2日後、氾濫が終わって
「…結局この2日間でこちらにやってきた魔物は10体。…恐ろしいことだ。」
ドーマが双眼鏡で辺りの警戒をしながら言う。ポツポツと魔物の姿は確認できるもののその数はいつもの数といえる数だけだった。その側には冒険者たちが多数控えているが皆傷などはなく良い状態であった。
「…マスター、俺は自分のことを結構強いと思ってたぜ。だがそれは違った。あの男は…強い。それこそ一騎当千。この俺が助けに入る余地もなかった。」
ガロウが言う。ガロウはその実力を見込まれ魔物の氾濫の真っ只中のオウギへの補給及び援護を命じられていた。しかし彼が目にしたのはえぐり取られた魔物の死体、凍りついた地面、焼け爛れた木々。激しい戦闘の跡であった。Aランクのガロウも身が竦んだほどだった。
「俺は旅に出ようと思う。どこまで行けるか分からねーけど、…高みを見せてもらった。自分が行けるところまで行ってみてぇ。」
それでもそのオウギの姿に対し悲観的になることなく更に上を目指そうとする。その気持ちの持ちようこそ強さの証明でもあった。
「そうか、お前が居なくなるのは厳しいが…冒険者ギルドマスターとしては強くなりたい男を縛り付ける訳にはいかんな。…待ってるぞSランクになって帰って来い。」
「…そういえば彼は…」
「あぁ、あいつなら用事があるってギルドに行ってから直ぐに出て行ったぜ。多分話してた奴隷の件じゃねーか?。」
「そうか…、ガロウ、この街を出るお前に最後の依頼がしたんのだが…」
「分かってる。オウギの取引相手の奴隷商を調べる。どう考えても1人の奴隷で魔物の氾濫での褒賞の殆どを使うのはおかしいからな。」
「証拠が揃えば…いや、最悪本人の自供だけでもいい。潰しても構わん。」
「分かった。んじゃ行ってくる。」
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「はぁ、はぁ、はぁ、」
オウギは息を切らせながら走っていた。ある目的の為に。その少女は全てを諦めた目をしていた。生きることの理由を見失っていた。そんな目をしながらもオウギのことを慮ってくれた。オウギが助けたいと思うにはそれで十分だった。
『バンッ‼︎』
「うおっ、…なんだよあんたか。へへへ、約束の金は用意できたかい?。残念だがもう待てんよ。こいつは貰い受けるぞ?。」
突然ドアを開けたオウギに驚いたもののその正体を知るや下卑た笑いを浮かべオウギから預かる治癒の丸薬を見せびらかす。治癒の丸薬がもう自分の物になると疑ってもいないようだった。それはオウギの服装にも原因がある。オウギの服はいたるところに穴が開き汚れていた。
「あの子はどうした?。」
「なんだ?、謝るのかぁ?。約束したけど助けれなかったよぉ、ってな。ふははははっ!。」
「…あの子はどうした?。」
「…っち、奥の部屋だ。精々別れを惜しむんだな。」
奴隷商人の目を見てもう一度尋ねるオウギに気圧され男が答える。
「…ここか。」
『ギィィィィイ…』
錆びついたドアを開けるとあの少女の姿があった。鎖で繋がれてはいるものの怪我はないようにみえる。
「へへへ、俺は約束は守るんでね。手は出してないぞ。2日間手を出さないだけで100万ギルの丸薬が手に入るんだ安いものさ。」
「オウギ様…ありがとうございます。オウギ様とお会いできてよかったです。」
オウギの姿を見た少女は特に悲観することなく言葉を口にする。元より自分なんかの為に5000万もの大金を使わせる訳にはいかないと思っていた。最後に会いに来てくれただけでも感謝の念で一杯だった。
「僕は約束を破らない。」
オウギはそう言うと懐に手を入れる。
「…受け取れ。」
そこから取り出した紙を奴隷商人に渡す。
「なんだこの紙切れは。こんなもの貰ったところで期限を延ばしたりは…」
「…それ以上口を開かない方が良い。これは正当な取引のはずです。」
「…何を言って…コレは⁉︎。あんたどうやって……。」
そこに記されていたのは5000万ギルと言う金額と冒険者ギルドがそれを保証するというもの。
「なんだ、あんたは一体…いや、そんなことはどうでもいい。実はな、利息がまた上がったんだ、更に1000万ギル払ってもらおうか。」
オウギのことをどこからの貴族とでも思ったのか更にふっかける奴隷商人。
「…そんなあんまりです!。5000万ギルだって…」
「煩いぞ奴隷!。俺は今こいつと話をしているんだ。…それでどうする?。今ならこいつであと一日だけ待ってやるぞ?。」
そう言い治癒の丸薬を手に持ち振る。
「…勘違いしないでください。」
オウギが静かに、しかし有無を言わせむ口調で語り始める。
「は?」
「僕は…力づくで彼女を奪って…そしてあなたの命を奪ってもいいんだ。」
言葉に魔力の塊を乗せて商人へと伝えるオウギ。商人は明確な死のイメージが湧き上がり言葉が出ない。
「なななななななな…」
「5000万で良いですよね。」
「…あ、あぁ、それで良い。ささっと出て行け。」
「それじゃあ失礼します。」
そう言うとオウギは少女をお姫様抱っこして建物を出た。少女を縛る鎖は解き放たれた。




