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[中止中]伯爵の次男に転生したけど旅に出ます。  作者: 椎茸 霞
「そうだ、王都へ行こう」
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邪神のレポート/アルキウスの不始末

「邪神」


ある一定以上の「負の感情」が溜まる場所で生まれる存在。


一言で言うとそういう事らしい。


ある程度、周期的に復活している様にも見えるが、稀に短期間中に数体の邪神が生まれる事もあり、一概には説明しきれないのだとか。


文献にも記載はあるが、あくまでも「存在報告」レベルであり、詳細に書かれている物はほぼ存在せず、ほとんどの場合は、世界中を旅して物語を流布する「吟遊詩人(ぎんゆうしじん)」と名乗る者たちが語り継いでいるらしい。

どんな小さな村にも吟遊詩人はフラリとやって来て、村の子供たちに邪神の話を含む様々な物語を語り、気がつくとまたフラリと居なくなる。


文献に記載が無くても「邪神」についてみんなが知っているのは、その吟遊詩人の話を子供の頃に聞くためなんだとか。


ユキカゼは、そんな曖昧かつ危険な「邪神」について本格的に調べ始めた1人であった。


そして、ギルド職員として働く傍ら、人生の半分近くを費やしまとめた邪神の情報は、文献に残る「邪神」よりも殊更危険な存在である可能性が出てきた。


前述した様に、「負の感情」が溜まる場所とは別の要因として「全てを受け止める無の心」を持つ「人間」が存在することに気が付いたのだ。


「…つまり、負の感情が入る器になる人間…ってゆう事?」


「そう…なります…ね」


少し風が寒くなってきた事もあり、今はベランダではなく、いつもの書斎に移動している。

ちょうどユキカゼさんがまとめた「邪神」のレポートもあったし。


ヒビキさんの解説付きでレポートを読ませて貰ったが…もぅ本格的にファンタジーだ。


文献の情報と吟遊詩人の物語を解釈するに当たり、辻褄を合わせ、無理を排除し、納得できる推論を構築した結果がこのレポートだと言うのだから、無碍にも出来ない。


取り敢えず、レポートに書かれていた邪神誕生において確定と思われる部分は、


・一定量以上の莫大な「負の感情」

・それを一手に受け止める心を持った「人間」


この2つが必要だと言う事。


そしてあくまで仮説と言う部分。

正直これは結構いくつもある。

気になる部分と言えば…


・邪神復活の予兆に魔獣が増える現象→魔獣も少なからず「負の感情」を糧に誕生している為、「邪神」が生まれるまでに出た余剰分の「負の感情」が関係している可能性


とかかな。

あとは…


・邪神が現れるタイミング、または規則性について→不規則である為に予測のしようがない状況。ただし、歴史書と吟遊詩人の話を合わせると、概ね「大戦」の直後や半ばで「邪神」が現れる事が多く思えるものの、それ以外でも「邪神」は現れる様なので断定は出来ない。

※何かしらの儀式で、強制的に「邪神」を創る事は可能か?


この部分かな…。

大戦…てことは大規模な戦争だよな?


