不穏な報告
「…凄いね、本当に…出来てしまうなんて。」
トーチカは目の前の光景に目を奪われていた。ノードルマン領にやって来て発覚した住居がないという問題。それはオウギとアルタイルの活躍により解決してしまった。立ち並ぶ新しい家々。村人達もそれぞれが既に荷物を運び入れている。移住は完璧に終了したのだ。
「僕が出来るのはここまでですから。これからは皆さんにお任せするしかありません。」
「充分さ。…いやはや…世界は広いね。…私も殻を破ってみるとするよ。アルタイル殿、冒険者への登録は明日にするのかい?。」
「えぇ、そうですね。前もって数人登録する事は伝えてあります。明日登録してもらってから依頼の受け方やギルドでの振る舞い、戦い方の適性なんかを判断しようと思っています。」
「なら悪いけど1人追加でお願いするよ。私も冒険者をやってみよう。この街に移住した以上私はもう村長じゃないからね。食い扶持ぐらいで自分で稼がないと。」
「…強いですね。…貴女ならすぐにランクを上げるでしょう。鬼人族の名が世に轟く日もそう遠くないでしょうね。」
アルタイルはトーチカの実力を見抜いていた。鬼人族の覚醒者。かつては万の兵を殺すと言われるほど名を馳せた一族である。
「と言っても私はそこまで強い適性はないけどね。それに片腕さ、でもまぁ、若い奴らのサポートぐらいはやってみせるよ。」
トーチカの適性は奇術師と調香師。どちらの後衛に向いた適性である。
「頼れる存在が一緒にいてくれるのは新人には嬉しいものですよ。」
「オウギ殿、実はオウギ殿の耳に入れておいて欲しい情報があるのです。」
オウギとザラスは2人で街の外れにきていた。
「最近になって様々な場所で魔物が惨殺されております。」
「惨殺ですか?。」
「えぇ、素材はそのままにただ殺してあるそうです。その殺し方も一種類ではなく様々な方法だとか。」
「素材も取らずにですか。それは一体何の為に…」
「それが分からんです。分かっているのは初めて確認された時から徐々に規模が大きくなっている事と、目撃者の証言として戦っていたのは1人。後数人がそれを観察していたという情報があるだけなのです。」
「1人ですか。」
「最後に確認されたその現場ではBランクの魔物の群れが駆逐されていたそうです。」
「私は嫌な予感を感じております。オウギ殿に限っては私の心配など無用とは思いますがどうかお気をつけくだされ。」
「僕の力も全てに勝てる訳ではありません。ご忠告はありがたく頂戴しておきます。…目的も無く魔物の大群を狩るか。周りの住人の為なら良いですが…他に…何かを試してる可能性…。その討伐された魔物の順番などは分かりますか?。」
「順番ですか、…恐らく正確さは欠くでしょうな。発見された順になりますから。ですがある程度の推測は出来るはずです。情報を集めさせましょう。」
オウギの言葉を聞いたザラスが部下に指示を出す。
「通信の魔導具で情報を集めさせました。程なくして連絡があるでしょう。オウギ殿の考えを聞かせて頂いても?。」
「…もし僕の考えが正しければ何かの実験をしているじゃないかと。徐々に出来ることを増やしその確認をしているのなら魔物の素材を集めないのも理解出来ます。なので順番が徐々に強くなっていれば…」
「その仮説が立証されますな。…実験…腕試しと考えても良いかもしれませんな。それも個人ではないとなると…なんとも…」
「えぇ、どのような意図かは分かりませんが。」
「いずれにしても不気味ではありますな。…良くないことでなければ良いのですが。」
「僕達には祈ることしか出来ませんね。」