双剣ルナレイク
カラッサスに滞在することに決めたオウギ達。別に依頼などこなさなくても余裕で資金は足りているのだがユーリたっての希望で討伐系の依頼を受けることにする。
「…やっぱり水の魔物の依頼ばっかりです。」
「それは仕方ないよ。それでも湖畔には陸上の魔物もいるんじゃないかな。そこなら剣でも戦えると思うよ。」
「…そうですね…、分かりました、それを受けてみます。」
ユーリが受けることにしたのはレイクリザードという半水棲の蜥蜴の討伐の依頼である。全長1メートルほどの大きさで見た目の割に移動も素早く甲殻も硬い。中々に厄介な魔物であった。
「そうだ、ユーリ、ちょっとおいで。」
湖の到着したユーリは勇んで討伐に向かおうとする。しかしそれをオウギが制する。
「?なんでしょうオウギ様。」
「君も大分強くなったからね。それに見合った剣を造ったんだ。…これを使うといいよ。」
そう言いオウギが異空間から取り出したのは青い刀身の双剣だった。刀身は60センチ、柄の部分が手を守るように腕の方に10センチ程伸びておりカットラスのようになっている。側から見れば腕から直接剣が生えているようにも見える。
「…ふわぁ、綺麗です。…凄い、真っ青の…刀身。…あれ、でもこの剣、重さが…軽い、軽すぎる?。」
オウギから双剣を受け取ったユーリはその宝石のような刀身に夢中になる。しかし一振りしてみるとその軽さに違和感を覚える。
「その剣は双剣だからね。手数を増やす為に疾さが重視されているんだ。ユーリには剣士の中でも軽剣士を目指してもらう事にする。」
「軽剣士ですか。…確かに私には豪剣は扱えないですし、ぴったりだと思います。」
「ユーリ、その剣に力を込めてごらん。」
「…力ですか?、…えーと、グーちゃんを仲間にした時と同じ感じでいいのかな。…うーん!。」
オウギに促され双剣に力を込めるユーリ。すると双剣の刀身に薄っすらと紋様が浮かび上がる。
「それで振ってみて。あ、湖に向けてだよ。」
「わかりました。…えいっ!…え?…今…剣から…何か出ました。」
ユーリが剣を振るうとその軌道上に水の衝撃波が放たれる。その勢いで湖までの砂に直線が引かれていた。
「斬撃と同時に水の波動が飛ばせるんだ。剣士の欠点である遠距離を補う意味がある。でも結構疲れると思うから乱発はしたらだめだよ。」
「す、凄いです!。これは魔剣なのですか?。」
「魔剣か…いや、魔法を使える剣だから魔法剣だね。魔剣っていうのは使用者を選ぶ意思ある武器のことだからね。」
ユーリの問いかけに否定の言葉を返すオウギ。事実ユーリの持つ双剣には意思などないし、オウギの持つデザイアは紛れもなく意思を持つ魔剣でたる。
「…魔法剣、ありがとうございます。私はこの剣と一緒に強くなります!。そしていつかオウギ様を護れるぐらい強くなります。」
オウギからの贈り物。ユーリはその双剣に誓いを立てる。だがいざ誓いを立てようとしてあることを失念していたことを思い出す。
「…この双剣のお名前はなんですか?。」
名刀には須らく名がある。魔法剣という明らかに名刀であるこの双剣の名前を聞いていなかったのである。だがその質問に対するオウギの反応は予想していたものではなかった。
「名前か、……うーん、どんな名前かな。」
「名前ないんですか?。…えーと、その、この双剣の材料って…。」
ユーリは最初にオウギが言っていた言葉を思い出す。『造ったんだ』…とオウギは言っていた。ならばその材料は?ユーリの頭の中につい最近手に入れたSランク以上必至のある素材が浮かんでいた。
「あぁ、ミシュライオンの鱗だよ。かなり硬かったけど僕の魔力で無理やり練り込んだんだ。」
「…りゅ、龍王様の鱗。…」
予想が当たり何も言えなくなるユーリ。今この手にある双剣は伝説の素材で英雄級の人物が造ったこの世で一つだけの業物だ。その価値は恐らく…。ここで考えるのをやめるユーリ。考えてもろくなことにならないと悟ったからである。
「…名前、名前、名前、何がいいかなぁ。いっそミシュライオンって名前にしたらいいんじゃない?。」
「そ、そ、そ、そんなこと出来ません!。」
「そう?…じゃあ…『ルナレイク』にしよう。」
「…ルナレイク、…良い名前です!。大事にしますね。」
ユーリは新しい武器を手に入れた。そしていつかこの剣に劣らない実力を身につけると誓ったのだ。