かかった獲物は
カラッサスの街の中に突如して流れたある噂、ライオレイクの湖底に古代の城があるというのだ。その噂は瞬く間に街を駆け巡りギルドには人が殺到した。その騒ぎを聞きつけ休職中の職員も応援にやって来てギルドは一時的にでも以前の姿を取り戻した。
「はい、はい、そうなんです。ライオレイクの底にお城があったんです。すぐに王都に連絡を出します。その後は人が街に集まりますよ。それに探索の依頼も来ると思います。今のうちに空気石を集めておいた方がいいかもしれません。」
「いえ、現在はまだ捜索は禁止です。湖底まで距離にして百メートル。それだけの間、幸ある袋を維持できる魔法職の適性の方はいらしゃいませんか!、今なら高値でギルドが契約致します!。」
「不漁との関係性はまだ不明です。ですが城の前に魚にいるのを見たそうです。」
「え?発見した冒険者の名前ですか?申し訳ありません、機密保持の為お教えしかねます。」
喧騒の中にあるギルドの中でタリーニャは冒険者達を捌きながら観察していた。冒険者達に異質な存在が混じることを。そしてそれは来た、人混みに隠れ、顔が隠れる帽子を被ってはいるが見るからに荒ごとに慣れていない雰囲気を持つ人物。経験でその人物を見つけ出したタリーニャは指で弾くように水滴を飛ばす。その場で人物はそれに気づくことなくギルドをあとにする。
「…ふーん、あれか。確かに筋肉のつき方が冒険者じゃないねぇ。偉いさんか。やましいことがないなら姿を隠す必要はないもんね。」
タリーニャの影に潜っていたアネッサが足元から顔を出しタリーニャに尋ねる。
「…はい、それと多分あの方は…」
「あ、正体も分かった感じ?。」
「はい、…このカラッサスの代官です。長年この街を治めて来たのにどうして…。」
「…信念なき人間は欲に塗れて堕落するからねぇ。その欲が何なのかは知らないけど……気をつけて、この中に殺気を向けてる奴がいる。数は…5人。」
「…え⁉︎…あの、どうしましょう。ここにいたら帰って来てくれた皆が…」
「んー、それならこっそり裏口に回って。1人になった瞬間襲ってくるから。その場で動かないで。」
「…ごくっ…分かりました。…あ、申し訳ありません、所用で少し席を外させていただきます。あとはお願いします。」
アネッサのアドバイスを受けたタリーニャが隣に座る職員に一声かけて席を立つ。そしてギルドの裏口へと向かう。それに反応してギルドの中にいた男が数人外へと出る。
「…なぁ、あんた、誰が湖底に城があるなんて大ボラを吹いてるか教えてくれよ、あ、それと撤回も頼むわ。」
「あ、あなた達は何ですか。」
「はっ、黙ってろよ。まだまだあの城には利用価値があるんだよ、死にたくなければ言うことを聞くんだな。」
「…私は街の元気を取り戻したいんです。ですから…あの城のことは王都に報告します。勿論、上に許可なんてとりません、私設です。」
「…どこでそこまで知った?。…ちょーと詳しく話を聞かないといけないみたいだなぁ。おい、連れてけ。全部吐かせる。」
タリーニャの言葉から思わぬ領域まで情報を持っていることを感じた男達はタリーニャを捕らえる為にじり寄って来る。
「…女の子相手に5人って…、恥ずかしくないの?。」
ついに男の手がタリーニャに触れそうになった時そんな声と共にアネッサが影が飛び出す。飛び出しざまに男の腕を跳ね飛ばす。
「…は…?…な、なんだこれはぁ!。俺の…腕を!。」
「腕だけで済むと思わないで欲しいなぁ。私の名前はアネッサ。君達も裏に住む者なら…聞いたことはあるだろう?。」
「…アネッサ…アネッサってあの!…イシュタルの暗殺者。」
「元だけどね、今は…まぁ教える必要はないよね。どうせ…ここで殺すから。」
アネッサの体から黒い影が溢れ出る。
「…ひっ…!…化け物…。」
「そうさ、化け物さ。でもね、信頼を与えられた化け物は…手がつけられないよ。」
アネッサの額にあるツノには光が灯っていた。