オウギ、指輪を示す
「…ここだな。」
先程のやり取りをした後オウギが向かったのは当初の予定通り冒険者ギルド。いつもはまばらに人がいる程度の建物だが今は人が押しかけている。魔物の氾濫の討伐に参加しようとする冒険者、街の今後を憂いる一般人など雑多に混雑していた。
「すいません、通してください。」
その中でオウギは中に割って入っていく。詳しく状況を知るにはできるだけこのギルドの有力者の近くにいなければならない。
「…あ?なんだ兄ちゃん?。…見たところ商人みたいだが…情報は後から聞けばいいだろ。今は重要戦力の選定中だ。」
中ほどに厳つい男達が立ちはだかる。これ以上人を進ませぬようにと壁を作っていた。
「…あの僕をここから奥に入れてください。」
「あのな、この中は今回の魔物の氾濫でメインの戦力となるべきBランク以上の冒険者しか入れないんだ。Cランクの俺たちですら入らんのだがらお前みたい奴が入れるわけがないだろ。」
現在氾濫の制圧で中心を担うことになる高ランクの冒険者が中で戦略を練っている。そこに入れろと言ってきたのはとても冒険者に見えないオウギ。当然バカにしたように断る。
「…それならこれをこのギルドのマスターに見せてください。」
男の態度を見たオウギは胸元からある包みを取り出す。
「あ?。…あのな…こっちはそんな暇じゃないんだよ。そもそもギルドカードはどうした?。それを見せてみやがれ。」
「…僕はガイ取りなので冒険者ギルドには所属していません。」
「はっ、…そんな奴の仲介をするわけ…」
「僕も急いでいます。…お願いします。」
オウギは埒があかないと思い魔力をピンポイントで男に向ける。
「な⁉︎…お前…。…分かったそこで待ってろ。保証はできんぞ。」
自分に向けられた魔力の質。更に周りの冒険者に異変がないことから精密な魔力もコントロールを行なったことからオウギの実力を測り知り仲介を引き受ける。
「…お願いします。」
『ドンドンッ‼︎』
「入れ!。」
男の声が響く。この部屋を仕切る男、ギルドマスターであった。まだそこまで年老いているというわけではなくまだ現役でやっていそうな見た目。金髪碧眼の端正な顔立ちに一筋の傷跡の男だった。
「失礼します。マスター、マスターに会わせろという男が1人来ております。」
「こんな時にか。その男のランクは幾らだ。」
報告に来た冒険者の方を胡乱そうに見ながらいう。
「それがガイ取りらしくてギルドカードは持っていませんでした。」
「そんな男の相手をしている暇はない!。今回の氾濫は大規模だ。恐らく応援を待つ籠城戦になるだろう。戦力の分配をせねばならんのだ。」
中央に置かれた机の上に大きな地図が広げられ各点にマーカーが置かれている。
「ガロウ、お前にはこの地点に冒険者30人と共に向かい展開してもらう。おそらく5日は持ちこたえてもらうことになる。」
報告に来た冒険者にもう用はないと同じく部屋の中にいた冒険者に話しかける。
「…長いな。それならBランクを4人、Cランクを10人以上もらっていくぞ。あと食料と回復薬もだ。」
ガロウと呼ばれた冒険者。赤い長髪をお尻の辺りまで伸ばした目つきの鋭い男。その背中には大剣が担がれていた。
「分かっている。…うむ、暫くは節制を要請せねばならないな。…ん?、なんだお前、どうしてまだいるんだ。」
「あの…さっきの話なんですけど、これを渡してくれって。」
オウギから託された包みをマスターに差し出す男。
「…ったく、お前にもガロウと共に前線に出てもらうぞ。…これは。」
愚痴りながらも包みを開くマスター。その顔は驚愕の表情へと変わる。
「おい!。これを持って来た奴…いや方は何処にいる。もしかすると…救世主になるかもしれんぞ。」
「なんだよマスター、何を…」
「…候翼の指輪だ。…現物をこの手に持つのは初めてだ。」
ギルドマスターの手には包みから出された指輪。候翼の指輪だった。オウギは目立つことを避けてきたがあの少女を救うため指輪の力を使うことにしたのだった。
「なんだって⁉︎。候翼の指輪だって。確か当代はまだ…」
「あぁ、俺の記憶ではまだ任命されていなかったはずだが。任命されていたのか。おい、早くこれの持ち主を呼んで来るんだ。」
「は、はい!。」




