理の断片
「オウギさん、先程はどちらへ?。とてつもない気配を感じましたが。」
待機場所へと戻ったオウギにアルタイルが問いかける。アルタイルも当然先程のアルビデの放った魔力には気づいておりその近くにオウギがいたことも感知していた。
「えぇ、実は…」
オウギはアルタイルに魔族の幹部であるアルビデがこのクロイセンにいること、理の断片というアイテムを求めていること、そのアイテムがカルスホルンの極意の書の一部である事を伝える。
「…理の断片ですか…。そのアイテムの存在は知りませんが…何故極意の書に用いられたかは想像がつきます。あの書を最初に作ったのは初代カルスホルンです。彼は天下無双の武人といわれ魔人相手にも勝利を重ねたと云います。…ですから…」
「その時の遺産ですか。」
「えぇ、そしてそれを当主秘伝の極意の書にしたのは…守る為。初代はカルスホルンが代々その遺産を魔族から守ることに期待したんだと思います。」
オウギの情報を基に推察を立てる。何故魔族の幹部が直々に探し求めるものがカルスホルンにあるのかを。
「今いる魔族は強いんですよね。」
「えぇ、はっきり言うと僕でも勝てる可能性は低いと思います。」
「…そうですか。…破壊はするべきではないでしょうね。」
「えぇ、確実に割って入ってくるでしょうし…何より破壊が可能であれば後世に残す理由がありません。…いや、もしくは魔族だけに有用なのではないのでは?。」
「…と言うと?。」
「今では魔族しか使用方法を知らないが、此方にも使い道があるのだとすればわざわざ継承してきた意味があります。」
「だがその使い道が継承されていない以上手元に置くのはそれだけリスクになってしまう。…可能なら破棄すべきだと思います。カルスホルンの歴史は僕が継承する。僕自身が…紡いでみせます。」
「…少しだけ待って下さい。1人知っている可能性のある人に心当たりが。もしかしたら断片の破壊に危険が伴う可能性もあるので。開始を少し遅らせれますか?。」
「…ん、あぁ、それぐらいなら構いません。どの道舞台の修理に手間取っていますから。おい!誰か。」
アルタイルは使用人と思しき男を呼び修理に少し余計に時間をかけるように伝える。
「…こんなに早く使うことになるなんてね。…ミシュライオン、応えてくれ。」
オウギは亜空間から一つの鈴を取り出し、それを鳴らす。ミシュライオンから貰っていた鈴である。鳴り響いたのは音ではない。魔力の波動が薄く広がっていく。
『…鈴を鳴らしたな?オウギよ。…何用じゃ?。』
鈴からミシュライオンの声がする。それに驚くアルタイル。
「1つ聞きたいことがあります。…理の断片というものを知っていますか?。」
『…あぁ、知っている。この世界で最も崇高で最も野蛮な一冊の書物。その紙片の事だ。…何故それを?。』
「実は…今僕の手が届くところにあるんです。」
『…なんと…。ふむ…お主がそれを知るということは…魔族もおるのだな。』
「…何故それを…。」
『理の断片を魔族が集めているのは知っている。…そして人間もな。だから魔族と人間は争うのだ。』
「…その為に魔族と争っている?。」
『あぁ、理の断片は元々『創世の書』と呼ばれる本だった。その本はな、…願いを叶えるんだよ。』
『…勿論、代償はある。願いの大きさに比例してな。だが…制限はない。その本を危険視したかつての祖龍が破壊を試みたが…分解するのが限界だったのだ。』
「…では破壊は不可能ということですか?。」
それまで黙って聞いていたアルタイルが口を挟む。
『…ん?…誰かおるのか?。』
オウギがミシュライオンにアルタイルの事を話す。そして自分たちの目の前にある断片がアルタイルの極意の書であることも。
『…成る程…あの者の子孫か。だとしても破壊は無理だ。』
「僕たちはどうすればいいでしょうか?。」
『…それに関して我らは関与しない。魔族が願いを叶えようと人族が叶えようとな。だが…人間は汚い。もしその本を手に入れたら…世界は終わるだろうな。』
『…どの道、断片が揃わない限り効果はない。オウギよ、其方の信じる道を征け。其方の歩みが…未来を変えるやもしれんぞ?。』
「…僕の…信じる道。」