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[中止中]伯爵の次男に転生したけど旅に出ます。  作者: 椎茸 霞
「そうだ、王都へ行こう」
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内壁の中

王都「内壁」。


34大通りに面した騎士団詰所に、俺は立っている。


「それにしてもヤマト君…お供が多いと、お兄さんは思うんだ」


「奇遇ですねお兄さん。俺もだ」


俺の後ろには馬車がなんと3台…。


1つは俺の馬車。

なんとランも含めた旅の道連れ共が乗っている。


2つめはカルナさん一行。

妹さんのテレシアさんとフォルグスさん、ミーアというメンツ。


3つめはレンタルの馬車で、馭者台に座る男は雇われであり、荷台にはヒビキさんとルーシーさんが乗っている。


「えっと…」


「まぁ流石に門前払いはアレだから、みんな入ってきて良いよぉ〜」


「ちょ、ちょっとアルトリウス!話が!!」


俺は「兄上」の首根っこをつかんで少し離れた場所に来た。

初めてアルトリウスと会った時もこんな感じだったな…。


「あの…兄上…めっちゃ言いにくい事がある…」


「なになに?お兄ちゃんに言ってみーーごふっ!!」


ゴメン…反射的に殴ってしまった。


「あの…さ…。

俺の旅の連れなんだけど…その…」


「うん…?」


「ほとんど亜人なんだよね…」


「あははははは…オマエ、マジカヨ」


「スマン、マジダ。」


アルトリウスの頬を冷や汗が一筋通るのがわかった。

表情も苦笑気味だ…。


「んんん…猫人族とか犬人族辺りなら頭に布でも巻けば…待って、あの赤い布を頭に巻いてるのは?」


「猫人族…」


あぁ…すげぇ。アルトリウスの眉毛が面白い感じに歪んでる。


「あのシスターは…?」


「人間」


あ、ホッとしてる。

今めっちゃホッとしてるよ兄上。


「ちなみに、荷台に黒龍人と女郎蜘蛛(アラクネ)族が居ます」


「あーらーくーねーかぁー」


アルトリウスは両手で顔を覆って、天を仰いだ。

ですよね。

女郎蜘蛛(アラクネ)はフォローのしようがない。

分かっていたさ。


だが…みんな着いてきたんだもん!!!

止めたのに!!


「みんなで行っちゃおっか!!」


あの時のカルナさんは活き活きしてやがった…。

何考えてんだあの人!!!


〜〜〜


「商人女。何故亜人共も連れて行こうとか言ったのですか」


シスター服の少女が、ピンク髪の女性に詰め寄っていた。

マリシテンとカルナである。


「猫と弟子は…まぁ持てる全力を遺憾なく発揮すれば、なんとか人間だと誤魔化しようがありそうな気がしないでもないですが…


蜘蛛女は無理でしょう」


「ま、大丈夫なんじゃないかね?

ほら、アンタらのご主人様が頑張ってるじゃないか」


ニヤニヤと笑いながらキセルを吹かすカルナは、向こうの方にいる守衛団の団長と少年を見やった。


〜〜〜


「ーーーよしじゃそれでいこう。


馬車には今回の手合わせに使う道具がいろいろ入っている上に、貴重品もいろいろ有るから誰にも触らせない様にするって事で」


割と苦しい設定だが…まぁ何とかなるか…な?


正直使う道具とか、王都で買ったりした武具関連は全部「アイテムボックス」だからガッツリ嘘なんだけど…。


話がまとまると、ウチの「兄上」は意気揚々と詰所の方に戻って行った。

大丈夫だろうか…。


と言うより、そもそもアルトリウスが亜人に対して全然偏見を見せなかった。

確かに驚きはしていたが、どちらかと言えば「どうみんなに説明するか」に悩んでいたワケであり、本人は別段亜人に嫌悪感を向けたり、そういった差別はない様だった。


出来た兄上じゃないか…とちょっと見直しそうになった。


〜〜〜


「了解しました。

それでは、ヤマト様の馬車以外はこちらで預からせて頂きます」


兄上よ…何を言ったらそうすんなりと受け入れて貰えるんだよ…。


「ちょっとお前の正体バラしちゃった」


どうやら、弟だと言ったようだ。

それで良いならいろいろアリじゃないか?


