初めての報酬
「買い取りお願いします!。」
ユーリが仕留めた魔物の死体をギルドのカウンターに置く。大きく成長したおかげで普通に置けているが小さいままだったらそれだけで一苦労だっただろう。初めての獲物とあって興奮し1人で運びこんだのだがその顔には疲労の色は見えない。寧ろ尻尾がゆさゆさ揺れている。
「はーい、分かりました。えーと冒険者カードは持ってますか?。宜しければ発行したしますよ。」
ユーリの担当をした受付の女性が尋ねる。常連の場合何も言わずともカードを提示してくる。それをしない目の前の少女はカードを持っていない初心者だと判断したのだ。
「えーと、…オウギ様…」
想定外のやり取りに後ろに控えるオウギの方を振り向くユーリ。
「ユーリ、カードは作っておいた方が良いよ。身分の証明にもなるし、満額で貰えるからね。」
そうユーリに言いながらオウギが懐から紙幣を取り出す。冒険者カードの登録料である。初登録の時だけ千ギルを納める事になっている。オウギはエリザベスの出した原本からカードを出したのでお金を支払ってはいないが。
(…それに今ならアビリティカードにはユーリのモンスターテイマーのことは書かれていない。なるべく早い方が良いだろう。)
作る時にはアビリティカードを提示しなければならないがその後は提示する必要はない。まだ覚醒していないモンスターテイマーの適性を隠すには絶好のタイミングだとオウギは考えたのだ。
「はい、加入金とアビリティカードをお預かりいたしました。それではバンラビット1匹の買い取りですね。」
受付の女性が奥に引っ込む。カードの発行と買い取り金の支払いのためである。しばらくすると
「お待たせいたしました。先ずこちらバンラビット1匹の報酬になります。」
そう言ってユーリ…ではなくオウギの方にお金を出そうとする。奴隷の稼ぎはその主人の物という考えが一般的だからである。しかしオウギは、
「それはこの子が狩った獲物です。報酬を受け取る権利は彼女にあります。」
ユーリの頭を撫でながらオウギが言う。オウギに撫でられた事によりユーリの尻尾の降れは止まるところを知らない。
「畏まりました。此方が報酬になります。」
受付嬢がユーリの方へ手を差し出す。そこに乗っていたのは五百ギル硬貨。奇しくもユーリが初めてオウギに会った時の背中流しの値段と同じであった。
「…1匹で五百ギル。…」
命の危険があるとはいえ実質1分程で倒せたバンラビット。その買い取り額が一生懸命客の背中を流しマッサージした額と同額であることに驚くユーリ。
「続きまして此方が冒険者カードになります。」
受付嬢が真新しいカードを取り出す。そこにはユーリの名前、ランクが書かれていた。ランクはE。
「一定数依頼を受けられますとギルドランクが上がります。その際はお知らせ致します。またランクが上がりますと特典が御座いますので頑張ってくださいね。」
「ありがとうございます!。」
ユーリが礼を言う。そうすると受付嬢が「良い主人で良かったね」と言い次の冒険者の元へ向かっていった。
「よーし、お腹減ったしご飯でも…」
無事に買い取りが終わったのでご飯を食べに行こうとするオウギ。しかしユーリがオウギの袖を引っ張る。
「オウギ様!。どうぞ!。」
ユーリがオウギに貰ったばかりの五百ギルを差し出す。
「ん?どうしたんだい?。」
「え、…あの、稼ぎは一旦納める事になっていると習ったので…」
それはオウギに買われる前の話だった。1日かけて稼いだお金は一旦主人に納める。そこから主人がユーリに渡すのは雀の涙ほどのお金。それでご飯を食べなければならなかった。
「…さっきも言ったけれどそのお金はユーリが受け取る権利がある物なんだ。僕に渡す必要なんてないんだよ。ユーリが使いたいように使えば良い。あ、でも貯金は必要だけどね。」
ユーリの話を聞き前の主人の搾取を悟ったオウギ。ユーリにお金を受け取る権利があることを説明する。
「…私の使いたいように…」
「分かりました。このお金は受け取らせていただきます。」
何かを考えるようだったユーリが五百ギルを大切にしまう。
「…オウギ様、あの、無礼は承知なのでが…預かって貰ってもいいでしょうか。落としてしまいそうで。」
しまった五百ギルを服に入れようとするが入れるところが見当たらないユーリがオウギに尋ねる。
「あぁ、それなら別に良いよ。しっかり預かってあげる。必要な時は言ってね。」
「はい!。」
「よーしじゃあユーリの初討伐祝いでご飯を食べに行こう!。」
オウギとユーリは2人で並んで街を歩いていくのだった。