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アネッサの仕事

「…美味しい。後でもう一回寄る。」

 カノンが口一杯に肉を頬張りながらそう呟く。カノンとアネッサはクロイセンの繁華街に来ていた。冒険者の街、それも特別な闘牛祭を控えているだけあって人混みが出来ている。街中では至る所で野良の賭け試合が行われており繁雑としていた。だが各地から集まる舌の肥えた冒険者達を満足させる飲食店の味は抜群で、油、濃い味、肉とまさに活力になりそうなメニューがならんでいる。


「へぇー、…オウギさんに買って帰ってあげるの?。」

 先程から気に入った物をその場でもう一度買うのではなく後で買うと言うカノンにアネッサが言う。


「…違う。…私が食べたいだけ。でも先に買って食べたら後から食べたい物があったときに困るから。それだけだから。」

 口では否定するカノン。しかし実際はアネッサの言う通りであった。自分が食べて気に入った物をオウギに食べてもらいたい。折角だから少しでも出来立てを食べさせたい。その為にカノンは気に入った露店を正確にマッピングしている。ロスをできるだけ少なくする為である。


「そうだねぇー、……カノンちゃんストップ。なんか来てるね。」

 言い訳を口にするカノンを微笑ましく思いながら見ているアネッサ。だがアネッサの警戒網に引っかかる者達が現れる。


「…ん。…横道から来てる。誰かを探してる動き。」

 アネッサの警告を受けカノンが周りの魔力を探る。確かに横道に誰かを探すように走る集団が感知できた。それぞれがこの前倒した男達よりも強いことがわかる。


「…白い餓鬼。…お前か。…なぁ、俺たちはお前に用があるんだ。ちょっと付き合ってもらっていいか?。」

 横道から飛び出してきた男達の中の1人がカノンの姿を確認すると下卑た声をかけてくる。


「嫌、私には用がない。さっさと消えて。」


「おいおい、そんなつれないことを言うなよ。…ちょっと強いからっていい気にならない方がいいぜ?。お前がこの前潰した奴らは組織の中じゃ雑魚。でもな、組織にもメンツがあるんだ。ただで返したとあっちゃ終わりなんだよ。」


「そう、なら終わればいい。私は忙しいの。頑張っているオウギに美味しい食べ物を届けないと。だから…今なら見逃す。あんた達はまだ何もしてないから。」

 カノンの態度に腹を立てた男が凄むが龍であるカノンには一切通じない。カノンは淡々と男達をあしらう。


「…ふっ、…もういいわ、お前には死んでもらうことにする。ボスの前にその首を晒しとけ。」

 男達が剣を抜く。


「…抜いたね。なら…」


「はい、ストップ。」

 抜かれた剣を見て戦闘態勢に入ろうとするカノン。だがアネッサがそれを止める。


「…いくらアネッサでも…邪魔をするのは許さない。」

 当然怒りを露わにするカノン。


「だって今度こそカノンちゃんは殺しちゃうでしょ?。…それじゃあダメなんだよ。そのえーと、鉄の牙だっけ?について詳しく話を聞かないと。一々絡まれたら面倒でしょ。オウギさんとデート中ににも襲ってくるかもしれないよ?。」

 理由を口にするアネッサだが本当の理由は他にあった。カノンに無闇に人を殺させたくないからだ。


「…確かにそれは嫌。」


「だから私に任せなよ。…これでも暗部だったからね。人が正直になる方法は沢山知ってる。その為には生け捕りにしないと。」

 アネッサの提案を飲むカノン。先程までの戦闘態勢を解除する。


「…ごちゃごちゃうるせーなぁ。そこのデカイ女も仲間なんだな?。なら一緒に殺す。鉄の牙に逆らったことをあの世で後悔しろ!。」

 痺れを切らした男たちがカノンとアネッサを取り囲み襲いかかってくる。


「…良く回る口だなぁ。まぁその方が都合がいいや。『影業の侵犯』。」

 アネッサの影が伸びる。男達達の影と繋がると男達の動きが止まる。


「…な⁉︎……動けない。」


「これは…暗殺者の…」


「取り敢えず私より強い人はいないみたいだね。なら…順番に話を聞くからそれまで寝ててよ。」

 影に縛られた男達が動けないのを確認したアネッサは自分の影に向かって両手を伸ばす。丁度首の辺りで両手で羽を作る。そしてそれを徐々に狭めていく。


「…がっ…首が……」


「…鉄の…牙に歯向かって……ただ………」

 男達全員の首に手の跡が浮かび上がる。徐々に締められ男達は全員意識を失うことになる。


「…さてさて、私にも勝てない人達がその鉄の牙ではどの位の地位なのか。…ボスはどのくらい強いのか。じっくりお話を聞こうかな。カノンちゃんはどうする?。あまり気持ちいい見せ物じゃないけど。」


「ならやめとく。食べ歩きに行ってくる。……その、止めてくれてありがと。」

 それだけ言うと照れたように走り去っていくカノン。


「…可愛いなぁ。…その可愛い笑顔を二回も曇らせたんだ。…簡単には死ねないよ?。」


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