心を裁く
「あなたは随分と罪を犯したようだ。…でも僕の私情で殺すべきではないでしょう。」
「そ、そうだ。殺すのはやめといた方が良いぜ。へへ、…今なら大人しく捕まってやるからよ。」
報いを受けさせると言っていたオウギが一転して殺すべきではないと言った。その言葉にボスは薄く笑みを浮かべ命乞いをする。取り敢えず今助かれば良い。捕まったとしても自分なら逃げおおせることが出来ると考えていた。
「…まだ反省しませんか。…僕を見ろ。」
その態度にオウギはボスの髪を掴み自分の目線と高さが合うまで引っ張り上げる。
「…っ…てめぇ……うっ⁉︎………な、……」
オウギと目があった瞬間ボスは体の動きを止める。そして口は半開きになり、生気が抜け落ちる。
「…『幽幻の牢郭』。これまでの自分を悔い改めろ。」
「…うっ…なんだったんださっきのあいつの目は。…それに…ここは何処だ!。何もない…何も見えない。」
真っ黒な空間。そこにはボスだけが存在していた。一切の光もないその場所はどれだけ広がっているのかも検討がつかない。
「…俺は…さっきまで…クロイセンにいたはずだ。…つまりこれは幻覚…。はっ、残念だったな、一流の冒険者は幻覚如きでは…」
ボスの言葉が途切れる。突然体が捻じ切れたのだ。当然ボスは体中から血を噴き出し息絶えた。
「…はっ!。…なんだ…今のは。俺は…死んで…ない?。…くそ、…なんなんだここは!。」
ボスが目を覚ましたのは真っ暗な空間。体を触ってみるが異常はない。だが脳裏にははっきりと先程の痛みが刻まれていた。
「…止まるのはよくない。…進んで!。…な…足が!。」
一歩踏み出した途端ボスの足が切断される。その痛みが上ってくる。
「…な、…なんなんだよ!この世界は!。…許さない…殺し…」
ボスの全身に棒が突き刺さりボスは息絶えた。
「…はっ!…も、もう嫌だ。目覚めたくない。こ、殺してくれ。」
目を覚ましたボスは自分が生きている事、真っ黒な空間にいる事を確認した途端懇願する。これまで何度も目覚めそして無惨な死を遂げてきた。その蓄積された痛み、死の恐怖がボスの精神を蝕む。だが…許されない。ボスの四方を囲むように壁が迫り上がる。徐々に迫ってくる壁。ボスはその壁に自分の未来を見た。何故ならこれまで幾度と死んできたその死因全てに覚えがあったからだ。これまで自分が他人にしてきた制裁。その全てが我が身に降りかかってきていたのだ。
「…い、いやだ!。…頼む!もう目覚めたくない、死なせてくれ!。」
「あなたは随分と罪を犯したようだ。…でも僕の私情で殺すべきではないでしょう。」
その時オウギの言葉が頭に蘇る。自分は死ねない。殺してもらえない。そう確信した瞬間ボスの心は粉々に砕けた。
「…おや、お帰りなさい。随分早かったですね。」
オウギはボスの瞳に生気が戻るのを確認した。だがボスにはもう覇気はなくその場に座り込んでしまう。目の焦点は合わず口からはよだれも垂れている。だが目の前に立つオウギの影に入ると途端に膝を抱えて怯えだす。
「これからあなたは裁かれる。それまで毎夜訪れる夜に怯えると良い。」




