王都の観光
「えっと…コレはどうなるんだっけ?」
「ポーンが「侵攻」されとるんじゃから、ヤートは「防衛」で、カードを引けるんじゃ」
「カード引きました」
「お?「連隊」のカードじゃから、ポーンに使えるぞ。
そうすれば、わちしのナイトと相打ちになるわけじゃ」
「それじゃ次はウチのターンねぇ〜。
んんん…「行動」は無しで「姫騎士」のカードを使うよ」
「ミーア、姫騎士って何?」
「おぉ、プリンセスの駒で「侵攻」と「防衛」が出来るようになるんじゃ」
全く分からん。
今俺たちは何をやっているのかと言うと、
「キンヴァス」と言うボードゲームをプレイしている。
「見張り」の名目でヒビキ邸に来たミーアが持ってきた物で、アニスを交えて絶賛プレイ中だ。
前に少しだけプレイしてるのを見たが…実際にやってもやっぱ分からん。
チェスの様な感じかと思ったが実質全然違う。
駒を使うのだが、キング、クイーン、ポーン、ナイトとかチェスみたいな駒もありつつ、ルークやビショップは無く、代わりに「プリンセス」と言う駒が2つある。
それにナイトも4つあるし。
ルールとしては「陣取りゲーム」の様な物で、ポーンやナイトを進めていき、
相手の陣地を奪い取る、相手の駒をキングとクイーンだけにするなどにより勝敗が決まる。
そして何より難しいのが、そこに「カード」の要素がある事だ。
ターン開始時に山札から1枚カードが引ける。
そして、そのターンは駒を動かす「行動」の代わりにカードを使用する事が出来るのだ。
そのカードの効果と言うのが、まぁ〜多種多様なのだ。
キング、クイーン、プリンセス2つ、ナイト4つ、ポーン8つ。
合計16個の駒と多種多様なカードの効果を利用して戦うわけだ。
基本的にはそれだけのルールなのだが、カードの効果のせいでかなり俺は苦戦している状況だ。
「んじゃわちしのターン!
手札の「連隊」を捨てて、「電撃作戦」を使用!
わちしのポーンを1つ捨てて…ヤートのポーンを2つ捨てさせる!」
「あ!?え?えっと…取り敢えず、ナイトを「行動」で…えぇ…アニスのナイトに「侵攻」する…でいいのか?」
「はいはぁ〜い…「防衛」で、山札からぁ…よっしゃ!「騎士団長」を「防衛」中のナイトに使用!
効果で場に留まります!」
「うぇ!?」
「ウチのターンだねぇ〜。
カードの使用で「政略結婚」!
ほれ、兄さんにプリンセスあげるから、陣地1つとポーン2つ、ちょーだい」
よくルールを理解していないゲームをやるのは疲れる。
結果俺は2人に惨敗。
陣地を全て2人に奪われ敢え無くゲームオーバーとなったわけだ。
ちなみに、俺が抜けてからはアニスとミーアの戦いになるわけだが、もう本当に分からん。
「それ!「士気向上」じゃ!効果でそのままポーン「大隊」で「行動」し、プリンセスに「侵攻」じゃ!!」
「それは「姫騎士」だから「防衛」出来るんだよねぇ!
山札から…「妨害工作」発動!」
「なに!止められたじゃと!」
「からの、ウチのターン!「戦乙女」発動!プリンセスで最も近い相手陣地の駒に「侵攻」!」
…正直ほとんどカードゲーム要素の方が強いんじゃないかと思う。
駒とかボード上でプレイする見た目とかから勘違いしやすいが、本質はカードの効果だな。
この「キンヴァス」と言うゲームは、それなりに流行っているらしいが、プレイヤーの年齢層は総じて高めなんだそうで、まぁ小さい子には難しいルールだと思う。
最終的に勝ったのはアニスだった。
ランやフォルグスさん、カルナさんも「キンヴァス」をやっているのは見た事あるが、
アニスが勝ち越しているらしい。
意外と「智将」なのか?
