グラストと魔王
『…ふっ、柄にもなく昂ってしまったか。だが仕方ないな、久方振りの敵なのだから。』
ある館の中。大きな椅子に腰掛けたグラストはグラスに入った液体を飲む。
『…ダンナさまがちをおながしになるなんてイツいらいでしょう。』
側に立っていた執事服の魔族が空になったグラスに液体を注ぎながら言う。
『…さぁな、魔王とやり合ったと時以来か。だが…あれは敵ではないからな。それを排すると…遠い昔になってしまう。』
グラストが昔を懐かしむように話す。既にオウギとの戦いで自ら傷つけた体の傷は癒えている。
『…ん、…客人だ。これは…下がっていろ。お前を失うつもりはない。』
グラストが来客を察知する。そして側に控える魔族に下がっているように伝える。今から訪れる者を目の前にした時壊れる可能性があると理解しているからである。
『…かしこまりました。それではわたくしは…しつれいします。』
グラストの言葉を受けて魔族はその姿を消す。自らが仕える主人は無闇矢鱈に命を下す者でない。それは逆に命令には明確な意味があるということ。ある種の信頼であった。
『…ふぅー、…久しぶりだな、魔王よ。』
魔族の男が消えた次の瞬間部屋の中に1人の少女が現れた。赤い髪のその少女は顔に怒りの表情を浮かべている。魔王、全魔族最強の存在である。
『…グラスト!。お前、オウギと戦ったのか!。』
魔王の言葉一つ一つに強力な魔力が込められている。最下層の魔族ならばこの場にいるだけで体が破裂して死んでしまうだろう。
『…戦ってはいないさ。少し…試したんだ。』
『お前が相手ではオウギはまだ手も足も出ないだろう!。』
『…まだ、か。…本当に期待しているのだな。』
『あぁ、オウギなら私に届き得る牙を手に入れられると思っている。…グラストはどう思った?。』
『…原石だな。だがまだ甘い。あくまで可能性の一つに過ぎない。そんなものに賭けるのは俺の性分じゃない。…やはり俺は…俺自身に賭ける。』
『そうか、…済まないな。お前にも要らぬ物を背負わせた。あの事を知っているのは魔族の中でもほんのひと握りだけなのだ。』
『謝るな。元はお前を孤独にした俺達の罪。俺たちがお前を孤高にして…そしてお前は閉ざされた。俺は何をしてでもお前を取り戻す。そして…本当のお前を殺してやる。』
『…そうか…では期待して待っておこう。どの牙が私の喉元に届くのか。…そして…私を殺すのか。』
魔王はその言葉だけを残して消えてしまう。
『…俺がやる。俺が…自由にしてやるんだ。』