事件起こる
「良かった。全員お怪我は…あるようですがみんな居て良かったです。。」
訓練所から戻って来たオウギ達を受付の女性が出迎えてくれる。その隣には年老いてなお威圧感を放つ男が立っていた。
「げっ⁉︎マスターなんでここに⁉︎。」
その男を見た瞬間リーダー格の男コールが声をあげる。
「何故だと?。本当にわからんのか?。」
睨みを効かせながら男が言う。
「流れとは言え一般人とやり合うことになって殺しでしたらコトだろ!。いざという時のために控えていたが…お前ら負けたのか。」
コールはアルクに肩を貸してもらい歩いている。1人で何事も無かったかのように歩くオウギと見比べればどちらが勝者か一目瞭然であった。
「儂の心配は杞憂だったわけだが…お前らがな。一応チームランクCでウチの中堅なんだが…。あんたがオウギ殿か。」
実はオウギに絡んだ4人チームランクCの立派な冒険者だったのだ。オウギの龍眼で倒れたゲンが拳闘士で、ゲンと双剣の男トーマの手数とアルクの魔法で隙を作りコールの大剣の一撃で決めるといったスタイルで名を上げていた。
「あ、はい、そうです。オウギといいます。ぶらぶら旅をしている最中です。」
突然話を振られるも淡々と自己紹介をするオウギ。
(…儂を前にして全く動じる様子はないか。…成る程コール達では相手にならん訳だな。)
「…今回は儂の管理が行き届いていなかったせいで迷惑をかけてしまった。すまなかった。」
マスターと呼ばれた男が頭を下げる。身内に非があると認められた時には潔く頭を下げる。良き指導者としての姿がそこにあった。
「いえいえ…慣れてますから。それに何かあったんでしょ?。心が揺れていましたよ。」
「そうなのかコール。確かに普段のお前ならガイ取りに絡んだりはしないが…」
「…実は俺たちの顔見知りの兵士が行方不明になっちまってて。散々探したんだが一向に足取りが掴めないんだ。それで苛立っちまって関係ないオウギに絡んじまったんだ。」
コールが語る内容。それは昨日オウギが街の外で聞いた内容だった。街を守る兵士達が消えた。それも全員同時に。
「それなら僕も聞きましたよ。大変ですね、早くなんとかなるといいんですけど。」
「うむ、儂としても早い解決を望むな。ギルドにも街の護衛の依頼がきているがそのぶん他の依頼が手薄になってしまっている。」
と話込んでいると…
『うっ、うわぁぁぁぁぁあ⁉︎。な、なんなんだよ‼︎。こいつら…やめろ!やめてくれ!。…ぐっ…』
叫び声が外から聞こえる。それも1人の声だけでなく至る所から悲鳴が聞こえる。
「なんだ⁉︎何が起こった!。お前らいくぞ!。」
その声に反応してギルドマスター達が外に駆け出していく。
「…それじゃあ僕は失礼しますね。」
その喧騒の中でオウギはギルドをあとにしようとする。オウギとしては面倒ごとの気配がビンビンにする事態に巻き込まれるのは避けたいところだった。裏口からこっそりオウギは外に出て宿に帰るのだった。
『……………』
先程までの喧騒が嘘のように静まり返る。
「嘘だろ…人がいない。」
外に出た冒険者達をまっていたのは静寂。風の通る音だけが響く状況だった。
「そんなバカな!。ほんの少し前まで声がしてただろ!。お前ら少し見てこい!。」
コールが自分のチームのメンバーに指示を出す。結果は分かっているそれでも確かめずにはいられなかった。
「…コール…こっちは誰もいないぞ。」
「こちらもだ。血の跡はあったが…」
帰ってきた声は予想通りの最悪の結果。
「マスター…どうなっちまったんだよこの街は…」
「わからん。分からんが一大事だ。儂も出る。お前らも気合を入れろ。そうだ…オウギ殿も手を…」
オウギにも手伝いを依頼しようと振り返るがオウギの姿はない。
「マスター、どうかした…そうかオウギは行っちまったか。マスター、オウギを縛り付けることは出来ないですよ。あいつは候翼の指輪を持ってました。ノードルマン家の指輪です。」
「なんと…お前らよく生きていたな。それに指輪の持ち主か。ならば協力は見込めんな。」
候翼の指輪は大公が最強だと思う人物に渡す物。当然持ち主は強い。強い者は大抵群れることを嫌い、馴れ合わず、唯我独尊。この世界では強いことはある種の特権を手に入れることにもなる。そんな男に協力を要請することは出来ないという判断であった。
「ならば残っているのは儂とコールのチーム、後は受付嬢が3人。」
「厳しいが…なんとかせねばならんぞ。」