〜〜〜〜〜
午前中はミーアとアニスに捕まってずっと遊んでいたからな。
昼食後はそれなりに仕事をしたいと思う。
アニスとマリシテン、メイドのルーシーさんを連れて王都を探索する。
アニスは暇だからと着いてきており、マリシテンは午前中にレイラとの訓練を終えたので暇そうだったから、ルーシーさんは道案内をお願いし、結果このメンツである。
ミーアは昼食を食べるとさっさとバルバトス商会に帰ってしまった。
遊びに来ただけか…。
道案内についてだが、「マップ」の検索機能でどうにかなりはするんだが、王都に住んでいるルーシーさんを連れて行った方が何かと便利そうだったから着いてきて貰った次第だ。
仕事。
つまり、昨日ヒビキさんに貰った地図に記入されていた、遺体が飾られる予測ポイントを事前に確認しておこうと思うのだ。
〜〜〜
「ここが、王都で最も活気のある大通りです。
第2居住区と第3居住区の間にある事から「23大通り」と呼ばれています」
道幅は結構広い。
元の世界の間隔で言えば6車線くらいの大きな車道より少し広い感じだ。
歩行者もいるが、それなりに馬車の行き来も盛んなようで、王都で最も活気のある大通りというのは伊達ではないらしい。
通りに面した様々な店もかなり大きい感じだ。
取り敢えず武器屋とか防具屋とかは、あとからまた来たいのでチェックしておこう。
店舗を構える物とは別に、移動式の屋台だったり、シートの上に商品を並べただけの露店などもかなり多い。
偶に2〜3人で組んでいる軽装の騎士甲冑…つまり、胸当てや腰、腕や脛くらいにしか鎧をつけていない兵士の様な人を見かける。
ルーシーさんに聞いたところ、アレが「守衛団」と呼ばれる王都の騎士だった。
余談になるが、
この王都の騎士達は、全体を指して「騎士団」と呼ばれるが、
その中でも幾つか役割を持ったグループに別れているのだとか。
その際は「騎士団」ではなく「騎士隊」と呼ばれ、先の「守衛団」であれば、正式には「王都騎士隊守衛団」となるらしい。
まぁややこしいし、長ったらしいので、みんな略して「守衛団」と呼んでいるみたいだけどな。
ちなみにこの「守衛団」は、元の世界で言うところの「警察」に当たる役割を持っていて、王都騎士団の中で最も一般市民と接触する機会が多く、それ故か、結構フランクな人が多いんだとか。
まぁ…あの「兄上」が団長だし、そうなるのも道理だと思ったりするけど…。
さて、そんな「23大通り」を進んで行くと、ちょうど真ん中のあたりで円形の公園に出る。
王都を横切る運河から水を引いてきており、この公園も幅5m程の人工的な川が流れていたりする。
公園の中では露店も屋台も展開を禁止されているとかで、幾つかのベンチが設けられており、植樹された木や花壇の花などが疲れを癒してくれそうだ。
そのためか、公園にいるのはイチャイチャしてるカップルか、人形の様に動かず日向ぼっこをする老人くらいしかいないのだが…まぁ平和そうで何より。
亜人がクーデターを画策してるなんて微塵も思ってないんだろうなぁ…。
「この様な公園は各大通り毎にあります。
バカップルを眺めるもよし。
枯れ木の様な老人を眺めるもよしです」
ルーシーさん辛辣…。
てか、それ以外に花壇とかあるんだから、そーゆーのを眺めようよ…。
〜〜〜
「ここが第3居住区と第4居住区の間、「34大通り」にある、「都営エルクリア博物館」になります。
今なら…「魔獣博覧会」がやっていますね」
王都に来て初めて通った大通りにある博物館だ。
奥の方に大きい建物があるなぁとは思っていたが、博物館だったんだな。
ちなみに、道を聞いた露店は見当たらなかった。
今日は営業してないか、別の通りにいるのかも。
「魔獣の…博覧会…。
ヤマト様。コレは見ないわけには行かないと思います」
あぁ…マリシテンが食いついた。
案の定というかなんというか…。
見物の予定は無かったんだが、マリシテンの押しの強さに負けてしまった。
入館は1人10銀貨。10歳以下だと5銀貨。
まぁ都営というだけあって価格設定は良心的らしい。
魔獣博覧会と言うだけあって中の様子は若干暗い雰囲気ではあるが、思ったよりも人が多かったな。
小型、または一部の中型魔獣は剥製が飾られていたりする。
初めて出会った魔獣「骸鎧狼」の剥製もあった。
この狼、割と広く分布しているらしく、地域によって毛の長さや色、角の形状とかが違うらしい。
珍しいと言えば、食用に適した魔獣のコーナーとかもあり、一部試食出来たりするみたいだった。
「闘鶏」…?
