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[中止中]伯爵の次男に転生したけど旅に出ます。  作者: 椎茸 霞
「そうだ、王都へ行こう」
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副団長の誘い

俺は静かに、手元に残った「スカラベバスター」ーアイテム名は「スカラベバスター(壊)」になっているがーの持ち手部分を足元に置いた。

間合いに気を付けつつ「虎撃(とらうち)」を抜刀する。

まぁ、抜刀するまでナスカさん自身攻撃する気は無かったみたいだが…。


「それじゃぁ、続きを始めますか」


「どーぞ…」


今までの対戦相手とは比べものにならない速度で、ナスカさんは間合いを詰めてきた。

恐らく「加速」スキルだろう。


たった4レベルでも、常人に比べたらかなりのスピードだ。


俺は「虎撃」のスキル「縮地」で避ける。

しかし…


「武器に「縮地」があるのは私も同じだよ」


「ッ!?」


移動した先に、同じく「縮地」で追いついて来たナスカさんが斬撃を繰り出してくる。

怒涛の連続攻撃。

俺の乏しい語彙力じゃそうとしか言えない。


経験の差というものだろう。

俺が「縮地」や「加速」で距離を取ろうとしても、同じ様に「縮地」や「加速」で距離を保ってくる。


正直、体育館程度の闘技場の広さでは「疾走」とか「跳躍」は使いづらい上に、調整が難しい。

どちらもスキルレベル10の俺が発動すると壁や天井に激突するだろう。

であれば、スキルではなく、単なる身体能力だけで走って跳んだ方が良い。

レベル600超え、ナメんなよ!


更に付け加えるとすれば、武器の相性が悪い。

俺は「虎撃」を使用している。

これはカテゴリとしては「剣」になっているが、実質「刀」というほぼ別カテゴリとも言える武器だ。

一般的な「剣」は、「斬る」以外に「突く」「打つ」と言う事も攻撃手段に想定されている事がほとんどで、

乱暴に説明すると「刃こぼれしても良い」様にも出来ている。


対してこの「虎撃」は「刀」…つまり「斬る」事に何よりも長けている。

やろうと思えば「突く」事も「打つ」事もできるが…刀身が独特の反りを持つため、

持ち手と切っ先の位置が微妙にズレ、突く的を外しやすく、

峰打ちも、普段と逆に刀身が振られる為空気抵抗が増し、太刀筋がブレる。


「そんな些細な変化は良いんじゃないか?」

と最初は俺も思ったのだが…ここで俺のチート能力の弊害が出てきた。


「剣」スキルは10レベル。

このレベルのせいで、些細な事がやたらと気になり手元に違和感を強く感じさせる。

加えて「反射」スキルがその違和感を緩和しようとするのだが、同じ様な理由で違和感に違和感を増やすだけになった。


結果、全く心が休まらない。

注意散漫になる。


別に相手の事を気にしないで良いならともかく、今は違う。


加減が必要なのだ。


そして、その相手…ナスカさんの武器は「大剣」。

「斬る」事を意識してはいるが、どちらかと言えば質量武器…ハンマーや棍棒に近い、文字通り「重い」一撃に長ける。


俺の持つ「虎撃」じゃ、正直受け止めるのは論外だ。

刀身が曲がる、歪む、刃こぼれ…etc.

デメリットしか考えられない。


結果、先ほどから俺はナスカさんの攻撃を逸らしたり、受け流したり、峰で弾いたり…そんな防戦一方だ。


つまり、

「虎撃」の心配、「レベル差」の手加減…この2つに気を使っている状態だ。


なのに…


「守るばかりじゃ勝てないぞ!」


「でも、さっきから一撃も当たってませんよ?」


「ちっ…!」


この人なんなの!?

全身鎧(フルプレート)のくせに想像以上に速く動くし、扱ってるのは「大剣」のはずなのに、普通の「剣」でも振るうかの様に連続で攻撃してくるし!

それに、既に打ち合いが始まって10分ほど経っただろうか…それでも攻撃速度は一向に落ちない。


確か「タフネス」スキル持ちだったか…。

それと「筋力増加」スキルに…「加速」スキル…「反射」スキルも持ってる。


俺みたいなチート能力ならまだしも、普通の人でこの強さ…さすが副団長だな…。


ん…?

だとしたら…アルトリウスってどんだけ強いの?

コイツより強いってのか?


「貴様…さっきからずっと戦いに集中していないだろう!!」


最初に「スカラベバスター」を断ち切った時の様な、超威力の振り下ろし攻撃。


ハッとして「縮地」で回避する。


…またしてもナスカさんの大剣は地面に深々と突き刺さった。


「こんの…わっちはこうも真剣だって言うのに貴様は「心ここに在らず」のままに戦いおって!!

手加減なら要らぬ!!

全力でわっちに刃を向けよ!」


…ナスカさんが子供みたいに地団駄踏みながら叫んでいる。

全身鎧(フルプレート)の為に、動くたびガシャン!ガシャン!と耳障りな音が響く。

それに、相当ご立腹らしく口調がかなり変わっている。

さっきまで一人称「私」とかだったのに。


それにしてもあの怒りよう…ヘルムで顔は見えないが、結構赤くなってるんじゃ無いだろうか?


