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1-④ そりゃウケるわけないだろ、あんな状況でやったって

 木の本数を数えるのは誰しもが嫌がるような、うっそうとした森、名をイザクショーの森。人族も魔族もほとんどここには住んでおらず、開発もまたされていない部分が大半だ。

 しかし今シコロモートとギムコがいるこの場所は違う。あらかじめギムコが魔法で木を切り倒して椅子や小屋を作っておき、住まいとして使える様にしておいた。

 さらに開けた場所を清掃、芝生を魔法で生やしたため寝転んでも気持ちがよく、陽射しも降り注ぎ、風も抜けていく快適な場所でもある。


「くそう! 何故じゃ! きちんと理論理屈に沿って研究したが故のお笑いだったんじゃぞ! 余の自信作だったんじゃぞ!」

 しかしそんな快適な環境条件も己の暴れ狂う感情の処理に精いっぱいなシコロモートの前には何ら意味をなしていなかった。

 ギムコが作った甘口にしてはちみつ入りカレーを何杯も食べながらも。

 デザートとして買ってきた多種な果物にもぱくつきながらも。

 これらによりシコロモートの舌は喜び、一瞬だが嬉しそうな顔をする。が、即座に目じりに涙が浮かびそのまま泣きわめく。


「何がいけなかったんじゃ! ギムコ! 余の考えたネタは完璧であったはずだ! じゃのに! 何故!?」

「シコロモート様、行儀が悪いです」

 口から噛み潰せなかったご飯粒を飛ばしながら、騒ぎ立てるシコロモートをギムコは口でたしなめた。

「行儀などこの際どうでもよい! あ、でもお前のこのカレーはうまいからお替りが欲しいのじゃ」

「はいはい」

 渡された器にご飯とカレーを盛り付け、ギムコはシコロモートに手渡した。温かさを裏付けする湯気を出すカレーをもらうなり、シコロモートはかき込み始めた。


「くそっ! くそくそ! 面白いんじゃ! 笑えるはずなんじゃ! 余は1人で考えたとき大笑いしてたんじゃ!」

(はあ……またやけ食いか……そんでこの後腹が膨れたので寝る。前にも同じことやって翌日何もできなかったのを忘れたのか? この元魔王は……)

 その時の光景をギムコは思い出す。

 一番最初に漫才を披露してダメだったときに、泣きながらギムコの作ったからし入りおでん、ギムコの好物である、をばくばくと食べ、そのまま歯も磨かずに寝てしまった。

 結果、虫歯になるわ胃が痛いと喚くわで、1日中回復魔法をかけまくって相当な苦労をしたのだ。


 そんな世話を再度焼くのはごめんである。だがこのまま自体を静観していては、それを繰り返すのは目に見えていた。

 だからこそここでやけ食いを止めるか、または精神状態をある程度立て直す必要があるのだ。

(仕方ない……作戦のためにも、また病気にでもなられたら面倒だしな……)

「あー……私は面白いと思いましたよ。シコロモート様の漫才」

 これまで完食する以外停止とは無縁にいたシコロモートの匙が止まった。そして悲しみいっぱいだった顔がみるみる変わっていく。

「おおおおおおお! どこが!? どこがおもしろかったんじゃ? やはり箸の部分か? 内臓脂肪のところか?」


 一瞬で元気を取り戻し、目を輝かせながらこちらに迫ってくるシコロモート。

 そんな彼女の口元にカレーのルーがかなりついていたため、そこを手持ちのタオルでふき取りながらギムコは答えた。

「……風呂に入ってないからかゆい、とかの件は面白かったですね」

(って言っておけば喜ぶだろ)

 本音が全くないわけではなかったが、極めて打算に基づいた答え。それはシコロモートの心に満足を算出した様で、途端に顔が崩れる。


「そこか! 昨日お前とお風呂に入ったときに思いついたので、急きょ入れてみたのじゃ! あそこが面白かったか! これは書いておかねば!」

 服の中に隠していたメモ帳を取り出し、シコロモートはそれを即座にメモする。尤も急いで書いたため、シコロモート以外には解読できない独自言語と化したが。

「それにしてもやはりお前は見る目がある。余はお前の様な後継者を持つことができて幸せじゃぞ!」

「そりゃどーも……」


 だが花の命が短い様に、笑顔もまた短いもの。再び元の泣き顔に戻る。

「しかしお前に面白かったと言われたのは嬉しいが、あいつらにはウケなかったのじゃなあ……何故じゃろう? どこで選択を誤ったんじゃ……!」

(そりゃウケるわけないだろ、あんな状況でやったって)

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