鬼人族の隠れ里
「…確かこの辺の筈なんだよね。…えーと……」
街道から少し外れた森の中をオウギ達は歩いていた。鬱蒼と茂る草木の影響か陽の光があまり降りかからず薄暗い。
「…この辺り?…あの、…ずっと森が続いていると思うんですけど…」
アネッサの言葉にユーリが周りを見渡す。先程から同じような森が続いているだけ。誰かが住んでいるような気配は感じられなかったからである。だがそう思っているのはこの中でユーリだけだった。
「…この森は守護的な魔法がかけられている。恐らく結界型の認識阻害。」
「うん、そうだね。だから僕たちの意識が間違えさせられている。真っ直ぐ歩いていると思っていたけど殆ど森の外周を回っているだけだ。多分中心に隠れ里があるんだろうね。」
カノン、オウギは既に森の違和感に気がついていた。中心に向かって歩いているはずなのに同じ景色が続いている。そこから森の中心部に近づけないような魔法が使われていると判断したのだ。
「あー、気づいてたよね。…やっぱり分かる人には分かっちゃうか。…尚更ノードルマン領の話をしないと。いつまでもここに隠れていたってその内悪い人に見つかっちゃう。…うーん、…あ!。」
地面に膝をつき何かを探していたアネッサが声を上げる。その手には一つの石が握られていた。アネッサがそれに額の角を近づける。すると石が発光し、次の瞬間オウギ達の目の前の空間が開かれる。
「…え、…えぇぇぇぇぇーー‼︎。…本当に…村です。」
森が消え木で出来たと思われる建物が立ち並ぶ村が出現したのだ。その周りには畑や食用の魔物を飼育していると思われる厩舎の姿もあった。
「鬼人族だけに反応する魔導具ですか。珍しい物ですね。」
「うん、多分大昔の優秀な鬼人族が作ったんだと思う。今の鬼人族でこれを作るのは…無理だと思う。…今は覚醒出来るのも何人いるか。これを作るには覚醒の更に上鬼神にならないと駄目だと思う。」
「……誰か来た。」
オウギとアネッサが魔導具について話しているとカノンが顔を上げて前を睨む。目の前の村から此方に向かってくる何者かの気配を感じたからだ。だがただの気配ならカノンもここまで過敏に反応しない。そうしたのは向かってくる気配が殺気を纏っているからだ。
「…お前らは…何者だ?。どうやってここを見つけた。」
出てきたのは1人の鬼人族。身長は2メートル程の筋骨隆々な男だった。そして額のツノは淡い光を放っている。つまり半覚醒の状態であった。
「…ここは私が。……同胞よ、突然の訪問申し訳ない。祖母に聞いていた隠れ里を訪ねたく思い訪問した。こちらに敵意はない。どうか矛を収めてくれないか。」
一瞬顔を見合わせたオウギ達。アネッサが一つ頷くと一歩前に出て鬼人族の男に話しかける。その口調は普段の何処か飄々としたものとは異なり敬意をはらんだものだった。
「…お前…鬼人族なのか?。………分かった。この村への入村を許可する。だが!何か不審なことをすれば即座に死んでもらう。」
アネッサの額のツノを見た男の殺気が消える。そして未だ疑う様子は見せながらもオウギ達を村へと招き入れたのだった。