それと、注意書きにある「強制的に邪神を創る」可能性について。

さすがに何か証拠があって書いてるわけじゃなく、あくまでも想像の域を出ない仮定の話らしいが…「ありえない」と断言は出来ないよな。


まぁほとんどが推測のレベルなので、数年前から「邪神」の調査も行き詰まっているらしい。

吟遊詩人が見つからない為に、話を掘り下げる事が出来ないのも一因だとか…。


負の感情ねぇ…。

割とマンガとかでそういった目に見えない不思議エネルギー由来の敵とかいるけど…どうしろっていうのかしら。

マジで困る。


ちなみに最近現れた「邪神」でさえ、1世紀以上前らしい。


その時も転生者がなんとかしたんだろうか。


はぁ…今は考えても仕方がないか…。

せいぜい俺がこの世界にいる間は出てこないで頂きたい…。


いや…。


ちょっと待て。

「この世界にいる間」って…そもそも「元の世界」に戻れるのか?って話だ。


「無理…ですね。

転移者は…分かりません…が…転生者は…無理です…ね。

元の世界…での…肉体が無いです…から…」


ですよね。

少し考えればわかることだよ…。


俺氏、異世界永住決定。


だが、まぁ不思議と落胆は無い。

全く無いわけじゃ無いけど、それよりも先に俺の脳裏に浮かんだのは、レイラを始めとする旅の仲間達だった。


厳密にはちゃんとパーティーを組んでるのはアニスだけなんだが…まぁ細かいことはいいか。


なんだかんだ言って、マリシテンもランも仲良く出来てると思うし。


気がつくと、ほぼ徹夜状態だったらしく、空は薄っすらと日が射し、向こうの方は青くなり始めていた。


ヒビキさんにユキカゼの「邪神レポート」を借りて、部屋に戻った。


こりゃ昼まで寝ちゃいそうだわ。


〜〜〜〜〜


寝れなかった…。


理由はこの2人だ…。


「どうせ今日は暇でしょ?んじゃ市場に行くのに付き合ってよ。兄さんはいくらでも荷物持ち出来るんだからさ!」


「そうじゃヤート!わちしにも何か美味しいものをくれると、今日の運勢絶好調なり〜じゃ!」


アニスは分かる。

だがミーア…お前はなんだ…。


ベッドに潜りつつ、改めてレポートを投げめているうちに太陽は昇りきり、さすがに眠気に逆らえずに目を閉じて数分。


部屋にアニスが飛び込んできたわけで…。


結局強制連行の内に、現在最寄りの大通り公園=34大通りに出てきている。


ちょうど家を出るときにミーアは尋ねて来たわけで、吸い付く様に俺らと共にいる。


それにしてもコイツのステータスは未だにちゃんと見えない…。

なんなんだろ…やっぱ種族スキルの「隠匿」ってヤツかな。


〜〜〜


ひとしきりアニスに連れまわされた…。

古めかしい魔導具店(アイテムショップ)や植物の専門店、一般でも買える医学用品の店、あとは本屋を数店。


まぁ、結構個人的にも惹かれるアイテムが売ってたりしてたので購入してホクホクだ。


ミーアも魔導具店でいろいろ雑貨を買ってたな。

ほとんどが裁縫関係や工具だった。

即席で奴隷首輪のレプリカを作ったりするヤツで、

「製作:装飾品」「製作:衣服」のスキル持ちだしな。当然とも言える。


それぞれに何かしらの戦利品を手に入れたわけで、取り敢えず俺の「アイテムボックス」に入れておく。


「そろそろ休もう…俺は寝てないからツライ…」


「若者が何言ってるのさ兄さん」


うっせぇ年下。


「そうじゃぞ!ヤート!寝ないくらいでへばっていてはすぐに殺されるぞ!」


いや誰にだよーーー


「おい!コラ!!アルキウスぅ!!!


