恵の龍王
「…あ、…雨です。」
カラッサスへの道のりを往くオウギ達の頭上には黒い雲。そこからしとしとと雨が降り始めた。一斉に走り出し避難する人々。
「…オウギさん、この雨…。」
「えぇ、…魔力を多分に含んでいます。ただの雨じゃない。」
今頭上から降りしきる雨の異常さに気がついている人間はアネッサとオウギだけだった。
「…え?魔力ですか。…私には分からないです。…え!グーちゃん分かるの!。良いなぁ。」
雨に含まれる魔力を感知出来るグーちゃんを羨ましがるユーリ。
「ユーリちゃんは魔法系の適正がないからね。でももっと強くなればある程度なら分かるようになるよ。私もそこまで魔法使えないけどこれは分かるから。」
そのユーリを嗜めるアネッサ。当初はユーリに対して遠慮していたアネッサだがホーランジアでの日々でかなり砕けて喋れるようになった。
『キュ?…キュュ…』
オウギの頭の上に鎮座していたカノンは雨が当たると不思議そうに空を見上げる。
「…何か来る。『断魔の霹靂』‼︎。」
自分達の頭上に大きな魔力を感知したオウギは対魔法の障壁を展開する。
『グギャアアアアアァァァ…‼︎。』
黒雲が割れ姿を現したのは青い龍。長く伸びたその体で蜷局を巻き、羽もないのに空に留まりオウギたちを睥睨している。
「龍⁉︎…大っきい。私初めて龍を見ました。」
『キュ⁉︎…キュキュキュ‼︎。』
ユーリが呟く。その呟きにカノンがいや、私も龍だよ!と声を上げる。
「…青い鱗、それにこの雨。…まさか龍王ミシュライオン…。」
一方アネッサは空を見上げたまま唖然としていた。その口から出たある単語はオウギにとって聞き覚えのある単語だった。
「…龍王?…ってことはカノンの親と同じということですか?。」
「え、あ、うん。そうなるのかな。…びっくりしたなぁ、七大龍王の一角にお目にかかれるなんて。」
「僕は二体目ですよ。そんなに珍しいことなんですか?。」
「うん、そもそも龍種自体が数が凄く少ないし人前には殆ど姿を見せない。龍王はその生息域すら判明してないし雲の上を飛ぶから姿も見れないんだよ。でもその中でもこのミシュライオンはまだ目撃談が多い方だと思う。前は20年前に目撃されたらしいよ。それに姿は見えなくてもミシュライオンの恩恵を受けたと分かっている土地はあるんだ。」
「その理由はね、この龍王は恵の龍王って呼ばれてるんだ。…ほら、見て。」
アネッサがオウギ達に周りを見るように言う。それまでミシュライオンに気を取られていた2人は視線を下に向けて驚きの声をあげる。
「えぇ⁉︎。…ここ、さっきまで荒地だったのに。草が生えてます。」
「…さっきの雨か。あの魔力で土地自体を活性化させた。」
驚くユーリと地面に手を触れるオウギ。オウギは先ほどまでと別物のようになった土を弄りながら言う。
「そう、ミシュライオンはその纏う雨で大地を潤すんだよ。だから見られてなくてもそこにいるって分かるんだよ。」
「あの…その雨を降らせる理由ってなんなんですか?。」
「それは分からない。ただの気まぐれかもね。龍にとっての時間の流れは人とは違うだろうから。」
「…で、問題はその恵の龍王が何故姿を見せてこっちを見つめてるのか分からないことなんだよね。」
依然オウギ達の頭上にはミシュライオンがいる。何をするでもなくじっとこちらを伺っている。
『…キュ?…キュキュ!。…キュアァ!。』
突然カノンが声をあげる。
『…龍の子を育てし強者よ。…其方の力を貸してくれ。』
オウギ達の頭に謎の声が響いた。