈の高くなる方の種が優位に立ちます。


 例えば、ソバとヤエナリは、別々の畑に植えるとよく育ちます。この2種を同じ畑に混ぜて植えると、ソバは背丈が高くなり上へ伸びますが、ヤエナリは背丈が低く横へ広がります。間もなくソバがヤエナリの上に覆い被さるため、ヤエナリは光が足らなくなって衰退します。



◆捕食◆


 動物は、ほかの生き物を食べることで栄養分を得ています。そのため、喰う喰われるの捕食者ほしよくしや (predator) と被食者ひしよくしや (prey) の関係は、自然界で広くみられる種間関係です。


 自然界では、捕食者が被食者を食べ尽くしてしまうことはほとんどなく、両者は長い間共存できます。生き物がある決まった生き物だけを食べている場合には、両者の個体数は大きく変動します。捕食者は、被食者が増えるとその後を追うように増え、被食者が減ると間もなく捕食者も減ります。


 ですが、捕食者と被食者の間では、このような個体数の変動が必ず起こるわけではありません。捕食者がさまざまな生き物を食べる場合、捕食者の個体数はあまり変らないので、ある被食者の集団密度は常に低く抑えられていることがあります。この場合に捕食者を取り除くと、被食者の集団密度が急激に増えます。



◆入地◆


 群集において、ある種が暮す場所、食物連鎖、活動する時間などの中で占める持場を生態的地位せいたいてきちい (biological niche) あるいは入地につち (niche) といいます。ゾウリムシとヒメゾウリムシは食べ物が同じであるため、生態的地位が近いといえます。そのため、この2種を混ぜ合せて飼った場合、激しい種間競争になり、競争的排除が起ります。


 また、コウベモグラとアズマモグラは、どちらも土の中にすみ、昆虫やミミズなどを食べて、フクロウやタカなどに食べられるので、生態的地位は近いといえます。この2つの種は、箱根山の近くを境に、西側にコウベモグラ、東側にアズマモグラが連なって分布しています。2種の分布の違いは、棲む場所などをめぐる種間競争の結果で、地域的なすみわけ (habitat segregation) が成り立っていると考えられています。一方、似たような暮しをしている幾つかの種が、同じ地域に一緒に棲んでいるときは、多くの場合、生態的地位が種ごとに異なっています。例えば、マレーシアの熱帯雨林では、同じリスのなかまでもミケリスは主に木の上で、ミスジヤシリスは地面の上で暮しています。また、リスとムササビはどちらも葉や果実などを食べていますが、リスは昼間に、ムササビは夜に活動します。



◆密度効果◆


 集団が成長し、集団の密度が増してくると、産まれてくる卵が減ったり、死ぬ個体が増えたりして、集団の成長が抑えられます。例えば、ショウジョウバエの雌1匹あたりの卵を産む数は、入れ物の中の個体数が多くなるほど減ります。


 このように、集団密度が変るのに伴って、集団の性質が変ることを密度効果みつどこうか (density effect) といいます。



◆中枢種◆


 生態的地位が種ごとに違うと、種間競争が和らいで、同じ場所に多くの種が共存できます。ですが、自然界では同じ場所に生態的地位がよく似た種が多く棲んでいることがあります。


 捕食は、そのような状況で競争的排除が起るのを妨げるはたらきをもっています。捕食者がいないと、競争に強い種が他の種を追いやってしまいますが、両方の種に共通の捕食者がいると、競争に強い種の個体群密度があまり高くならないので、結果として競争に弱い種も生き残ることができます。


 海岸の岩場には、フジツボや貝類など、様々な固着生物が棲んでいます。固着生物は、岩の表面のすみかをめぐって競争関係にあります。カリフォルニアの海岸で行われた実験では、捕食者であるヒトデを取り除くと、二枚貝のなかまのイガイが岩の表面を覆いつくしてしまい、ヒザラガイやフジツボなどが大幅に減って、何種かは絶滅しました。自然状態では、捕食者であるヒトデが、競争に強いイガイをさかんに食べるため、そこに空いた場所ができ、多くの種が共存できます。


 食物網の上位にいて、他の生き物の暮しに大きな影響を与える生物種を、中枢種ちゆうすうしゆ (keystone species) といいます。



◆攪乱がもたらす共存◆


 外からの力で自然が大きく乱れて、生き物に影響を与えることを攪乱かくらん (disturbance) といいます。攪乱には、颱風たいふう、洪水、火山の噴火などのように自然に起るものと、森の木を切ったり、農薬を撒いたりして人間が引き起すものとがあります。


 攪乱にも競争的排除を妨げるはたらきがあります。例えば、時々起る河川の氾濫は、そこに暮す生き物にとって大きな攪乱となります。優占している植物が水や土砂に流されることで、開けた場所ができ、そこに競争に弱い種が棲めるようになります。このように、攪乱も捕食と同じように、優占種を間引くはたらきがあるのです。


