3-0. 環境とは
◆あらまし◆
この章では、生き物と環境の関りについてまとめます。
◆環境◆
生き物の身のまわりにはさまざまな物があります。すこし画面から目を離して、あたりを見回してみましょう。
何がありましたか。家具や乗物、水や空気。光や温度のように触れられないものもあります。それから、あなた以外の生き物もいます。動物や植物だけではありません。顕微鏡越しにあなたの体を見てみれば、そこに小さな生き物が住み着いているとわかるはずです。
生き物の身のまわりを環境 (emvironment) といいます。環境は非生物的環境 (abiotic environment) と生物的環境 (biotic environment) に分けられます。非生物的環境は、その生き物のまわりにある水や空気、光、温度などから成り立っています。生物的環境は、その生き物のまわりにいる他の生き物から成り立っています。
非生物的環境の要素には、次のようなものがあります。
・水
・空気
・土
・光
・温度
・湿度
・pH
生き物と環境は、お互いに影響を受けあっています。非生物的環境から生き物への働きかけを作用 (action)、生き物から非生物的環境への働きかけを反作用 (reaction) といいます。また、生き物同士の働きかけを相互作用 (coaction) といいます (図3-a)。
▲図3-a: 作用・反作用・相互作用
相互作用のなかでも、異なる種の生き物同士が深い関りをもっているものを共生 (symbiosis) といいます (Diller et al. 2020)。共生は、お互いの損得に基づくと大まかに6つに分けられます (図3-b)。
▲図3-b: 共生 (石橋・名和 [2008] に基づき作成。搾取 [exploitation] という用語はMartin, Schwab 2013 に拠る)
両方の生き物に得な共生を相利共生 (mutualism) といいます。
片方の生き物に得で、もう片方の生き物には損でも得でもない共生を偏利共生 (commensalism) といいます。
片方の生き物に得で、もう一方の生き物に損な共生を搾取 (agonism; exploitation; contramensalism) といいます。
両方の生き物に損でも得でもない共生を、中立 (neutrarlism) といいます。
片方の生き物に損で、もう一方の生き物には損でも得でもない共生を偏害共生 (amensalism) といいます。
両方の生き物に損な共生を相害共生 (antagonism) といいます。
それぞれの関係の具体的な例は、3-4で説明します。
◆環世界◆
生き物は、環境の内側でただじっとしているわけではありません。例えば、ヒトは目で光を見たり、鼻で匂いを嗅いだりしています。手で物を握ったり、口で物を食べたりすることもあります。このように、生き物は常に環境を受けとめたり、環境に働きかけたりして生きているのです。
環境のなかでも、生き物が受けとめたり働きかけたりできる世界のことを環世界 (ドイツ語: Umwelt) といいます。環世界を図にすると、下のような環っかになります。これを機能環 (ドイツ語: Funktionskreis) といいます。
▲図3-c: 機能環 (ユクスキュル, クリサート [2005] に基づき作成)
環世界の中で、受けとめたり働きかけたりしている生き物を主体 (ドイツ語: Subjekt) といいます。また、受けとめたり働きかけたりする相手を客体 (ドイツ語: Objekt) といいます。
まず、主体は客体からの刺戟 (stimulus)(註1) を受けとめます。ヒトが受けとめる刺戟には、光、音、匂い、味、熱などがあります。主体の体のうち、刺戟を受けとめる部分のことを受容体 (receptor) といいます。ヒトの体の受容体には、目、耳、鼻、舌、肌などがあります。
次に、主体は反応 (response) して客体にはたらきかけます。ヒトが行なう反応には、免疫反応、運動、分泌などがあります。主体の体のうち、反応を起こす部分のことを効果体 (effector) といいます。ヒトの体の効果体には、免疫細胞、筋肉、分泌腺などがあります。
◆刺戟の受容と反応の目的・恒常性◆
生き物は、刺戟を受けとめたり反応したりすることで、自分の体の中の状態を保とうとします。
例えば、ヒトは体温が下がると、交感神経やいろいろなホルモンがはたらいて、体温を上げようとします。このように、反応がもとの刺戟を打ち消すことで、自分の体の中の状態を保つのです。この性質を恒常性 (homeostasis) といいます。
◆
生き物はどのように環境を受けとめ、どのように環境にはたらきかけるのでしょうか。大きなまとまりから順に見てゆきましょう。