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15歳のラノベ作家とイラストレーター  作者: 黒目 朱鷺
15歳のラノベ作家とイラストレーター 一枚目
6/9

その打ち切り作品を持つ作者は求めていたものを見つけたようです!?

 カリカリと音がする。


 なんの音かはわからないが、何かを書いているような音がしていた。


「ふぁーー。よく寝た」


 布団から体をお越し、大きくあくびと伸びをした。


 寝ぼけつつ、頭の中を整理する。




 そう。忘れていた。


 俺は昨日、元後輩の訳あり女子と一つ屋根の下、なぜか添い寝していたことを。


 バッと布団を跳ね飛ばして、暁槻の家の居間へ向かうとそこには、机に置いた板を前に真剣な面持ちで左手に持つ、黒いペンを走らせていた。


 静かに暁槻の後ろを通る。


 そこには、昔魅せられたイラストと画風やタッチの似た絵が、液晶に映し出されていた。


 よくよく見ると、暁槻が真剣な面持ちで見ていたのは、ラノベ作家なら知っておいて損はないであろう、HUIONのシルバー色の液タブに映る、Clips tudio Paintのプロ版のキャンパスだった。


 思わず俺は、暁槻の集中を遮るように声をかけてしまった。


「あ、暁槻、それって」


 その俺の声にハッとした暁槻は、液タブの電源を落とした。


 でも俺は、気づいていた。液タブを落としても本体のパソコンには映ったまんまだと。


「み、見た?」

「見た」


 ここで嘘をついても意味はないし、聞きたいことがある。


「あ、あのさ?もしかして暁槻ってこの絵の作者なのか?」


 そういって俺はポケットに入っているスマホから、昔惚れたイラストの写真を写す。


「そ、それってボクが昔、pixivに投稿した処女作!?」

「ああ、やっぱり、取っておいてよかった…」


 焦って変な行動を始めた暁槻をよそに、俺はパソコンに映る、先ほどまで暁槻が描いていた絵を見る。


 それは、細部にまでこだわって、キャラの個性を絵だけでも表現させるほどのイラストであった。

 

 イラストから溢れ出る個性はどこか見覚えがあった。

 

 俺はそのイラストには、ただただ惚れ直していた。また、こんな絵が自分のラノベの挿絵だったらいいとも思った。


「なぁ、これってオリキャラ?」

「ひゃ?い、いやっオリキャラなんかっかかじゃにゃ、にゃ、にゃいよ!!」

「あ、ああそうか」


 ふと、俺はスマホの時計を見る。


 時刻は朝の四時三十八分を示していた。


「暁槻、ここ何時に出るんだ?」

「え、ええ?あ、あああん?五時ぐらいかな?」

「…三十分もねえぞもう」

「ウソ!!」

「あ、元に戻った」


 叫んだ暁槻は急いで服を着替えたのか、隣の部屋からは布と体のこすれる音が聞こえた。

 

 そうして、暁槻が帰ってくるまで、居間で座っていた俺の鼻にいい匂いが漂ってきた。


 俺は、体を後ろを向くと、制服にエプロンを身に着けた暁槻が立っていた。

 その暁槻の手には昨日のようにお盆を持っており、朝ごはんをまた俺の分まで作ってくれていたようだった。


 軽めの献立ではあったが、栄養バランスにそこまで知識のない俺はなんとなく、バランスいいのだろうと思っていた。

 

 


