カノンは暴君?
クロイセンの街の雰囲気ははこれまでと少し変わっていた。これまでは荒々しく強さのみに重きを置いた統制となっていたがアルタイルが本当の意味で領主と認められたことにより無法者達が街を去った。その影響で無骨ながらも最低限度の秩序がある元の強者の街クロイセンに戻っていたのだ。
「…これ程までに腐敗が進んでいたとは…。僕が不甲斐ないばかりに。…ですがこれからはそんな事は許さない。住人は僕の家族だ。その家族を傷つける者この手で打ち倒す。」
アルタイルは先ず街の公権力の腐敗を取り除く。犯罪者に加担していた兵士達を廃し、その任を敢えて冒険者達に依頼。アルタイルの強さを知っている彼らはアルタイルに肯定的だった。そして街の財政を牛耳っていた官吏達も一新する。これによりアルタイルは必要な情報を知り、飾りではない本当の統治者となった。
「…美味しい。…もっと持ってきて。うん、そう、その料理。…先ずは食べないと。体を大きくしないとダメだから。…オウギも食べて。体力つけないと。」
一方オウギ達はアルタイルが手配した宿にて豪華な食事をとっていた。円卓には様々な料理が並んでいる。やはり冒険者が多いとあって油分が多く味付けも濃い物が多いがカノンはそれを次々と口に運んでいく。
「どうせ支払いはあの男。だから食い溜めする。」
明らかにカノンの体積よりも多い量を食べているのだがカノンの様子に変化はない。そんなカノンにユーリは羨望の視線を向ける。
「カノンちゃん、あの体のどこにそんな量が⁉︎。」
ユーリもオウギに引き取られてから一度成長期を迎えた。その際には多量の食事を必要としたが今はそれも止まっている。食事を食べる事は成長する事。そして成長は可能性。未だ破るべき壁の多いカノンはオウギ達の中で最も将来性がある存在なのだ。
「いやぁ、驚いたねぇ。流石は龍種だよ。…え、私にもくれるの?。…うーん、可愛い!。」
ユーリと同じように驚くアネッサにカノンが皿を差し出す。これまでオウギ以外にはそんな事をしなかったが頻繁に世話を焼いてくれるアネッサへのカノンからの贈り物だった。勿論料金はアルタイル持ちなのだが。
「えぇ⁉︎カノンちゃん!。なんでアネッサさんだけなんですか!。私の方が長く一緒にいますよね!。」
「ユーリは遊んでくれなかったから。ずっと修行してて私と買い物も行ってくれないし。」
カノンがユーリに冷たい理由は拗ねていただけだった。あまり過度に構い過ぎると怒るが逆に放置されるとそれはそれで怒る。まるで猫のような性格のカノンであった。
「…そんな…。」
カノンの話す理由にガックシと肩を落とすユーリ。ユーリは気付いていない、拗ねられているということは放っておかれて寂しかったということだと。
「…仕方ないからこれあげる。…割と美味しかった。」
そんなユーリを見てカノンは眉をひそめると一つの皿を差し出す。そこにはデザートが乗っていた。それを見たユーリが一瞬固まる。アネッサだけに料理を分けた行動には嫉妬したが実は既にお腹はいっぱいだったのだ。
「お腹いっぱいみたいだけどそれなら食べれるでしょ。…食べれるよね。…食べてね。」
そんな変化を見逃すカノンではない。ユーリの目をじっと見つめて言葉を紡ぐ。その目には恐ろしいほどの迫力があった。
「…え、う、うん。ありがとう。」
結局ユーリはなんとか料理を詰め込みカノンの機嫌を損ねることはなかった。
「…オウギよ、あの娘は暴君が過ぎるぞ。王女である私から見てもな。しっかりと教育するのだ。」
「…ですよね。ミシュライオンからも言われました。」