奴隷商の末路
「な、なんだったんだ。さっきの奴は…」
オウギに奴隷の少女を売り渡した商人は自らが水溜りの上に座っていることに気づいた。先程の男が発した魔力。それにより死という具体的なイメージが鮮明に映し出され失禁していたのだ。
「…くそっ、わずか数日で5000万ギルを用意出来る程の男だったとは…!。もう少し釣り上げておけば…。」
「…ふふ、だが元々の借金は既に回収し終わっていた。丸々5000万の利益と考えれば…。この金でまた馬鹿な子供を買えばいい。無限に繰り返し俺は巨万の富を得るぞ。」
男の頭に数々の計画が浮かぶ。それによって何人もの奴隷が犠牲になるだろうがそんな事考えていない。
「さて、そうなると無駄にする時間はないな。次の奴隷を…」
『チキリ…』
建物を出ようとした男の首元に冷ややかな何かが当てられる。それと同時に背後に人の気配がする。
「…な⁉︎…」
「声を出せば殺す。振り返れば殺す。足を動かせば殺す。…ゆっくりと目を閉じろ。」
驚き振り返ろうとする男。しかしその機先を制するように要求が突きつけられる。
「…!。…⁉︎⁉︎…‼︎?。」
意味が飲み込めず振り返ろうとしてしまう男。
『…ピッ!。』
「‼︎‼︎‼︎ーー‼︎」
その瞬間首に当てられた刃が微かに動き薄皮一枚断ち切られる。暖かい血が流れる感触が男の体を冷やす。
「今のは足を動かそうと筋に力を入れた罰だ。次はない、その首を搔っ切らせてもらう。」
「…………。」
今度こそ体の動きの一切を封じられた男。無言で立ち尽くすほかない。
「そうだ、大人しくしろ。今からいくつか質問をする。はいの時は右目を開けろ。」
「お前は奴隷商人か?。」
「パチリ…」
「借金奴隷を扱っている。」
「パチリ…」
「その中には既に…借金を返済し終わっている者がいる。」
「……ごくっ…」
その質問の答えは、はい。しかし男は虚偽の報告をする。
「…法律で禁止されている奴隷への過剰な暴行を加えている。」
「…………」
「奴隷を譲渡する際法外な値段で販売している。」
「…………」
虚偽の報告を続けた男。この場をどうするかだけを考えていた。
「最後だ。まだ…生きていたいか?。」
「‼︎。パチリ!。」
突然の自分の命に関わる質問に遅れながらもはい、と答える男。その様子を見た何者かは男を突き飛ばす。怒りを覚えたが解放された安堵の方が大きい。
「…反吐がでるな。自分の命のことしか考えていない。お前のような奴は…殺してしまいたくなる。」
「…はぁはぁ、何を…偉そうに!。人は誰しも自分の命を大事にする。それが人間だろう。」
男を拘束していたのは全身を黒い装束で包んだ男…まだ若そうな男だった。
「その為に他人の命を弄んでもいいことにはならない。」
「うるさい!。そもそも貴様は何者なんだ!。突然背後から…現れて!。」
「…今の私は何者でもない。まぁ以前は『影になる者』と呼ばれていたが。」
「…影になる者だと⁉︎。ここ数年…行方をくらませていた伝説の暗殺者!。ど、どうだ!、俺の護衛にならないか!。金ならある、望む額を用意しよう。」
「…その金も奴隷達からむしり取ったものだろう。…反省しない奴だ。…」
「…代償をその身をもって味わうがいい。」
「『度重なる悪夢』。」
「何を…する…つ………」
「これからお前が見るのは記録。それは1人の男の体験を元にしている。その男は身1つで魔物の氾濫を討伐した。ある1人の少女を助けるためにだ。その全ての苦痛を味わえ。」
「…がっ⁉︎…が、こ、殺してくれ…俺は…」
魔法を受けた男は意識を呆然とさせながらも口からはよだれを垂らしうわ言を呟く。それは余りの苦痛に自死を望む者だった。
「安心しろ、その魔法は全てを体験すれば勝手に終わる。…もっとも彼は2日間戦い続けたそうだが。」
「…そ、そんなぁ、…まだまだ…ぐわぁ!…腕が…脚が………」
「…それでは私は失礼する。お嬢様が呼んでいる。」
「ま、待て…この…魔法……を!。ぐぎゃあぁぁ‼︎。」
「ここか、邪魔するぜ。俺はガロウ。ギルドマスターの命によりって…」
「がががが…殺してくれ。…やめろ…回復するんじゃない。もう、終わってくれ…もう戦えない…」
ガロウが建物に入った時そこには床で転げ回る奴隷商の男の姿があった。床は男の排泄物で汚れ、掻きむしったのであろう髪の毛が散らばっている。
「…何だこれは。何を…見ている?。幻覚…だとしてもこれは…」
「…俺が悪かった!。全て…を認める!。違法な…取引…やめてくれ!。その集団に突っ込むなぁぁぁぁぁぁ…」
「…まさか『度重なる悪夢』か?。しかしこれは暗殺者と催眠術師、2つの適性が9以上でないと使えない魔法。…知る限りではあいつだけだが…あいつは行方不明のはず。」
「…まぁいい。しょっ引いていくか。」