俺が知ってる、元の世界の闘鶏と違い、普通の鶏の3倍近い体躯の鶏で、トサカの代わりに角が生えてる。
デカイだけで生態はほとんどただの鶏らしいが、味のほうは通常の鶏より少し淡白で、食感もパサついているみたいだ。
通常の鶏自体がこの世界では割高な食材みたいだが、ギルド冒険者からしたら割とポピュラーな食材みたいだ。
今度食べてみるかな。
他にも魔獣素材も展示していたりしたんだが…まさかと思った時だった。
「お!少年、なにしてんだい?」
聞き覚えのある声に呼ばれた。
見るとカルナさんともう1人女性が立っていた。
「いや、ちょっとマリシテンにせがまれて見物に来たんです」
「なんだ、それならアタイに行ってくれりゃ良かったのに」
「…え?」
「だってアタイここの支援出資者の1人だし。
無料パスくらい出せるからね?」
マジかぁ…。
ただ、貰えるものは貰っておこう。
マリシテンもまた来たい様だし…取り敢えず今いるメンバーとお土産がてらヒビキさんの分の無料パスを貰った。
とは言っても今回の「魔獣博覧会」だけで使える限定パスだけどね。
「あ、そういえばそちらの方は…?」
「あぁ、紹介するよ。アタイの妹」
妹いたんだこの人。
「初めまして、ヤマト・クロードです」
「初めまして。愚姉がお世話になりました。
テレシア・バルバトスと申します。
バルバトス商会で主に経理や事務を行っており、今後とも様々な場面でお世話になると思いますが、宜しくお願い致します」
その口ぶりから思うに、資材運搬の話も聞いているらしいな。
にしても、カルナさんとは違って礼儀正しい人…と言うか何というか。
「テレシア・リリトリアス・バルバトス 24歳 Lv30 人間」
保持スキル
・「算術」8
・「礼儀作法」8
・「交渉」7
・「鑑定:魔獣素材」3
・「薬学」4
なるほど、「礼儀作法」が8レベルなわけか。
事務とか経理って言ってたから裏方なんだろうか。
「商売」スキルはないから、そうなんだろう。
自分やマリシテンのスキルを見たりしてると麻痺してくるが、普通の人なら保持スキルの数はこれくらいが普通だよなぁ。
軽く妹さんやカルナさんと話をしていると、いつの間にか一通り見終わったマリシテン達が戻ってきたので、お暇する事にした。
〜〜〜
「ここが「45大通り」にある、王立図書館本館です。
各大通りに「王立図書館分館」がありますが、この「本館」が一番建物も大きく、蔵書量も最多です。
お嬢様も偶に入り浸っておりますが、大抵ここに入り浸っているのは根暗で友達付き合いの苦手な寂しい人達ばかりです」
お前、いろんな人に謝れ…。
まぁルーシーさんの解説はさて置き…この王立図書館は確かにかなり大きい。
さっきの美術館もそれなりに大きな建物だったが、
美術館は「低く広い」印象の建物だったのに対し、こちらは高さもある。
どうやら5階建てらしいが、1階層の天井高が高いため、その分建物も大きくなっているみたいだ。
さっきルーシーさんはあんな解説をしていたが、
この図書館自体、結構いろんな人が出入りしている様に見受けられる。
まぁ…パッとしない雰囲気の人達が大半なのは否めないが…。
中に入ってみたが、まぁなかなかに「ファンタジー」感がある。
中央は吹き抜けであり途中途中に橋が架かっているのだが、その橋も2階から3階、5階から4階と階層をまたいで架かっている物もあったり、
魔法の道具然とした空を漂う小さめなシャンデリアなども視線を惹きつける。
そして何より、蔵書量最多は本当らしい。
言葉では表現に限界があると思うくらいに大量の本が壁や棚一面に配置されている。
図書館入り口にあるパンフレット的な案内書を読んでみたのだが、
ここは図書館ではあるが、本の貸し出しは行っていないのだとか。
つまり一般公開されている超巨大な国の書庫、と言った感じだ。
てことは、日本の「国立国会図書館」みたいな感じか?