…はぁ。

考えるのは止そう。


さて、王都の「内壁」の中に入ったわけだが、前にも言われていたようにこの「内壁」はほとんど「砦」だ。


ただの壁ではなく、設計、建築された「施設」なわけだ。


内部は4階層。

1階は事務的な作業を行ったりする事がほとんどで、何かしらの会議を行う部屋も1階にあるのだとか。


2階は各部隊の団長や副団長などの「役持ち」と呼ばれる高官達の私室や、武器や鎧の倉庫、そのメンテナンス施設などがあるらしい。


3階は全部が居住スペースで、何箇所かに簡易的な売店もあるようだ。


そして4階はトレーニング施設や闘技場などがある訓練区域で、日夜兵士達はこの4階で修行に励むみたいだ。


ある意味、王都の騎士団が住むこの「内壁」の構造について、そんなにペラペラと話して良いものなのか?とアルトリウスに聞いたところ、

どうやら学校や孤児院の子供たちが見学に来ることもある上に、

そもそも内部構造を知っているからと言って、わざわざ現役の騎士団が寝泊まりする「砦」に自ら忍び込むバカは居ないんだとか。


それもそうか。


とは言え、国の重要施設であり、王城までの防衛ラインでもあることから、24時間の交代制で見張りが至る所に居るようだ。

身内に見張られるってのも…何とも言えないな。


さて、その他に驚いたことといえば、

この「内壁」の中には馬車一台など余裕で乗り込める大型のエレベーターがある。

1階からと4階まで続いているようだ。


「コレは…どうやって動いてるんだ?」


「まぁ、さすがに「上下室(ムーブボックス)」は珍しいよな」


上下室(ムーブボックス)」と言うのか…まぁ、ある意味そのまんまだな。


「正直魔法で動いてるらしいけど、俺は魔法がニガテだからね。

分かんない」


出たよ。魔法。

なんでも魔法って言えば許されると思うなよ!


