動き出した鉄の牙
「…それで…街の奴らの前で恥をかかされた挙げ句…更に放った追手20人が行方不明になったと。…はっ、…言い訳があるなら聞いてやる。」
薄暗い倉庫の中。1番奥に座る男が発する言葉にその場の空気は張り詰める。倉庫の中に立つ男達の中に答える者はいない。
「何とか言ったらどうなんだ?。ボスが聞いているのだ。」
「そうだぜ?答えたからって死ぬって訳じゃないんだ。」
奥に座る男、ボスと呼ばれた男の左右にいた男達が声を出す。ボスと呼ばれた男に匹敵する程の威圧感を放つ2人の男達はそれぞれ目の前の男達に声をかけるがそれでも答える者はいない。
「…はぁ…もういいグラッド、ダラス。俺は優しく聞いてやったのにな。1、2、…」
それを見たボスがため息をつく。そして左右の腹心を諫めると静かにカウントを始める。
「…3。…生き残ったのはこれだけか。だから舐められることになるんだな。これは俺の失敗だったか。」
ボスがカウントをするとその場にいた男達の体が上下に両断される。無事だったのはグラッド、ダラスと呼ばれた腹心の2人の他に数人だけだった。
「来る者は拒まず、去る者は殺すの弊害か。いつの間にか俺たちは弱くなっていたようだ。」
何の感情も抱かず同じ組織の部下達を両断したボス。残った部下達は床に転がる同胞から目を逸らし何とか吐き気を堪えていた。
「…まぁそれはいい。置いておく。それよりも…既に馬鹿達によって鉄の牙の名が汚されていることが問題だ。グラッド、ダラス何か良い案はあるか?。」
「…では私から。…行方不明の20人は雑魚とはいえ冒険者でいうとBランクぐらいはありました。それを人目に触れず倒すとなるとかなりの手練れ。私が出るべきかと。」
グラッドがボスの前に膝をつき提案する。
「…うむ、……ダラス、お前はどう考える?。」
「そうっすね、…それだけ強いのなら目的は祭なんじゃないですか?。ならわざわざ探さなくても祭に出て戦う奴を全員殺せばいいでさぁ。祭の申し込みには制限なんてありませんしね。」
「…そうだな、…領主が代わってやりやすくなった。今では兵士達も此方に歯向かう者はいない。結局あいつらも自分の命と金が大事なんだ。…よし、祭に出るぞ。そこでめぼしい者はうちに入れる。…舐めたことをした奴らの情報は集まっているだろ?。」
「はい、獣人の娘、白い餓鬼、鬼人族の女、あと3人は普通の人族のようです。」
「鬼人族がいるのか。それならそいつがその集団の頭だな。前に戦った鬼人族は強かった。何故か全然攻撃はしてこなかったがな!。俺はその鬼人族とやりたいでさぁ、ボス。」
グラッドの報告にダラスが口を挟む。それに対してボスが何かを言うことはない。静かに話を聞いているだけである。
「…白い餓鬼は雷を操るそうです。恐らく魔法系の適性を持つかと。…是非私にその餓鬼とやる権利を…」
「ならばその餓鬼とはグラッドが、鬼人族にはダラスが当たるようにしておく。…さぁ、行くぞグラッド、ダラス。…あぁ、お前らは要らなくなったんだ。そこで死んでてくれ。」
おもむろに立ち上がったボスは倉庫から出ようとするがふと振り返りひとつ手を振る。それだけでグラッドとダラス以外の生き残っていた男達は細切れになって死んだ。後にはただ血の海だけが残った。