はぁ…こうなりゃ仕方ない。

ちょっとだけ本気を出しますか…。


「真剣な手合わせを行わなかった事、謝罪します」


俺は「虎撃」を納刀し、懐から別の得物を取り出した。


「それにしても貴女の攻撃は侮れない物があり、自分自身いろいろと勉強になる点も多かったので、感謝もお伝えします。


お詫びと言ってはなんですが…こちらも少し本気を出させて頂きます」


刃渡り30cmにも満たない「スカラベナイフ」。

それを王都で改良した「スカラベナイフ改」。


高純度の「玉鋼」と、「竜甲虫(ドラグーンスカラベ)」の甲殻の中でも密度の高い部分を選別して作り直した物だ。

ちなみに「玉鋼」は鍛冶屋のおっちゃんから購入した。


結果として

「耐性:物理」と「加速:極大」、そして「予測」と言う新たなスキルが付与されていた。


この「予測」スキルだが、あくまで「予測」であって「予知」ではない。

相手の姿勢や動きから、数瞬先の行動が脳裏に浮かぶのだ。

スキルレベルに左右されない特殊なスキルでもある様で、個人のレベルがどんなに高くても8割までしか的中率は上がらないらしい。


まぁあくまで戦闘の参考程度にした方が良いだろう。


「台詞の割に貧相な武器を取り出したな…」


「そこまで弱い物じゃ無いですよ」


ナスカさんは地面から大剣を抜くと、両手でしっかりと構えた。


「…いつでもどうぞ」


「言われなくても、やってやる!!」


「縮地」と「加速」により一気に距離を詰めて来たナスカさんは、正直女性とは思えないほど全力の雄叫びを上げながら、その大剣を振り下ろして来た。


「ゥオオオオオアアアアアアアアアアッッッ!!!」


刃に視線を釘付けにし、的確な行動をすぐに思考する。

ふと、振り下ろされる大剣がゆっくりに見えた。

だからなんだと言うもの。


俺は振り下ろされた大剣の横っ腹に対し、瞬時に裏拳を当てた。


「!?」


軌道が逸れ、俺の左肩横を紙一重で通り過ぎた刃は、本日3度目ながらも地面に刺さる。


態勢を立て直される前に左腕でナスカさんの腰に腕を回しつつ、俺は「スカラベナイフ改」を彼女の喉元に当てた。


「はい。まだやりますか?」


「く…わかった。わっちの負けだ」


ほっと一息ついた瞬間、観客席から盛大な喝采と拍手が鳴り響いた。

よく考えると、ナスカさんとの対戦はみんなかなり静かだったな…。


「いやぁ〜まさかナスカちゃんが負けちゃうなんてねぇ。

驚きだよ」


「団長に負けた時よりは悔しく無いです、てか黙れ、死ね」


「手厳しいなぁ」


アルトリウスが軽く拍手をしながら来た。

てか、この2人の上下関係は一体どうなってんだよ…。


その後、対戦した方々も改めて集まり、閉会式…と言うほど仰々しいものじゃ無いが、取り敢えずアルトリウスが「これからも精進しろよ」的な言葉を皆にかけて締めた。


〜〜〜


「弟殿」


そう言って俺は呼び止められた。


手合わせも終わった事だし、適当にご飯を食べて解散しようかと話をしていた時の事だ。


「え?…あの、どちら様で?」


薄い緑…と言うか、ペパーミント味のアイスクリームみたいな色の長髪をポニーテールにした女性が、そこには立っていた。


「ナスカよ。

声で分かりなさい」


無理言うなよ…。

ヘルムのせいで顔が見えなかった上、声もそれなりにくぐもってたし…。


「ところで、弟殿は今日の夜、予定はあるのかしら?」


「え?そうですね…夜は特に何も無いですが?」


「なら、もう一度ここに来なさい」


何その突然なお誘い。


「か、勘違いなどするなよ!!

守衛団の数名で今日の健闘を讃え、軽い飲み会でもという話になったんだ!!

決してわっちが提案したわけじゃないぞ!!」


何その突然なツンデレ…。


んんん…だとしたら、みんなを連れて行くのもなぁ…


俺がみんな…特にレイラや馬車の中からこちらを伺っているランを見ながら難しい顔をしていると、

それを察した様にナスカさんが口を開いた。


「連れの者も連れてきたらいい。

団長から聞いているし、今日の飲み会に出席する者は、そこらの偏見が無い…と言うかむしろ何も考えていない者たちだ…。

気に掛けなくても大丈夫だ」


なんと。

兄上も粋な計らいをしてくれるじゃないか。


俺はナスカさんに夜に改めて伺う事を伝え、帰路に着いた。


〜〜〜〜〜


「コレが…急に騎士団が植えたと言う「草」か…」


「あぁ。どうやら魔獣を呼ぶ特性があるみたいでよ、最近ここらの魔獣が増えて来ていやがる。


あの変な男と商人を王都に送ってすぐにコレだ。

無関係じゃ無いんじゃないか?」


トカゲ頭の男と狼頭の男が、草花にしては大きな植物を前に、神妙な面持ちで話しをしていた。


「魔獣を呼ぶ…にも関わらず人間が意図的に植えたもの…であるとするなら、コレは魔獣を呼ぶと同時に何か利益のある物かも知れない。

コレだけの大きさなら…肉食性の植物、それも魔獣を食べる草…と考えることも出来る」


トカゲ頭の男は草の中心部を見つめて言った。


「あの商人女と関係するなら、フェリオルも何かの情報を持っているかも知れん。


ガリア…調べてくれるな?」


「あぁ、オヤジが言うなら可能性は高いだろうよ…」


そう言うと、ガリアと呼ばれた狼頭の男は森の中に入っていった。

草の前にはトカゲ頭の男のみが残る。


「…イザナイグサか。

恐らく魔獣被害に対する防衛策…と言ったところか。

差し当たり、

大型魔獣や大量の魔獣が現れた時に、コレが有ればある程度魔獣が集まる場所を予測できる…と言った考えだろう。


なら、その策を…逆手に取らせてもらおう」


トカゲ頭の男は、懐から笛の様な物を取り出した。


「ちょうど、こう言った品が届いた所だしな…」


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