 攪乱があまりにも強かったり、頻繁に起ったりすると、それによって絶滅する種が増えるため、種の数はかえって減ります。そのため、攪乱が適度にはたらく場合に共存できる種が最も多くなります。熱帯のサンゴ礁でも、颱風による攪乱を適度に受ける場所で、サンゴの種が増えることが知られています。


 このように、攪乱の強さや数が中くらいの時に群集の種の数が増えることを、中規模攪乱説ちゆうきぼかくらんせつ (intermediate disturbance hypothesis) といいます。攪乱が弱い場合は競争に強い種が残り、攪乱が強過ぎる場合は攪乱に耐えられる種だけが残ります。ですから、攪乱の弱い場合と強過ぎる場合では、種の数は同じくらいでも、種の顔ぶれは全く違うことに気をつけなければなりません。



◆食物連鎖を通した間接的な関係◆


 ここまでは、生態的地位がよく似た種が共存する仕組を見てきました。それでは、生態的地位が異なる種はどのように共存しているのでしょうか。群集には、食物連鎖や食物網で表されるように、喰う喰われるの関係が鎖のように連なっています。こうした縦のつながりも群集のつくりを決める上でとても重要です。


 食物連鎖には多くの種が含まれていますが、群集の成り立ちや移り変りを考える上では、生産者、植食者、捕食者の3種類からなる単純な食物連鎖が基本となります。陸と海で形作る生き物は全く違いますが、その役割はよく似ています。


 例えば陸上では、オオカミがアメリカアカシカを食べることでアメリカアカシカが増え過ぎず、結果として植物はアメリカアカシカに食べられ過ぎるのを免れています。また、捕食者は植食者の個体数を減らしているだけではありません。植食者は捕食者がいるとその危険を察知して、植物を食べるのを控えることがあります。オオカミがいるということが、アメリカアカシカが植物を食べるのを控えるという行動の変化にも大きく関っていると考えられています。


 沿岸に棲むラッコは、ウニを好んで食べるので、ウニは大発生せず、ウニの食べ物であるコンブが豊かに育つことができます。こうしたオオカミと植物、ラッコとコンブのように、直接的には喰う喰われるの関りがない生き物の間でみられる影響のことを間接効果かんせつこうか (indirect effect) といいます。



◆自然選択◆


 集団の中に、ある特徴を発現させる遺伝子があって、すべての個体がその遺伝子に関して同じ対立遺伝子Aをもっていたとします。そこに、突然変異によってaという遺伝子、つまり対立遺伝子をもつ個体が現れたとします。


 このとき、対立遺伝子aが、それをもつ個体に悪いはたらきをするために、生きのびたり子を残したりする割合が、対立遺伝子Aをもつ個体よりも低かったとしましょう。その場合は、対立遺伝子Aをもつ個体が残す子の数よりも、aをもつ個体が残す子の数のほうが少くなるので、aは世代を経て集団中から消えてゆくでしょう。一方、対立遺伝子aが、その個体が生きのびたり子を残したりするのに有利な性質をもたらすならば、逆に、対立遺伝子aが世代を経て集団の中に広まってゆくでしょう。


 このように、生きのびたり子を残したりするのに与える影響が対立遺伝子間で異なる場合、相対的に不利な対立遺伝子が消えていったり、相対的に有利な対立遺伝子が集団の中に広まったりすることを、自然選択しぜんせんたく (natural selection) といいます。



◆適応進化◆


 生き物が生きのびたり子を残したりするうえで有利な形質をもたらす遺伝子は、自然選択によって、世代を経るごとに集団の中に広まっていきます。それが十分じゆうぶん長く続くと、その集団のすべてがその遺伝子をもつことになり、その集団は、その環境においてうまく適応するようになります。適応とは、生き物が生きのびたり子を残したりするのに有利な形質を備えていることを指します。


 1つの遺伝子が適応をもたらすこともありますが、適応的な形質の多くは、たくさんの遺伝子がかかわって形作られています。祖先の集団に現れた有利な遺伝的変異が、自然選択を受けて集団の中に広まることにより、長い時間の後に、その種の形質が適応的に進化していきます。一方、不利な遺伝子が現れたときには、自然選択によってそれらが除かれるので、現在の適応が保たれていきます。このような適応をもたらす進化を適応進化てきおうしんか (adaptive evolution) といいます。



◆共進化◆


 相互作用しているいくつかの種の生き物が、お互いに影響を及ぼし合いながら進化することを共進化きようしんか (coevolution) といいます。これは、捕食者と被食者、送粉昆虫と被子植物、寄生者と宿主など、相互作用する種の間で広く見られます。共進化の程度はさまざまで、寄生者と宿主の間によく見られる一対一の緊密な関りから、植物と植物を食べる昆虫の間に見られる多対多の関りなど、さまざまな形があります。共進化が生き物の多様化にどのような影響を与えるのかについては今も研究が続けられています。

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