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オウギの力の片鱗

「イッタイナニガ…オレノウデハドコニ…」

 魔族が失くした肘から先を見つめている。痛みに呆然としているわけでなく何故腕がなくなったかを疑問に思っていた。


「探し物はこれですか?。」

 そんな魔族に声がかけられる。その声は確かに聞き覚えがある声だった。しかし本来動けるはずのない人物のものであったが。


「…ニンゲン…。キサマアノキズデイッタイドウヤッテ。」


「お、オウギ殿⁉︎。そんな…あの出血で。しかも…命を繋ぎ止めるのが精一杯だったはず。」

 マスターがオウギの姿を見て驚く。そしてオウギの治療を任せていたアルクの方を見る。


「…あれ⁉︎。いつの間に。さっきまで確かに居たはずだったのに。」

 アルクの前にはオウギの姿もその体から流れ出た血の跡も消えていた。


「…あの傷?。そんな傷はありませんよ。」

 オウギが両手を上げて自分の体の正面を見せつける。傷はおろか服にも血の跡や破れた形跡もない。


「…ナルホド、ドウヤッタカハシラナイガタシカニムキズノヨウダ。ダガダカラトイッテフヨウイスギルナ。」

 魔族がニヤついた顔で言う。その腕から先は既に回復されており五体満足の状態になっていた。


「オマエハタシカニツヨイ。シカシマワリハ…」


「あぁ、動かない方がいいですよ。」


「…ザコバカリダ。」

 オウギを言葉を聞き終えることなく魔族がマスターに腕を振り下ろす。


「…グッ…⁉︎。ナンダ、マタダト⁉︎。イッタイ…ナニヲシタ‼︎。」

 またしても魔族の腕が消えていた。今度は振り下ろした左腕が肩から消失している。異常な事態の連続に魔族が怒りを露わにしオウギに向かって駆け出す。


「あ、そんな動いたら…」


「…ガッ…コレ…ハ………」

 魔族の体はオウギに届くことなくバラバラになってしまう。体を何かに抉り取られたかのように欠損がみられる。


「危ないですよ…って遅かったですね。」

 そんな魔族をオウギは冷ややかに見ていた。普段と変わらない物腰だが容赦はない。


「…オウギ教えてくれ。一体全体どういうことだ?。」

 バラバラになった魔族を見ていたコール。わけがわからずオウギに尋ねる。どこからがオウギに手のひらの上だったのか。


「それよりも…すいません、僕の考えが甘いせいで…『女神の慈愛』。…これで元通りになると思います。」

 オウギがマスターの方を向き直り魔族に引きちぎられた腕を持ち膝をつく。そして呪文を唱えるとオウギの手から淡い青色の光が漏れる。


「…なんと…。この魔法は高位の魔導…いや、何でもない。オウギ殿…礼を言わさて欲しい。この度は本当に感謝する。」

 青色の光に包まれていた腕。その光が収まるとマスターの腕は何事もなかったかのように引っ付いていた。これ程の回復魔法を使えるのは『聖母』や、高位の『魔導士』、後は伝説の『賢者』くらいだと考えたがマスターは自身の口を閉じる。オウギが自分から話さない内容に踏み込むことはしない。それがせめてもの感謝の行動だった。


「いえいえ、僕はある女の子の依頼を受けただけですから。父親の救出依頼でした。」


「なぁオウギ説明してくれよ。お前は何で動けたんだ?。」

 しびれを切らしたコールがもう一度尋ねる。彼としても結果的に魔族を圧倒した魔法を知りたい。それはさらなる強さを求める冒険者としては当然の欲求だった。


「…そうですね、まず僕が今回の依頼で大切にしたのは…全員の無事。しかしそれを確認するのには時間がかかります。なので一度戦いから退場して安否を確認していました。」


「だがよ、あの傷は…」


「あれは僕の…そうですね特技とでも思ってください。」

 オウギは特技と言ったが使ったのは道化師のスキルだった。道化師は手品師や軽業師の上位職にあたり一般的に冒険者を選ぶ職種ではない。なのであまり知られていないがある条件下では使用者に対する認識を変えることが出来るのだ。


「…それで…最後のことなんだが…」

 オウギが候翼の指輪を持つ以上それ以上踏み込んだ質問は出来ないと感じたコール。しかし最後の…魔族を葬った魔法に関しては全てを聞きたい。


「あれは空間魔法の応用です。あの魔族の周りに亜空間を設置したんです。そうですね、細い竜巻が何本もランダムに存在してると考えて頂ければ分かりやすいかな。」

 オウギは軽く言うがその場の冒険者達は驚愕していた。それはどんな堅牢な檻にも勝る檻だったのだ。動けば存在自体が搔き消える。


「…そんな…誰も思いつかない。いや、思いついても出来ない。」

 アルクがオウギの話を聞き隔絶された実力の一端を知る。発動の難しい空間魔法をいくつも発動する。さらには街の人の安否確認。マスターに使われた治癒魔法。


「…それでだが、報酬についてなのだが…」

 話を聞き終えたマスターが最後の懸案について切り出す。候翼の指輪を授かる程の強者。冒険者であればSランク以上の者の報酬についてである。


「あぁ報酬なら結構です。僕は美味しいご飯が食べたかっただけなんで。街に残っていた女の子と約束したんですよ。美味しいご飯を作ってくれるって。」

 オウギの頭に街で待つ女の子の姿が浮かぶ。


「…?。ん、それは…」


「ですから、僕の報酬は美味しい昼ご飯ってことです。いやー楽しみだなぁ。」


(…なんと。魔族の討伐、更には街に人々の救出をしておいて報酬を断るとは。流石ノードルマン様が選んだ強者。ただの強者ではなかったか。)

 報酬を求めないオウギの姿勢にマスターは感銘を受ける。オウギの株があがることは天井知らずであった。


「…うわっ⁉︎な、なんだ⁉︎。」

 突然トーマが叫び声をあげる。


「…マゾクヲ…アマクミタナニンゲン。オレハマダ…シンデナイゾ。シカシオマエニカツコトハデキナイダロウ。…ダガゼツボウヲクレテヤル。」

 霧のようになった魔族。オウギに一言告げ姿が消える。


「…また襲ってくるのか?。」


「構えろ!。」

 トーマ、ゲン、コールが各々戦闘態勢に入り警戒をする。


「…いや、魔族の気配が…消えた?。」


「あぁ、そうだの。今ここにはいない。しかし最後の言葉…絶望をくれてやるとはいったい?。」

 魔族の言葉の意味を図りかねる冒険者達。そこに、


「あ、呼ばれたんで行きます。」

 オウギの場違いな声が響いた。


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