表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[中止中]伯爵の次男に転生したけど旅に出ます。  作者: 椎茸 霞
「そうだ、王都へ行こう」
59/68

アルキウスの兄

「確認して参りますので、暫くここでお待ち下さい」


王都は外壁に囲まれているのだが、内側にも壁がある。

居住区から王城に向けて進むと現れるその壁は、王都に住む貴族の居住区を囲んでいるのだ。

この通称「内壁」は、居住区の仕切りの役目もしているが、同時に「砦」の様な役割もしており…と言うかもはや「砦」である。

何せ内部は4階層あり、王都の騎士団が常駐しているらしいのだから。


ちなみに「騎士団詰所」と呼ばれる、今いる此処は、つまりこの「砦」の中にいる騎士団に取り次いでもらうための窓口の事だ。


カルナさんはキセルを取り出して一服をきめており、アニスはフォルグスさんと他愛ない会話をして時間を潰している。

どうやらフォルグスさんは人間社会に興味がある様で、そんな社会に溶け込んでいるアニスにいろいろ聞いているみたいだった。


最近なんかカルナさんとか孤児院とかで不憫気味だったアニスは嬉々としてフォルグスさんと喋っている。


さすがに1人黙っているのもアレなのでカルナさんに何か話でも振ろうかとした時だった。


「んぁ?アル?…アルキウスか?」


最初はその言葉自体、特に気に留めなかったのだが…


「おい!アルキウスじゃないか!!」


アルキウス…俺の事かッッッ!!!


声の方向を向くと、1人の青年が驚き顔で俺を見ていた。


ちょうどカルナさんには馬車で死角になっている様だ。

特に気にせず一服している。


「カルナさん、ちょっとお手洗い行ってきます!」


「お?おぉいってら」


早口気味にそう告げて、その青年を引っ張りつつ少し離れた所まで歩いた。


「おいおいおい?なんだよアル?」


彼が何者なのかはすぐにわかった。


俺と同じ明るい茶髪に濃紺の瞳。

俺より少し髪は長く、クセ毛なのか軽くうねっている。


「アルトリウス・クロード・キャメロット 22歳 Lv49 人間」


間違いない!

俺の転生先であるこの身体…つまり「アルキウス・クロード・キャメロット」の兄だ!!


身長は俺よりも少し高いくらいで、180近いんじゃないか?


「えっと…ですね…」


なんか咄嗟にカルナさん達から離れた所に来てしまったのだが、こっから何も考えてない!


「あ!そうそう!父上からの手紙で読んだぞ?

お前落馬して頭おかしくなったんだってな?あはははは!

ま、今までの素行の悪さから考えたら、そうなるわな!」


「あ、そ、そうです…兄上」


「んで、王都には何しに?まさか俺に会いに来たわけでも無かろうに?」


いや、会いに来たって言っても間違いじゃ無いんだけどさ…。


兄上…であるアルトリウスは割と明るい青年の様だ。

てか、頭がおかしくなったって…酷いな。

まぁ中身がガッツリ別人になってるからそう思うか…。


「あぁ〜…一応、今はギルドに入って冒険者をしています。

それで、今回は商人のカルナさんの護衛という事で来ました」


「カルナ…ああ!バルバトス商会の!

あ、じゃ俺に会いに来てたのか!ははは」


「あ、あはは…」


「てか、なんでそんな硬くなってんだ?

まぁ頭がやられてるにしても兄弟なんだから、敬語とか使わなくていいぞ。


…もしかして、俺の記憶とか無い感じか?」


その設定に乗っておこう。


「あぁ…申し訳ありません…」


「あちゃ〜…まぁいいか。

今のアルの方が素直ないい奴そうだし、これからに期待しよう!」


前向きな人で助かった…。


「にしても良くギルドなんか入れたな?

キャメロットで伯爵家の人間ってバレなかったのか?」


「一応、偽名を…今は「ヤマト・クロード」と名乗っていますので、それで通して頂けると…」


「おう!わかった、アル!」


本当に分かってんのかこいつ!?


「ん?あ!居るじゃないか!

アルトリウスの旦那ぁ!

ご注文の品をお届けにきたよぉ!」


あ!

念押しする前にカルナさんに気付かれた!!


…気付かれたなら仕方がないんだが。

大丈夫だろうか…。


「…あれ?

少年も一緒かい…てか、仲良さそうだけど…あれ?」


早速か!


