クロイセンから次の目的地へ
「もう行ってしまわれるのですか?。」
クロイセンの外れ。悠々と続く道を目の前にオウギたちはアルタイルに別れを告げていた。
「えぇ、世界は広い。全てを見て回ろうとすれば時間が限られていますから。」
「そうですか。…僕には貴方を止める権利はありません。要らぬ心配だと思いますがどうか荘健で。そしていつか私は本気の貴方へと挑みます。暴牛の名にかけて。」
「お待ちしています。」
握手を交わすオウギとアルタイル。それを不満げに見つめるカノン。だが口を挟まない。カノンは理解していた。今の自分ではアルタイルに文句を言っても虚言に終わる。まだ力が足りない。我を通すには力が必要なのだと。本来厳しい野生を生き抜く龍種としての本能が目覚めていた。
「アルタイル様!…私は強くなります!。オウギ様が私達を案じずに戦いに専念できるように。その為に……貴方を超えてみせます!。」
控えめなユーリが放った精一杯の宣言。オウギが魔族と関わり合いを持ってしまった以上、最低限必要になるのは冒険者最高クラスの実力。ユーリはそこにまで辿り着くと宣言したのだ。
「なら僕は更に高みを目指そう。僕だって人種の希望になる責務がある。お互いに研鑽を欠かさぬように誓おう。」
「フランシス様はこの後は?。」
「あぁ王城に戻る。…一度はな。思わぬ訪問であったがその価値はあったようだ。其方は良い顔をするようになった。これからもこの国の誇る武となれ。」
フランシスは一度王城に戻るようである。一度という所に不穏な気配を感じながらもカーテナではフランシスを制止することはできない。アルタイルに声をかけた後転移でこの場を立ち去る。
「オウギさんはどうされるのですか?。」
「そうですね…特に決めては無いのですが…」
「あ、ならオウギさん。私行きたい所があるんだけど。」
アネッサが手を上げて意見を言う。
「昔、お婆ちゃんから聞いたんだけどここから少し行った所に鬼人族の隠れ里があるらしいんだ。そこに寄ってノードルマン領の事を話したいんだ。どれくらい外の情報を知っているか分からないけど同じ鬼人族の私が行ったらちゃんと話を聞いてくれると思うんだよね。」
「…鬼人族の保護はアネッサさんの悲願。僕が断る理由はありませんね。」
「私も大丈夫です!。今回のクロイセン訪問は私のお願いでしたから!。」
賛同するオウギとユーリ。後はこの一行1の暴君カノン次第だが、
「私も問題ない。」
こうして一行の次の目的地は鬼人族の隠れ里に決定した。
「鬼人族の隠れ里ですか…。ノードルマン公が推し進める種族融和の政策、我がカルスホルン領でも検討してみます。元々ここでは種族なんて関係ありませんから。…良い領地にしてみせますよ。」
「本当⁉︎。…そうなったら嬉しいな。鬼人族も食い扶持を稼がないといけないから。冒険者にはそれなりに向いてる者もいると思うよ!。」
「お互いにとって利があるようですね。益々魅力的だ。」
「…ううん!。…ではまた何処かで。」
アネッサとの話が白熱しかけたアルタイルはオウギ達の出立をこれ以上引き止めるのはいけないと別れの挨拶をする。
「えぇ、…」
オウギとアルタイルは確信していた。再び会う時、それは戦さ場の可能性が高いと。その時は同志として戦うことになると。それまでの自己の鍛錬を誓いオウギ達はクロイセンを去った。