3-1. 群集と環境
◆作用① 生物群系◆
まず、非生物的環境から群集へのはたらきかけ (作用) について見ていきましょう。
今の地球には、相観によって分けられるいろいろな生物群系 (biome) があります。世界の陸上の生物群系は、大まかに森林 (forest)、草原 (grassland)、荒原 (desert) の3つに分けられます。
・森林 (forest)
・熱帯多雨林 (tropical rain forest)
・亜熱帯多雨林 (subtropical rain forest)
・雨緑樹林 (rain-green forest)
・照葉樹林 (laurel forest)
・硬葉樹林 (sclerophyllous forest)
・夏緑樹林 (summer-green forest)
・針葉樹林 (coniferous forest)
・草原 (grassland)
・熱帯草原 (savanna)
・温帯草原 (steppe)
・荒原 (desert)
・荒漠 (desert)
・凍原 (tundra)
その地域の生物群系がどの型になるかは、暑さ・寒さと雨の量がかかわっています。非生物的環境が、群集のあり方に関っているのです。
赤道に近く、暑くて雨の多いの熱帯では、熱帯多雨林 (tropical rain forest) がみられます。熱帯より高緯度にあって、少し涼しい時期がある亜熱帯では、亜熱帯多雨林 (subtropical rain forest) がみられます。熱帯・亜熱帯でも雨季と乾季がはっきりしている地域では、雨緑樹林 (rain-green forest) がみられます。亜熱帯より高緯度で冬が比較的暖かい暖温帯では、照葉樹林 (laurel forest) がみられます。一方、冬に比べて夏に雨が少い地中海沿岸などでは、硬葉樹林 (sclerophyllous forest) がみられます。更に高緯度になり、特に冬の寒さが厳しい冷温帯では、夏緑樹林 (summer-green forest) がみられます。亜寒帯では、針葉樹林 (coniferous forest) がみられます。
熱帯・亜熱帯で、雨緑樹林よりも雨が少いところでは、熱帯草原 (savanna) がみられます。温帯で、冬の寒さが厳しく雨が少いところでは、温帯草原 (steppe) がみられます。
熱帯草原や温帯草原より雨が少いところでは、普通の植物は育たなくなり、荒漠 (desert) になります。亜寒帯より高緯度の寒帯では、凍原 (tundra) がみられます。
◆作用② 生物群系の水平分布◆
北半球にある日本では、北へ行くほど寒くなります。そのため、南北の向きにはっきりとした生物群系の水平分布 (horizontal distribution) がみられます。
北海道東北部には、トドマツ、エドマツなどからなる針葉樹林が広がっています。東北地方から北海道南部の低地には、ブナ、ミズナラ、トチノキなどからなる夏緑樹林が広がっています。九州、四国から関東までの低地には、スダジイ、アラカシ、タブノキなどからなる照葉樹林が広がっています。沖縄から九州南端には、オキナワジイ、イジュなどが優占し、ヘゴなどが生育する亜熱帯多雨林が広がっています。
◆作用③ 生物群系の垂直分布◆
気温は、標高が100m上がるごとに0.5~0.6℃下がります。そのため、水平分布と同じような生物群系の分布が、低地から高地にかけてもみられます。これを垂直分布 (vertical distribution) といい、標高の低い方から高い方に向って、低地帯 (basal zone)、山地帯 (mountain zone)、亜高山帯 (subalpine zone)、高山帯 (alpine zone) に分けられます。
垂直分布のそれぞれの境目の標高は、赤道に近いほど高くなります。本州中部の太平洋側では、標高約700mまでは低地帯、標高約700~1500mは山地帯、標高約1500~2500mは亜高山帯です。さらに標高が高くなると、高木の森林がみられなくなる森林限界 (forest limit) に達します。それよりも高いところは高山帯で、ハイマツが優占する低木林が広がっています。高山帯では、夏になるとコマクサやハクサンイチゲなどの高山植物の草原 (お花畑) がみられます。
◆作用④ 生物群系の水平分布と垂直分布の関係◆
低緯度から高緯度への生物群系の水平分布と、低地帯から高山帯への生物群系の垂直分布はよく似ています。ですが、日本の高山帯と、日本列島より北にある凍原では、日射量や降水量などが異なるので、生物群系の構成種は異なります。
◆反作用① 生物がつくる光環境◆
次に、群集が非生物的環境にあたえる影響 (反作用) について見てみましょう。
森林は、草原に比べて植生の占める空間が大きく、つくりも込み入っています。森林には、高木、低木、草本などさまざまな植物が生育します。発達した森林では、上から高木層 (tree layer)、亜高木層 (sub-tree layer)、低木層 (bush layer)、草本層 (herbaceous layer)、地表層 (surface layer) などからなる階層構造 (stratification) がみられます。
森林は、いろいろな光環境をつくります。上の層の葉が茂ると、下の層に届く光が少くなるため、森林の中は平均すると下の層ほど暗くなります。ですが、森林の階層構造、日の差し込む向き、天気などの影響を受けるため、光環境は森林内の場所、時刻、季節によって大きく変ります。例えば、高木層の木が葉を広げているところ (林冠) に隙間ができると、下の層まで光が届きやすくなるため、周りに比べて明るくなります。また、冬の落葉広葉樹林では高木が葉を落とすため、夏に比べてずっと明るくなります。
◆反作用② 生物がつくる土壌◆
植物は、土の中の水や栄養を吸い上げて育ちます。そのため、土壌 (soil) は植物が暮すうえで重要な環境要因です。土壌は、岩石が砕けてできた砂などに、落葉や落枝、生き物の亡骸がばらけてできた有機物が混じり合ってできます。落葉や落枝は、ミミズ、ヤスデ、トビムシ、ダニなどの土壌動物やキノコなどの菌類、細菌類などの分解者のはたらきによってばらばらになります。つまり、土壌は砕けた岩石を材料として生き物によってつくられるのです。
よく発達した森林の土壌は、層状になっています。地面に近い一番上には落葉・落枝の層があり、その下には落葉・落枝がばらばらになってできた有機物 (腐植質) と砕けた岩石が混じった層 (腐植土層) がみられます。その下には砕けた岩石の層、さらにその下には砕ける前の岩石 (母岩) の層があります。
このように、群集は非生物的環境から影響を受ける一方で、光環境や土壌などの非生物的環境をつくることもあるのです。