話は逸れるが、

この世界に来てから本屋で購入した魔法の入門書とか呪文集とか、そういった本はそこそこ読んでいる。


だけどなんだろ…頭に入ってこない。

理解できないワケでもないし、内容を忘れたわけでもないが…なんなんだろう。

不思議だったので、ヒビキさんに尋ねた事がある。


「魔法は…指導者が居て…初めて理解できる…ものなんです…よ。

どういった…理由かは…分かりません…が…私も…ユキカゼに…習うまで全く…分からなかったです…し」


と言っていた。

そんなユキカゼ自身も、基礎が少し分かる程度で、教えるのは下手だとヒビキさんは言っていた。

教わった本人が下手だと言うなら、下手なんだろうよ…。


では何故「魔法の入門書」があるのか。


魔法の使えない人間からすると完全に無用の産物らしい。

かと言って魔法を使える人間から見ても「嗜好品」の類に分けられる様な本らしい。


出版すんな、紛らわしい。

1銀貨返せ。


はぁ…とにかく、現状は教えるのが上手な「魔法の使い手」に出会わない限り、どうしようもないわけだ。


魔法か。

ファンタジーな異世界なら使ってみたいよ、まったく。


そうこうしているうちに、「上下室(ムーブボックス)」は内壁4階の訓練場前に到着していた。


「んじゃ、ちょっと訓練場見てくるから待ってなぁ」


軽くひらひらと右手を振りながら「兄上」は一番手前にあった両開きの扉の奥へ行ってしまった。


はぁ…なんでこんな所にいるんだろ、俺。


言わずもがな、数日前にアルトリウスに「57レベルです」と言ってしまった自分の過失だ。


もっと広い意味で言えば、前の世界で事故ったりして死んだから、この世界にいるのだ。


騎士団…恐らくアルトリウスが団長を務める「守衛団」の方々との手合わせなんだろうけど…めんどくせ…。

それが本音だ。


まぁいい。

この手合わせの後には、アルトリウスから「スレイブキリング」について、守衛団で知り得る情報を、教えられる範囲で教えてくれるという事になっているので、割り切ろう。


対価の為の労働だと思おう。


〜〜〜


「は〜い、お前らちゅうも〜く。


こいつが、俺の弟…分のヤマト・クロードだ。

俺よりレベル高いらしいし、今日は遠慮なくコイツとやりあってくれぇ」


「兄上」は一瞬普通に俺を弟だと言いそうになりやがったな。

ヒヤヒヤさせないで欲しい。


俺たちが案内された闘技場は、想像よりは狭いものだった。

とは言っても学校の体育館くらいの広さはある。

んん…だいたいバスケコート2面分が余裕で入るくらい、と言えば想像しやすいだろうか?


全体的には長方形の闘技場であり、その長い辺に位置する両サイドには、観客席的な5段のベンチがズラッと並んでいる。


体育館の様な広さとは言え、地面は板張りではなく土だ。

わざわざ敷き詰めたんだろうか…?


観客席には既にカルナさん一行とヒビキさん、ルーシーさんが座っている。

反対側の観客席には守衛団の人だろうか?兵士達がそれなりの数座っている。

非番の人だろうか?何人か私服っぽいラフな格好の人も居るな。


見世物ジャナインダゾ。


闘技場に立っているのは俺と兄上…アルトリウス、目の前に10名程度の兵士達。

やたら本気なのが数名居るな…全身鎧(フルプレート)だ…。

共通しているのは、みんな胸のアーマーに「守衛団」を意味する「亀甲」をあしらった紋章があるくらいか。

年齢層もバラバラだ。

若い奴は14〜15歳くらい、上は40〜50歳くらいか?


まぁ…レベルが一番高いのは、あの全身鎧(フルプレート)のヤツかな。

と言ってもレベルは47だが。


俺の視線に気付いたのか、その全身鎧のヤツはツカツカと俺の目の前まで歩み出てきた。


「本日は我々守衛団のために貴重な時間を割いていただいた事、感謝する。


聞くところによると、57レベルだとの事だが…本当か?」


「あ、あぁ…」


ちょっと驚いた…。


「なるほど…どの様な人生を歩んだ為にその年齢で57レベルなのかは知らないが…


1つ言わせてもらう。

たかが50レベルを超えた程度で我々守衛団に勝てると、思い上がる事だけは控える様に!」


あらぁ〜印象最悪なんじゃないの、俺。


ってか…この人、女か。

頭から足先までガッチガチの鎧を着てるから全く分からなかった。


「ナスカ・ヒートヘイズ=オリオン 17歳 Lv47 人間」


こんな名前だし、そりゃどっちとも判断つかねぇよ…。


「まぁまぁ副団長、それくらいにしなって。

俺の可愛い弟分なんだから」


「それもイラっとする理由です」


副団長だった!!

道理でヘルムに羽根飾りとか、肩口に金の装飾とか入ってるワケだ…。


てか、アルトリウスの弟分ってのもイラつきの原因かよ。


女心は分からん。とだけ言っておこう。


今回の手合わせだが、副団長他数名の参加者からの希望で真剣での手合わせという事になっている。

万全を期して、回復魔法が使える人が数名待機しているし、なんならウチのアニスも貸しますよ。


とりあえず、

竜甲虫(ドラグーンスカラベ)」の素材で作った武器とか、王都で購入したヤツとか、使ってみたい物は幾つかある。


言い方は悪いが…実験台になって貰おうかな。


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