カノンの目的
クロイセンの中でも中心に近く安全な宿。オウギ達はそこに滞在していた。本当はアルタイルにカルスホルン邸に滞在するよう勧められたのだがオウギが固辞したのだ。
「…ってことがあったよ。」
「そうですか、…鉄の牙、…これからも介入してくると思いますか?。」
「うーん、どうだろ。既に組織のボスは知っているみたいだった。だけど手下が20人やられたのも分かっているはず。それなのに無駄に手を出してくるかな。」
オウギとアネッサは鉄の牙について話していた。アネッサは尋問によって得た情報をオウギに話す。これから鉄の牙がどのような行動に出るか思案する2人。2人は知らない。オウギはその強さゆえに、アネッサは暗殺者であった故に。街のギャングのような連中が何よりもメンツを大事にすることを。そのメンツの為なら数の損得など計算外になるということを。20人が帰らないことは寧ろ逆効果になっているのだ。
「…先に潰しとく?。…幹部レベルになると結構強いみたいだけど…」
「…いえ、カノンも邪魔をされたから怒っただけだろうから。…何もしてこなければ何もしない。僕も争いが好きなわけじゃないからね。」
「…そっか、わかった。…あ!カノンちゃん帰ってきたね。それじゃあ私はこれで。」
オウギの甘いともとれる発言を肯定するアネッサ。この2人は基本的にスペックが高いので火の粉が降りかかってから払うスタンスなのである。アネッサがカノンが滞在する宿に帰ってきたのを探知する。そしてすぐに影の中に消えていく。オウギと2人きりでいる所を見られるとカノンが気分を害すると思ったからである。
「…オウギ、いる?。」
カノンが部屋に入ってくる。一応入る前にノックをしてはいるが返事を待つことはない。
「カノン、この前言ったよね。部屋に入る時は返事があってから入ること。そうしないと他の人の迷惑になるよ。」
「オウギと私は他人じゃないから大丈夫。」
オウギの忠告に屁理屈で返すカノン。その手には沢山の袋がぶら下げられている。中には屋台を回って厳選した食べ物が入っている。
「そんなに買ってきて。…全部食べられるの?。」
「多分無理。…その、…だからオウギにもあげる。…作業しててご飯食べてないんでしょ?。」
一旦全てを机に置いたカノンはいそいそと袋から出して机の上に料理を広げる。帰ってくる前に買ってきたからかまだ湯気が出ている。
「…そっか、カノンは僕の為に買ってきてくれたのか。…ありがとう。」
カノンの頭を撫でるオウギ。カノンは体を揺すりながら頬を緩めていた。
「…それじゃあ一緒に…」
カノンがオウギの口にスプーンを運ぼうとする。今回最大の目的である『あーん』をする為である。だがノックの音が響き、オウギの返事の後にユーリが入ってくる。
「ただいま帰りました。…うわっ!凄い料理です!。美味しそうです!。」
ユーリはオウギに帰宅の挨拶をすると机の上の料理に目を奪われる。
「おかえり、アルタイルさんとの訓練はどうだった?。」
「…ごくっ、…。…とても強かったです。アルタイル様は木の枝を使われたのですが完敗してしまいました。凄まじい技術を感じました。…でも技術なら…努力すれば私にも使えるかもしれません。頑張ります。」
「うん、そうだね。…ユーリは頑張っている。…だからきっともっと強く…一緒に食べるかい?カノンが買ってきてくれたんだけど。」
ユーリの視線が食べ物から離れないことに気づいたオウギがユーリにも食べることを勧める。
「…え……あの、カノンちゃん…私も食べていいですか?。」
「…………別に構わない。」
机の上の食べ物をカノンが買ってきたことを聞いたユーリが恐る恐る尋ねる。どう見てもカノンがオウギのために買ってきたことが明白だからである。カノンは悩むがユーリもまだご飯を食べてないことを思い出し了承する。
「今凄い悩んでましたよね。…でもありがとうございます!。」
「それじゃあ僕も貰おうかな。」
「ただいまぁ!。あー、カノンちゃんやっぱりオウギさんに買って帰ってきてたんだ。かわいいなぁ。」
一度この部屋から出たアネッサが最後に部屋に帰ってくる。先程までの会話などなかったように明るく振る舞う。
「…ち、違う。これは…そう、みんなの為に買ってきただけ。」
「じゃあ私が食べてもいいよね。」
「…………別に構わない。」
アネッサに尋ねられそう答えるしかないカノン。仕方ないと今回のことは諦めようとしたが不意に隣のオウギに声をかけられる。
「ほら、カノン。あーん。」
咄嗟に反応したカノンの口にオウギがあーんをする。真っ赤に染まるカノンの顔。その後カノンは満腹になったと言い、食べることはなかった。胸がいっぱいだったしもう満足したからである。カノンの目的はこうして果たされた。




