男の名はオウギ
「ノージョブです‼︎。」
男が発した言葉によって場の空気は凍りつく。
「あ、いや、大丈夫です。」
慌てて本来言おうとしていた言葉を放つ男。
「ノージョブ?。モリスそれはどういう意味ですか?。」
生粋の箱入り娘であるお嬢様は言葉の意味がわからず御者を務める男に尋ねる。
「…………。」
しかし御者の男は何も答えない。御者の男はノージョブと言う言葉の意味を理解していたのだ。
「ノージョブと言うのは仕事をしていないって事ですよ。僕はふらふらとあてもなく流れる身ですので。」
その光景を見かねた青年が自ら答える。この時代において仕事をしていないというのは致命的であった。人々は自分に適性のある仕事を懸命にこなし日々生活していたのだ。それはある魔法のおかげであった。人の適性を調べる魔法。それによって才能の無駄遣いが減ったとされる。
「仕事をしていないですか?。…失礼ですが…適性のお仕事はなんなのでしょう?。…よろしければ適性のお仕事を紹介いたしましょうか?。」
青年の言葉を聞きお嬢様が尋ねる。青年が仕事に就いていないのはたまたま仕事に巡り会えなかったからだと考えたからである。
「僕は適性職業が無いんですよ。どれも…基準に達していないんです。」
適性値は10段階あり5からその仕事をするべきとされる。全く適性なしの職業は魔法で表示されない。
「まぁ…そんな、あれほどお強いのに?。冒険者などをなさってはいかがですか?。」
冒険者。今回のような盗賊の討伐や、魔物の退治、護衛など多岐にわたる任務をこなす強さが全ての職業である。
「冒険者になろうとすれば…カードを提示しないとダメなので。それに戦闘系の適性もないのですよ。今の生活で満足していますし、無理に定職に就かないのです。」
カード。人の適性職業を見る魔法によって表示された情報を示したカード。アビリティカードと呼ばれるそのカードは職業に就く際その人物の適性を調べる他、職歴なども見れる。青年はそのカードを見られるのを嫌がっていたのだ。
「お嬢様…そろそろ。お時間が…」
御者が本来の目的を忘れるお嬢様に言葉をかける。
「そうでした!。申し訳ありませんが今回はこれで失礼させていただきます。お礼は後ほど必ずさせていただきます。…お名前を伺ってよろしいでしょうか?。…あ、私はこの地方の領主が娘、エリザベス・ノードルマンと申します。」
お嬢様…エリザベスが自分の名前を名乗り青年の名前を尋ねる。お礼をすると言っても名前が分からなければ時間がかかってしまうかもしれないと考えての行動であった。
「領主の娘…大公ザラス・ノードルマン様の娘様でございましたか。初めてお目にかかります。僕はオウギといいます。」
「…オウギ様… 。確かに記憶させていただきました。それでは私は失礼させていただきます。」
青年、オウギの名前を聞き心に刻み込むエリザベス。そして馬車に乗り込む。
「…それでは失礼します。」
御者を務めるモリスもオウギに一礼をし馬の手綱を握る。
「はっ!。ガラガラ〜」
馬車は勢いよく走り出したのだった。
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「ふぅ、びっくりしたな〜。まさか大公様の娘様だったなんて。」
「カードか…。見せれないよな。」
オウギの手に握られるカード。
オウギ
18歳
適性職業
勇者 level3
魔導師 level3
剣聖 level3
日替わり
日替わり
???
???
「…まぁなんとかなるか。楽しく生きていこう。」