ようやく見つけたぞこのクソガキがぁ!!!!」


ーーーこの異世界。広い様で狭いみたいだ…。


疲れのせいで項垂れていた俺は、ぬらっと首を上げて前方を見やる。


大声を上げたソイツのせいで、大通りを行く人々が「モーセの十戒」よろしく、ソイツと俺達の間に1つの道を作っていた。


てか、誰…。マジで…。


よく見ると相手は1人じゃない。

にー…しー…ろー…8人か。


後ろのヤツは「チンピラ」って感じだが…手前のヤツは厳ついな…ギルド冒険者では無さそうだけど。


「テメェもこんな所で俺様に会うとは運の無いヤツだなぁ?あぁん??」


凄んでいるけど、見た目に反してじゃっかん声が高めだからそんなに怖く無い。

なんだよ、見た目ゴリラのショタボイスって。


「セディール 37歳 Lv22 人間」


「恐喝/暴行/強姦」


嫌な十字架背負ったヤツが絡んできたもんだ…。

よく見ると、リーダーらしきそのセディールという男以外も「強盗」「無銭飲食」「詐欺」とかいろいろやってる。

まぁここぞという所で悪くなれないのか「殺人」は1人もいない。


そもそも俺を見て「アルキウス」と言う名前が出たって事は…。


はぁ…なんとなく家にいたメイドや執事、兄上の態度なんかから予想してたが…「アルキウス」という男は、やっぱどこかで厄介事を引き起こしてたらしい。


そうこうしているうちに、セディールたちはおれの目の前まで近づいて来ていた。

あぁ胃が痛い。


セディールに、急に胸ぐらを捕まれた。


その頃には、他の7人は俺含むアニスとミーアも取り囲んでいたわけで…思ったより迅速な行動にちょっと驚いた。


「テメェが俺のシマでやらかした事…忘れたとは言わせねぇぞ」


「あぁ…忘れたって言いたい」


「ふざけんじゃねぇ!!

賭博場でディーラーをボコるわ、人の金をくすねるわ、酒屋で喰い逃げするわ、ツケも踏み倒すわ、娼館で暴れるわ、そこの女をを何人も使い物に出来なくするわ、そのクセ暴れた後は家に引きこもりやがって!!


けど、ここは王都だ…テメェが逃げ込める場所なんかねぇし、逃がさねぇぞコラァ!!」


…マジでゴメン。

普通に犯罪じゃん。


「10歳ちょっとのガキだからって見過ごせる限度があんだよ!!」


さぁて…どうするか…。

さっきから「危機感知」スキルがうるさい。

不思議なのは、目の前のセディールよりも、右斜め後方…ミーアの目の前に立ってる男が一番危険だと感じる…。


横目でチラッと確認…。


あいつ…ポケットに手を突っ込んだままだし…目もヤバイな。


「余所見してんじゃねぇぞ!!


連れの女に乱暴されたくなきゃ、今すぐテメェがやらかした事の責任、賠償しろ!!」


あれ…そんなんでいいの?


「ちなみにいくらくらい?」


セディールは「当然」と言う顔で、こんな至近距離にも関わらずクソデカイ声を張り上げた。


「100金貨だこの野郎!!」


・・・どうしよう。


思ったより安く無いか?

ぶっちゃけ払えない額じゃ無い。


さすがに手持ちには無いが、ギルドに貯金がある。

確か2王金貨と500金貨。


日本円に換算すると約1億円もの請求であり、ほんとバカげてるが…ここは異世界だ。


「あぁ…手持ちには無いですけど、それ払ったらもぅ金輪際、絡むの辞めてくれます?」


セディールの顔は一瞬でキョトン顔に変貌した。

同時にコイツからの「危機感知」スキルも消える。


「え…あ、あぁ。

払うってんなら…いいけどよ…」


「分かりました。

ただ、手元にはさすがに持ってないので、一度ギルドで引き落としてきます」


「テメェさてはそう言って逃げるつもりじゃ…!!!」


「そう言うと思いました。

だから、アンタも付いてきてください。

それで安心でしょ?」


「な…なんだよ、やけに話が分かるじゃねぇか…」


セディールは俺の胸ぐらを握りしめた手を離してくれた。

危な…コレ王都で買ったヤツだし、伸びるとこだった。


「改めてコレまでの非礼と、ご迷惑をおかけしたことを謝罪します。

申し訳ありません…。


ただ、1つどうしてもお伝えしておきたいんですが、

先日、僕…落馬してしまいまして…。

その時に頭を打ったみたいで、本当に2〜3ヶ月前から以前の事をかなり忘れてしまっているんです。

兄の顔まで忘れていたくらいなので」


「ぉ、おぉ…それは…災難だったな…。

コッチも事情も知らないで突っかかって、悪かったよ…」


むしろ以外に話が分かるのはお前らだ。

素直かよ。


・「詐欺」10

・「言いくるめ」10


うわ…変なスキルがまた増えた。


「それじゃ、立ち話もなんですし、早々に最寄りのギルドに行きましょうか。

34大通りだと…大通り公園のすぐ向こうでしたよね」


そう言って俺は歩き出そうとした時だった。


目の前に刃が突き付けられた。


言わずわもがな。

さっきの「危機感知」スキル最大の野郎だ。


折りたたみ式のナイフだが、それなりに刃渡りがある。

15〜20cmくらいか?

