圧倒的な差
それまでの垂れ流されていた魔力とは別の物のような魔力がグラストから迸る。
『…いつぶりだ。この感覚に…落ちるのわ。頭の中は煮えたぎる程に昂まっている。だが…心はどこまでも深く鎮む。…』
グラストからギラついた野性が消える。闘志は燃やすが表に出さない。本気を垣間見せる。
「…………いくよ、アノン。僕はまだ…負けらないんだ。守るものが出来たから!。」
グラストに斬りかかるオウギ。だがオウギは既に理解していた。自分では叶わない。砂粒ほどあった勝機はたった今消え失せた。だがオウギは歩を進める。守るべきものがいるから。だがその勇気はこの場では意味を成さない。為すべき力なき勇気は蛮勇に成り下がる。
『「血装」。…これが俺の戦闘形態だ。』
グラストの纏っていた血の鎧が消え新たに薄い筋が全身に走る。これまでのように血を外に出す事なく留める。内包する。その意味をオウギは身をもって知る事になる。
「…血を啜り、我が力となれ!。」
オウギがアノンに血を吸わせる。それによって輝く刀身。それと同時にオウギは自身の背後に無数の火球を出現させていた。一つ一つが超高密度のその魔法は一つで一位階の魔族を討伐出来るほどであった。それらを一斉にグラストに向け照射。弾幕を張り物量で圧倒しようとする。
『…中々の威力だ。即興でこれだけの魔法が使えるのは…人間ではお前だけかもしれないな。だが…避けるに値しない。』
グラストは動じない。殺到する火球から身を守る事なく仁王立ち。まるで見せつけるかのように振る舞う。
「…っ……食らえ!。」
オウギは歯を噛み締め渾身の力でアノンを振るう。先程の飛ぶ斬撃と同質のものを刃に留める。
『…少し切れたか。だが…止まったな。』
オウギの渾身の斬撃はグラストによって受け止められる。差し出された右の掌。そこに僅かに裂傷を負わせて完全に勢いは止められてしまう。
『…さぁ、お前自身はどこまで…折れない。』
そのまま刀身を掴んだグラストは腕を一度上に上げ振り下ろす。それだけでオウギの体を宙に浮き地面に叩きつけられる。
「…っ!、がはっ…⁉︎。……ぐっ……」
オウギが叩きつけられた衝撃で放射線状にひび割れる地面。そのヒビが気を失っているアネッサにまで届く。
「……『傾いた天秤』。」
地面に叩きつけられたオウギは魔族に向かって魔法を放つ。
『…重力魔法まで使うか。だが…足りないな。手本を見せてやる。「傾いた世界」。』
オウギの重力魔法を受けても影響なくオウギに歩み寄るグラスト。そしてオウギに触れ魔法を発動する。
「…がっ……………うっ…ぐぐぐっ…」
オウギの体に恐ろしい程の負荷がかかる。咄嗟に肉体的な耐久性に優れる剣聖に切り替えるがそれでも指一つ動かす事が出来ない。
『お前に足りない物を教えてやろう。…その身を焦がすほどの欲望だ。野心でも良い、復讐心でも良い。何をしてでも強くなるという欲がない。…そこの女を殺せば…お前はもっと強くなるか?。世界を壊せばお前は怒るか?。俺を楽しませてくれるようになるのは…いつなんだ?。』
「…や、め…ろ。手を出す…な!。」
『その言葉に力はあると思うか?。…お前は知るんだ。敗北の痛みを。…そこの女が死ぬのは…お前に力が足りないからだ。』