 朝食を食べ終え、俺も学校の用意をし、暁槻とともに家をで、バス停へ向かった。


 走って向かうと、ちょうどバスも来ていた。


 昨日と同じバスの運転手だなと思いながら二人席へ座る。


 窓側へと座った暁槻は、制服のポケットからスマホを取り出し、何かを調べ、スクロールしていっていた。


 その仕草は、メールを読むのとは違い、電子書籍を読むようであった。


「暁槻、何見てんだ?」

「ああ、これ?城鋼文庫の新シリーズランキング」

「うっ!」

「ど、どうしたの?!」


 俺は思わず、あの一件を思い出してしまった。

 はやららせこの野郎…


「い、いやなんでもないよ」


 冷や汗が少し出つつも、バレるのを回避した。


「この作品。打ち切りかな。絵がなんかしっくりきてない。女性陣がなんか幼女みたいな顔立ちな気が」

「ああ、それは、イラストレーターのはやららせって人が、幼女趣向の変態おっさんだからだよ」

「なんで知ってるの?」


 口を滑らした。思わず、暁槻のコメントから自分の作品だと思い込んでしまった。


「い、いや。違う」

「なにが?この作品のイラストレーターはやららせって人だけど」

「やっぱり俺の作品じゃねーかー!打ち切りもバレてんじゃん!!」


 バス車内全域に響くように叫んだ俺の声は、悲しくバスの外へと流れ、静かさを取り込んだ。


 空気が重たい。いくら乗ってる人が二人だけとはいえど、この静かさには悲しさを覚えた。


「え?この作品って依音が?」

「ええ。そうですよ。どうぞ打ち切りになった新人作家を笑いなさい。ははは」


 もう虚しさしか残っていなかった。


「本当にこの、主は竜の使い。の作者なの?」

「ええ。ほんとにほんとです。証拠ならこのスマホの画面をどうぞ…」


 そういって暁槻に手渡したスマホの画面というのは、城鋼ネット文庫のユーザアカウントページ。

 作家特別の仕様になっており、一般アカウントとは機能の数が少し違う。


「へー。ほんとに作者なんだ。じゃあ、ボクの絵を見て何か感じた?さっきまで描いてた絵」

「あ?あのイラストか?なんだろうな、ものすごく親近感と達成感というか、求めていたものを発見できた思いがあったかな?あと、きれいで惚れた」

「にゃ、にゃにさほ、ほ、惚れたって!!」

「そのまんまの意味だけど?」

「そ、それはそれとして!!」


 そういって頭を振る。


「こ、この絵はオリキャラじゃないって言ったでしょ?どこのキャラだと思う?」

「まさか、その言い方と話からして、俺の主は竜の使いのキャラなのか?」

「そう!ヒロインのアナスタシアと、主人公の竜也を背中合わせで描いてたの!」

「だから親近感が湧いたのか。それなら納得だ」


 俺は、うなずきながらそう返した。


「あ、あとさ?城鋼の作家ならこの質問に乗ってほしいんだけどいい?」

「おう。なんだよ?」


 そういって、俺のスマホと共に、暁槻のスマホを受け取った。


 その画面には、どこかからのメールだった。


「拝啓 紅月さま

  この度、あなた様のpixivに投稿されたイラストより、イラストレーターへの活動をおすすめいたします。

  もし、このメールをお読みいただき、イラストレーターとして活動する気がございましたら、下のURL、またはこのメールアドレスへ送り返していただけると幸いです。

  つきましては、わが文庫、城鋼文庫への挿絵のご依頼をさせていただきたいと思っております。


  よいお返事お待ちしております。」




 なんだ。この文章。前にも読んだことあるぞ。そうだ、あれは一か月ほど前…


 完璧に佐々流さんのオファーメールだ!


 そうわかった瞬間、俺はスマホの電話帳を開き、佐々流さんへの電話番号をタップした。


「プルルル…ガチャ」


 ワンコールかよ!本当に社畜なんだな。と憐れみながら、佐々流さんへ問いかける。


「あ、もしもし、恋ですけど」

『ああ、恋先生ですか。どうかしましたか?』

「二週間ほど前に、紅月。という方へオファーメール送りましたか?」

『うん?なぜそれを先生が』

「僕の友人ですそれ。しかも前に話した、惚れさせられた絵を描いた張本人です」

『なんと偶然。それで?紅月さんはなんと?』

「現状困ってるみたいですけどね。なにせ俺の時みたいに急にメールしたんでしょうし」

『あ、ばれました?またなんもなしにメールしましたから』


 電話越しでも、いま彼が笑っているさまが浮かぶ。


「それでなんですけど、俺と紅月のラノベ作品を来年、卒業後に文庫を出してもらえないでしょうか」

『ふむ。つまりは、紅月さんを先生のラノベのイラストレーターにしたいと?』

「そういうことです」

『検討しましょう。早めに結論を出したいと思いますが、これは少し会議が必要でしょうから、お時間を下さい』

「ほんとうですか!?ありがとうございます!」

『どうなるかはわかりませんがね』


 そういって、佐々流さんは通話を切った。


 暁槻に事情を説明すると、直しきれなかった寝癖がなぜか喜ぶかのように左右に激しく揺れていた。


 その時の暁槻の顔は、輝くかのように、子供が新しいおもちゃを貰ったように嬉しそうな顔をしていた。


 その顔には思わず、俺も嬉しくなってしまった。


 そのあとの学校までのバスはくだらないことを話し続けていた。


 時にその話は、俺の書いた話の裏話。打ち切りになった作品の裏話などいくらでもしたるわ!この後の続きや結末まで!

 ほんとうにはやららせ許すまじ


 また、話は暁槻がイラストを描き始めた理由や、好きなジャンル。


 本当にくだらない話ばっかりしていた。


 また、あのいじめと呼ぶほどでもない、餓鬼くさい行動への対応をしなくてはいけないのに。


 その時だけは忘れていれた。至福の時だった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 恋からの通話を終えた佐々流は、足早に編集社へ向かった。


 いつもは電車通勤なのだが、大事な作家ということもあり、急ぐために車を走らせた。




 頭の中にはほとんど企画書の内容は浮かんでいた。

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