さて、ここではアニスが興奮する事になった。
医学・薬学関連の本も大量にある事が分かると「ウチは今日ここに泊まる!」とか言い出してしまった。
図書館だから静かにしろ!と言いたいところだが、この図書館、利用者が多いせいか、はたまた特にそう言った風習が無いのか、ショッピングモールばりにざわざわしている。
普通にみんなお喋りしているのだ。
そう言った喧騒から離れたい人の為に60部屋の防音個室も完備されているので、泊まろうと思えば泊まれそうだが、
閉館時間は「日没後」となっている。
基本的に太陽と月の位置で大まかに時間を把握しているこの世界だと、正確に「○○時」と言う表記は無いのだが、一応閉館時間はあるんだな。
話に出たので、詳しく説明すると、
「時間」の概念はあるのだが、単純に「時計」が無いのだ。
いや…「全く無い」というと語弊があるな。
「日時計」とかはあったりするが、ほとんどの場合、教会が定期的に鳴らす鐘の音で判断しているみたいだ。
それ以外だと、「魔導刻印道具」として時計はある様だ。
ただ、不思議な事に別段不便に思った事は無いんだよなぁ…。
〜〜〜
「これが「初代エルクール国王像」になります。
エルクリアに訪れた方は一度はこの像を見るのが観光の定番です。
まぁ特にご利益があるわけでも無いので、何しに集まってるのかは知らないですけど」
ねぇ、この人を案内役にしたのって間違いだったんじゃないか?
まぁいいか…。
「初代エルクール国王像」
メッキなのか純金なのかは知らないが、金ピカの大きな像で、土台を含めれば、高さはゆうに3メートルは越している様だ。
鎧に身を包んだ国王が、左腕に兜を抱え、右手に握った大剣を高々と空に掲げている様を再現している。
初代国王ってこんな武闘派なのか。
話によると、
このエルクール王国は、元々5つの国だったそうだが、常にどこかの国がどこかの国と戦争をしている様な状態だったのだとか。
この初代エルクール国王はその5つの国を纏め上げ「エルクール王国」を作り上げた様だ。
戦争の絶えない国同士を制圧する為に戦ったという事で、逸話が数多く残る王様らしい。
まぁどこの国でも英雄は人気なわけか。
さすがにただの像に心惹かれる者は今日のメンバーにはいない様だ。
一応人が集まる場所だし、クリサリスが狙わないとは限らないので注意しておくか。
〜〜〜〜〜
さて、ある程度の観光名所…もとい人が集まる様な場所は確認できたわけだが、
いつの間にか夕陽が眩しい時間帯になっていた。
夕飯の支度をしなければいけないと、ルーシーさんがそわそわし始めたので、今日の夕飯の食材を買いつつ俺たちは家路に着いた。




