オウギ、街に入る
早速評価、ブックマークをしてくださった方がいらっしゃったようです。励みになります。ありがとうございます。
あと全く関係ないですが今日はラグビー日本代表戦、ニュージーランドとですね。怪我人が多いですがだからこそ新戦力に期待したいと思います。
「ふぅ、ここか。やれやれやっと着いたな。」
オウギの前には長蛇の人の列。その先には大きな門が構えられており人々はその門に並んでいた。
「長い列だな。…他の場所ではこんなことなかったのに。」
愚痴るオウギ。それもそのはず。本来街に入る門では入る為の審査は有るものの手で魔法の球に触れるだけのもので問題がなければ迅速に終了する。それがこんな長蛇の列になっている。それは何か問題があったことを意味していた。
「あの、すいません。何があったかご存知ですか?。」
オウギは前に並ぶ商人風の男に話しかける。大きな荷台を馬に引かせていた。
「あ?。…あぁなんか分かんねーけどさっきから全く進まねーんだよ。こっちは急いでるってのによ。」
商人はイライラしたように靴を地面にトトンッと鳴らす。載っている物にもよるが商人にとって時間は何ものにも変えられないものである。必要な時に必要な物を必要な場所へ運ぶこと。その為に状態を仕入れ、伝手を駆使する。それが一流の商人と言われる者だった。その点この男はこの状態を甘んじて受け入れてしまっているので一流とは言えないだろう。
「…申し訳ありません。この球に手を触れてください。」
話をする2人の元へ兵服を纏った男が2人近づいてくる。その手には透明な球が持たれていた。
「あ?…それよりもこの列なんなんだよ。いつになったら街に入れるんだよ。」
その2人組に対し商人の男は横柄な態度で質問をする。
「それが…本来この門を警備していた兵士が全員消息を絶ってしまって。実は私達もこの街の自衛団みたいなもんなんです。とりあえずこの球に反応しない人は入ってもらっていってるんですけど。」
「…それならそろそろ入れるってことですか?。」
球に手のひらを当てながらオウギが言う。球に変化は見られない。
「はい、そうですね。もう少しすれば動き出すと思います。」
「…ったく、早くしてくれよ。」
その言葉を聞き悪態をつきながらも馬に近寄り前進の準備をする男。
「そうですか。頑張ってくださいね。」
一方オウギはにこやかに自衛団の人々を見送る。
「おっ!。動き出したか。そんじゃあな兄ちゃん、あばよ。」
「あ、はい、さようならです。」
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「…良い宿だー。運が良かった。温泉付きとはね。」
湯上りなのか頰を若干赤く染めたオウギ。シングルサイズのベッドに勢いよく横たわる。
「ゔへ〜〜〜〜…。疲れたなー。久し振りにベットで寝られる。」
大きく息を吐き全身から力を抜く。そうすることで疲れが体から抜け出ていくような感覚になる。
「…………。…おっと、危ない危ない寝るとこだった。その前に…『比類なき穴』。明日持ってく戦利品の整理しないと。お金が無くなっちゃう。」
オウギが指で宙に円を描く。すると突如空間に黒い穴が開く。オウギはそこに右手を突っ込みしばらく物色を続ける。
「…これでいいか。これだけあれば1週間分の滞在費にはなるだろう。」
穴から出てきた右手には草と、何かの角が握られていた。
「…うーん、それにしても消えた兵士か。どうしたんだろ。」
『コンコンッ!』
「失礼します。オウギ様はいらっしゃいますか?。」
「あ、はい。どうぞ。…」
オウギが指でバツを描くと比類なき穴が閉じ何もなかったかのようになる。それと同時に室内に人が入ってくる。
「失礼致します。私エリザベス・ノードルマン様のお使いで参りました。エリックと申します。」
黒い服をしっかりと着こなした青年。かっちりと固められた髪に聡明さを感じさせる目をした男だった。
「…エリザベス様?。あぁ、あの時の。それで一体どの様な御用件でしょうか?。」
以前山賊に襲われている所をオウギが助けた少女。この地方を治め大公とまで呼ばれる人物の娘。その使者であった。
「私が仰せつかったのはこの書面を手渡すこと。後はこの指輪をお渡しすることです。」
エリックが胸元から封筒と指輪を取り出し、オウギに手渡す。
「あ、はぁ、ありがとうございます。えーと…」
「それでは私はこれで失礼します。」
エリックは一礼をして部屋をあとにする。
「…俺がここに居るってどうやって知ったんだろ。」
不思議な気持ちのオウギだけが残った。