よくそんなデカイナイフ、ポケットに入れてたな。


「ケイザ!テメェ何してやがる!」


「セディールの兄貴…俺はね、コイツに何度も殴られてるんすよ…親父にも殴られたことねぇのに!!」


どこのニュータイプだ、コイツ。

てか、そんな理由でナイフかよ…。


「それによぉ!コイツが孕ませた娼婦の中にぁ俺の姉貴も居たんだよぉ!!

ただの無傷でコイツを見過ごせるわきゃねぇだろぉが!!

100金貨と一緒に…この女共も貰ってやるぁ!!!」


何言ってんだコイツ…。

あ、いやでもこいつの姉貴を妊娠させたってのは、結構やらかしてるな…。

すまん。


そんな事を考えていたら、この男=ケイザは逆手に持ち直したナイフを勢いよくミーアに振り下ろした。


さすがに俺の中で何かがキレた。


刃がミーアに触れる寸前で、俺はケイザの腕を握りしめ、ナイフを止めた。


「て、てめぇ!なにしやが…」


「それは俺の台詞だ。

なぁ!セディールの兄貴とやらよ…」


「な、なんだ」


「さっきアンタが言った「100金貨」…さすがに1人の少年がやらかした事態の請求にしては多額だよな?」


「そ、それは…!!」


「それは!!


今のこのナイフ野郎の話を聞いた上で、相当前向きに考えた結果…アルキウスのヤツが孕ませた女の為とか、そう言った部分も含まれる…と解釈するけど…違うか?」


有無を言わせない目線をセディールに向ける。


「そ、その通りだ…」


だよな。


そうじゃないと100金貨なんてこの世界でのバカみたいな金額、大声で堂々と言ったり出来るもんか。

仮にも王都の大通りだぞ?

今だってそれなりに野次馬がザワザワしてるのが聞こえるし、視界の端に見える。


「であれば、尚更俺は100金貨を払う事には躊躇はないけど…


今のこのナイフ野郎の行動は見過ごせないなぁ…」


正直に言おう。


俺は善人じゃない。

正義感もなければ責任感もない。

いや…人並みだ…と言っておこう。


何が言いたいかって言うと、俺の中では「アルキウス」がやった事に対しての尻拭いを、なぜ「結月大和(おれ)」がやらなきゃならないんだ?という考えがある。


流石に身体は今は俺の物同然だし、この身体が過去に子供を作るだけ作ってましたって言うのは、申し訳ない。

だから100金貨も惜しまない。

足りないようなら上乗せしてもいい。


だが…「大和(おれ)」の感情が動くのはそこまでだ。


感覚で言えば、今俺は


「ついさっきSNSで相互フォローした絡んだ事もない顔さえ知らない相手の養育費を払って下さい」


と言われてるような感じなワケだ。


改めて言う。

俺は善人じゃない。


だから、過去、この身体がやらかした不始末よりも、目の前で知り合いがナイフを向けられている事の方が重要な案件だ。


「1つ言っておく、ナイフ野郎。

お前の姉貴については謝る。

正直顔も本当に記憶に無いんだが、ちゃんと必要なお金は払おう。


だが、お前は別だ」


「ぃ…!?」


答えも聞かずに俺はケイザを殴り飛ばした。


自分のステータスを確認したが、やはり先に仕掛けたのがアイツだったからか、「暴行」とかは付いてない。


流石に昨日の丸太を思い出したから結構手加減したんだけど…それでもナイフ野郎は後方に10mくらいすっ飛んでいった。


「セディールさん…」


「は、はい!」


「他にもアルキウスの所為で迷惑を被った人の為に使ってくれると約束するなら…金貨150枚を支払いますけど…どうします?」


「あ、あぁ…しっかりと言う通りにする…」


「じゃギルドに行きましょうか」


はぁ…なんか久々に本気でイラっとしたなぁ…。

いろいろ御託を並べたけど、本音、俺はさっさと用事を終わらせて寝たかっただけなんだよねぇ…。


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