心を癒す
「はぁはぁ、…あの、オウギ様。魔物を倒したのはいいのですが、…」
倒した魔物を見つめながら不安そうな顔をするユーリ。無論1人で魔物を討伐出来たことは嬉しい。確かな成長を感じられる。しかしユーリの本当の目的はその更に深淵、眠る適性の解放。しかしそのような感覚は一切ない。忙しなく揺れる尻尾が不安を如実に表していた。
「うん、いい感じだね。大きくなった体を持て余さずに使いきれている。膂力も上がっているから短刀に切り替えていいかもしれない。」
「いえ、私が言いたいのは…」
「あとは少し大振りになってしまったところかな。もう少し動作を小さくした方が…」
「オウギ様!。…私はこれでいいんですか?。何も変わった気がしません。このままでは…私は役立たずです。」
オウギの言葉を遮るようにユーリが叫ぶ。その目には涙が浮かんでいた。役に立たなければ…捨てられる。オウギと過ごしている日々でオウギがその様なことをする訳がないということは分かっているつもりだった。それでも…何も出来ないユーリが自らを売り奴隷になった時、家族は止めることはなかった。実質…捨てられた。その経験がユーリの体を、心を蝕んでいた。
「…そうだ、もっと、もっと魔物を倒せば…きっと。待っていてくださいオウギ様。…私はいらない子じゃない。」
呟くように言うとユーリは歩き出そうとする。
「…離してください…オウギ様。」
歩き出そうとしたユーリ。しかしその体が動くことはなかった。見えない何かに動きを制限されていた。
「その縛りは『献身の宝鎖』。使用者の大切な者を守る魔法。危険から遠ざける魔法。その先にはDランクの魔物がいる。ユーリにはまだ無理だ。そしてその拘束力は…どれだけ大事にしているかに依存する。」
静かに語るオウギ。どれだけ語るよりも全く身動き出来ない事実がユーリの心に響くと考えてのことだった。
「…っ、…オウギ…様。オウギ様オウギ様オウギ様!。」
オウギの言葉を聞き全く動かない自らの体のことを考えオウギの気持ちに気付く。先程捨てられる恐怖から目尻に溜まった涙が嬉しさで零れ落ちる。
「さぁ、おいで。モンスターテイマは未だ謎の多い適性だ。少しずつでいい。ゆっくり進んでいけばいいんだ。」
オウギがユーリに向かって手を伸ばす。
「…はい、オウギ様。」
動きが封じられていたのが嘘のようにユーリの体がオウギの方へ動き出す。
それはまるで目の前の男の元が最も危険から遠いと理解しているかのようであった。そして2人はお互いの手の感触を確かめるように握り合い街へと帰っていった。
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「…お嬢様いいのですか?。オウギ様の元へ参らなくても。」
「えぇ、いいのです。オウギ様は今あの子の事を大切に想っています。もちろん何かあれば手をお貸ししますが…それは求めておられないご様子。さすれば私たちは見守るのみです。」
「…御意。」
「…あと、その…あの時は勢いでお会いしましたが…改めてとなると少し緊張しますわ。」
「…………」
「何か言いなさい!。」
「それではこれにて失礼致します。」
「エリック?。エリック⁉︎。」
エリザベスの葛藤は続く。