「いやぁ、ヤマト君とは昔馴染みでね。

弟の友達で良く遊んでいたんだよ」


…思ったより兄上は機転が利く上に空気が読める人だった。


〜〜〜〜〜


取引の品である「イザナイグサ」の受け渡しは滞りなく、スムーズに終了した。


「いやぁ…まさか少年が守衛団団長と昔馴染みとはねぇ…。


もしかして貴族のご子息か何かかい?」


「や、やだなぁ…ソンナワケナイジャナイデスカ」


「ま、いいけどね」


カルナさんには、兄上=アルトリウスの咄嗟の設定で通した。

「鑑定:人間」のスキルに嘘発見効果が無いことに期待したい…。


守衛団は、目当ての品が届いたという事もあり、早速今日の午後にはイザナイグサの球根を植えに行った。


後でカルナさんに聞いたのだが、どうやら「成長促進薬(グロウアップパウダー)」と言う物があるのだとか。

高価だが、土壌に混ぜるとそこに育つ植物の成長を早めるんだとか。

うまい具合に、ある程度成長すると高価が切れる様になっているらしく、急激に成長するが故に即刻枯れるという事は無いんだとか。

「錬金術」によって精製しているらしいが…詳しくは知られていないんだと。

そんな怪しい薬があるとは…。


まぁ「経験値薬」とか「限界激突破薬」とかあるから、一蹴はできないんだけどな…。


イザナイグサはその「成長促進薬」を使って、直ぐに効果を確認するらしい。


魔獣を引き寄せる植物ね…問題が無けりゃ御の字なんだが…。

「危機感知」スキルとは別の嫌な予感がするのはなんだろ?

第六感ってやつか?


…まぁ杞憂かも知れないしな。

「身内」に会って思考が混乱してるかも知れん。


〜〜〜〜〜


「コレが…スレイブキリングの…資料です…。

現在わかっている…メンバーと…その殺害方法や…傾向のまとめ…なので…その他に…必要な情報があれば…言ってください…ね」


「ありがとうございます、ヒビキさん」


スレイブキリングの件についてまとめられた資料をヒビキさんから受け取った。


「あ、さっそくなんですが、クリサリス・ファニーと言う男の資料ってありますか?

早急に欲しいんですが」


「クリサリス…ファニー…ですか」


現在俺はヒビキさんの書斎にお邪魔している。

書斎…と言うか、書庫と言うか…そんなレベルの部屋なのだが…

なんか既視感があると思ったらアレだ。


ギルドにで案内されたユキカゼさんの私室。

似てるわ…。


壁はほぼ本棚であり、本もあれば紙の束もある。

どちらかと言えば…コッチの方が雑多な印象がある。


ユキカゼさんの私室は「仕事場」感があったけど、こっちは「とりあえず置いてる」感じだった。


ヒビキさんはそんな本棚の方にふらぁっと歩いて行き、暫くガサガサと漁った後に、紙束を持って差し出してきた。


関係無いが、部屋が散らかっていても何処に何があるか分かるみたいな人が居るよな…。

多分彼女はそんなタイプなんだろう。


紙束を受け取り軽く目を通してみた。


「これは…」


まぁ8割程ユキカゼさんに見せてもらった資料と同じ様な感じだったが、中にはつい3日前の目撃情報まで書かれたメモと、それを元に地図上に書かれた行動範囲の推測とかもあった。

コレがかなり有用だ。


それに3日前の目撃情報は王都だ。


…読みは正しかったわけだ。


地図の方は、過去のクリサリス・ファニー起因の事件から予測される「作品」…もとい「遺体」が飾られる可能性のある広場や公共施設前なども記入されていた。


…ユキカゼさんの余裕そうな口調は、この予測があったからなのだろうか?

ランもこの予測について何かしら聞いていたのだとしたら、尚更にあいつが俺を急かさなかった理由が納得できる。


だが、予測されているのは合計で10箇所近くある…。

この中から更に可能性が高い場所に目星をつけるのは難しいな…。

まぁその点は、少ないがまだ残っている時間で考える事になりそうだな。


クリサリスに捕まってから、最短で2ヶ月は猶予がある事は、過去の事件からほぼ確実だと思われる。


ランの姉であるラーナさんが、クリサリスに捕まったと思われるのは、今から約3週間…雑に計算して1ヶ月しないくらい前だ。

つまり、俺らには最短であと1ヶ月程の猶予がまだある。


それに1ヶ月後に確実にラーナさんが殺されると言う確約もないし、もしかしたらそれ以上後になる可能性も全然ある。

加えて、3日前に王都で目撃されたからと言って、王都でラーナさんの遺体が飾られるとも限らない。


正直…全体的に曖昧な部分がやたら多い事にイラッと来るが…まぁ仕方がない。


俺は前世で刑事だったわけでも探偵だったわけでもないんだから、こんなイベントは面倒臭いことこの上ないんだが…。


「ありがとうございます。また何かあればお願いしたいと思います」


取り敢えず思考だけが先走っても意味がない。

俺は回転していた脳内を一時的に止めヒビキさんに頭を下げた。


「いえ…構いません。


ところで…ヤマトくん…王都には…いつまで滞在…するんです…か?」


「あぁ…そうですね。

一応、このスレイブキリングの事があるので1ヶ月はまず間違いないかと」


「良かった…。

ユキカゼみたいに…すぐ…どこかに行く…わけじゃないんです…ね」


どうやらユキカゼさんは、たまに顔を出しに来て直ぐに帰ってしまうらしい。

まぁギルドのお偉いさんなら仕方ないとも思うが…ヒビキさんも寂しいんだろうな。


よくよく考えると、

向こうの世界で死んで、こっちの世界に転生し、数年後に奴隷として酷いことをされていたなんて…ヒビキさん、かなりハードモードだよなぁ…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