内通者
「…おい、どういうことだ。このタイミングで外からの訪問者だと?。…まさか…外の奴らが裏切ったのか?。」
「…いや、それはないだろう。奴らが欲しいのは無傷の死体のはず。だからこそ我らが内通によって罠に嵌める算段になっている。警戒される客人を使っては抵抗にあって傷物になってしまう。」
「…外の貴族に貰った一吸いすれば全身の力が抜ける猛毒。それを吸わせ眠っているうちに殺す。その死体と引き換えに俺たちには莫大な金が入る。こんな村で一生を過ごすなんてあり得ん。金が有れば外でも何不自由なく暮らせるはずだ。」
「…どうせならあの客人に罪を着せるか?。鬼人族殺しの罪を被ってもらい、それを殺す。そうすれば俺たちは同胞の仇を討った強者としての名声も手に入れることが出来るぞ。名声と金、俺たちは生まれ変わるんだ。」
「悪くない。だがあの覚醒者はどうする。長だけなら片手ゆえなんとかなるがあの女を抑えるのは至難だぞ。」
「…ふっ、確かにあの女は強いだろう。だが…覚醒者は一様に情に脆い。我々が手を下すべきはあの女の周りにいた3人だ。その内1人でもこちらの手中に収めることが出来ればあの女は沈黙を余儀なくされるだろう。」
「そして皆殺しか。…だが自らを龍と言っていた子供もいたぞ。」
「そんなの間にうけるな。確かに飛翔の魔法を使えるようだが、龍種?そんな訳ないだろう。所詮子供の戯言だ。」
「そうか、そうだよな。空の王と名高い龍種が人族と行動を共にする訳がないか。なら…全員殺して終わりだな。」
「あぁ、当然だ。目撃者はいない方が良いに決まっている。…決行の日時はまだ連絡がないがもう幾ばくもないはずだ。それまでに客人の様子を良く調べるのだ。」
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「みんながそれぞれ考える間、坊や達はこの家を使ってくれて構わないよ。中の物も自由に使って良い。」
村人達の質問責めから解放されたオウギ達はトーチカの案内で村にある一軒の家に案内されていた。
「ありがとうございます。皆さん外に興味はあるんですね。」
「それは当然だよオウギさん。鬼人族は好奇心旺盛なんだよ?…でも外への恐怖が一歩踏み出す勇気を阻んでいるんだ。」
「…そうさね、だからあんた達が来て間違いなく村に風が吹く。…どんな結論になったとしてもね。」
静々と発せられるトーチカの言葉。室内にもしんみりとした空気が流れるがそれを何とも思わない強者が1人いた。
「…ねぇ、ご飯はどうすればいいの?。」
カノンである。カノンにとっては鬼人族がどのような選択をしようとも自分には関係がない。それよりも想定より伸びることになった滞在の食事事情が気になっている。
「あ、あぁ。心配はいらない。この森で討伐した魔物に肉や村の中で獲れた野菜がある。それで良ければ提供させてもらう。」
「ん、分かった。…疲れたから寝てくる。」
心配事が解消したカノンは1つ欠伸をすると眠るために何処かへ行ってしまった。
「…すいません。」
「いや、…あの子は龍種だね。それも相当強力な血筋の。珍しい体験をさせてもらっているよ。」
オウギがの謝罪に対してトーチカが気にするなと伝える。
「では後ほど食材は届けさせる。…この村の行方を見守っておいておくれ。」
それだけ言うとトーチカは去って行った。