暴牛の叛乱
「…成る程…目の前にいるのが俺という訳か。当然だがそっくりだ。そのせいで一瞬動きが止まってしまった。」
冷静になった暴牛がアルタイルの顔を見ながら言う。
「それで…お前らは俺が何かを知ってるんじゃないかと思った訳だ。…ふむ…だが…仮に知っていたとして…俺がそれを教えると思うのか?。」
暴牛に尋ねたのはカルスホルンの角撃の使い方。同じ体なのにアルタイルは角撃の力を引き出せない。使い手である暴牛に指南を願った。だが返ってきたのは無言の圧力。先程までこの場を支配していた時と同じ濃厚かつ重いプレッシャーだった。
「俺がそれを教えれば俺は存在意味がなくなるかもしれない。何故ならそこの俺だけで戦闘をこなせるようになるからだ。つまり、俺は消えることになる。それが分かっていて教える理由が俺にはない。」
暴牛の言葉は最もなものだった。戦場で角撃を使うと出てくる人格である暴牛。アルタイルが角撃を使えるようになればその人格は存在意義を失う。消滅してしまうことが明らかだ。
「…っ……なら…僕が…消えれば…」
「それは駄目だ、アルタイル公。理性なき者にこの国の根幹を任せることはできない。」
自分が消えることを提案するアルタイル。だがそれをフランシスが止める。
「…お前、本当に俺なのか?。俺が目を覚ますとそこはいつも戦いの場で、近くには必ずこいつが置かれている。俺自身周りの奴らに頼りにされるのは気持ちいいし、守ってやりたい。もしもう1人の俺が無能なんだとしたら…俺がとって変わってやっていい。その方が大事な戦友を守れそうだ。」
暴牛が目を覚ます時は常に戦場。常在戦場の暴牛の周りには常に強者がいた。目を覚ますまで守る為、そしてその後は同じ戦場を駆ける為である。同じ戦場を戦った者は皆家族。熱い心を持つ暴牛は戦士を守りたい。そんな暴牛だからこそ先程からの不甲斐ないアルタイルを見て腹を立てていた。
「おい、俺を呼んだ魔導師。」
目を瞑っていた暴牛がオウギに話しかける。
「どうかしましたか?。」
「…お前がオウギか。ユーリから話を聞いていたが…是非戦ってみたいものだ。お前が主人格なら良かったのだがな。…と、聞きたいことは違うな。もう一度俺を呼ぶことは出来るか?。」
「…そうですね、可能ですが…時間魔法には多くの魔力を使うので…すぐには無理です。」
「うむ、…なら丁度いいか。2週間後にもう一度呼び出して欲しい。その時に俺と立ち会え。今のお前では万に一つの勝機もない。だから時間をやる。俺にお前を認めさせろ。俺が思うところへ辿り着かなければ…どんな手を使ってもお前の人格を滅ぼす。」
アルタイルの目をじっと見つめながら暴牛が提案する。
「俺が共に戦った者たちは強いカルスホルンを求めていた。貴族なら民の願いを叶えなければならない。カルスホルンに求められるのは圧倒的な武。自分を変える気があるのなら…死ぬ気で抗ってみろ。」
それだけ言うと暴牛はアルタイルに背を向ける。
「…………」
それを黙って見つめるアルタイル。だがその目には確かに炎が灯っていた。
「…アルタイル様…あ、えーと…」
歩き出した暴牛がユーリの側に立つ。
「ふっ、…暴牛で良い。今の俺はカルスホルンそのものなのだから。」
名前を呼ぼうとしたユーリが口籠る。それに対し敢えて大きな声で宣言する暴牛。そして颯爽と魔法陣に向かって行く。
「…ユーリ、もう1人の俺を頼む。」
去り際に一つの言葉を残して。