王都の協力者
王都エルクリア。
都市部だけでも広大な土地を有しており、中央を巨大な運河が流れている。
コレはキャメリアから続く運河であり、更に先は海に続く。
故に王都より内陸側のキャメリアからは山の幸、海側からは海の幸が運河を通して船で運ばれてくる。
結構いろんなものが集まっているとかで、流石は王都という感じだ。
夕方と言うにはまだ早い午後。
俺たち一行は王都に到着した。
王都の周囲は大体10〜15メートルくらいの防壁で囲まれており、何箇所かに兵士が常駐する関所がある。
現代日本から来た俺からしたら余り馴染みはないんだが。
基本的にはカルナさんが関所の兵士に話を付けてくれたのだが…やはり兵士の目はある所に移動した。
「目的は分かった。バルバトス商会の事は予定帳に有るし確認もできた。
しかし…なんだその亜人は…」
うわぁ〜明らかに嫌そうな顔してるう…。
「根っからのクリスニア教徒だね…あの紀章が印だよ」
と、カルナさんが耳打ちしてきた。
カルナさんの言う紀章は、十字に円が重なった様な見た目で、どうやら銀で出来ているみたいだ。
「彼女達は俺…私の奴隷です。ちゃんと首輪もしているのが分かるでしょう?」
ま、実際ホントの奴隷はレイラだけだが。
「ふむ…まぁ良いだろう。飼われている亜人ならそうそう問題を起こす事もないだろうしな…。
せいぜい、あの「変態集団」に狙われるだけだな…」
スレイブキリングのことか…。
流石に懇切丁寧に首輪まで調べられたらどうしようかと思ったが、それ以前に亜人に近付くのも嫌そうな顔をしていた。
結果的に特に問題なく関所を通れてしまった。
ミーアの「首輪偽装作戦」は成功だな。
通過の際に取られた税金は1銀貨程度だったが、よくよく考えると、日本円で約1万円だ。
くっそ高いな。
〜〜〜〜〜
品物の受け渡しをする日程調整の為、カルナさんは騎士団の詰所に行った。
ついでに「バルバトス商会王都本店」に話をするとかで、ミーアとフォルグスさんも連れて行ってしまった。
俺もついて行こうかと言ったが、それは後で良いとかなんとかで、先に亜人集団の団長=フェリオルさんとの約束があると言って、さっさと別れてしまった。
なんの約束だろ?
てか、いつの間に約束とかしたんだ?
さてと…ここからは俺たちも俺たちで、やらなきゃならない事があるわけだ。
まずは…。
俺は関所で貰った王都の詳細な地図を取り出した。
流石に手元の地図の方が今回は役に立つ。
ちょっとした事ではあるが、頭の中で展開できる「マップ」と、実際の地図の表記だと今回は手元の地図が向いている。
全体的に検索機能もある「マップ」の方が良い様にも思えるが…現状「王都」のどこに何が有るのかを見るなら地図が良いのだ。
理由としてはその表記の仕方だ。
「マップ」の場合どこに何があるという事も分かるのだが、この建物が何か?この場所は何か?どんな物があるのか?という部分は、いちいち指定しないと確認が出来ない。
その点、手元の地図はそれが分かりやすく簡易的に書かれている。
宿屋や商店、公共施設がすぐに分かる。
流石に居住区画、王城とかはザックリだけど。
まぁ、初めて王都に来た人向けという事もあるだろうし、これくらいの親切心は嬉しいね。
余談だが、この地図は初めて関所を通ると必ずもらえるのだとか。
なんでも通行料の1銀貨はこの地図の料金も加わっている様で、次回からこの地図を見せれば500銅貨になるんだとか。
半額か。
ま、それでも5000円くらいだけどな。
一応王都の市民権を得れば無料になるらしいが、流石にそれはなぁ…。
閑話休題。
えぇっと確か…。
王都第4居住区の18小区画の7…。
わかりづら…。
取り敢えず聞こう。
取り敢えず馬車を停め、露店の店主に声をかけた。
「すみません。第4居住区に行きたいんですが」
「第4はここの裏だよ」
「あ!そうなんですね。
ありがとうございます」
お礼も兼ねて、店主が売っていたバナナの様なくだものを買った。
王都のザックリとした説明だが、
王城を中心に、その周りを貴族区画が囲んでいる。
王城も貴族区画も運河の東側だ。
そして、外壁と貴族区画の間が居住区画。
1〜6まで大きく分かれており、間を大きな通りが仕切っている。
つまり、俺らが居るのは第3居住区と第4居住区の間の大通りなわけだ。
店主の言葉に従い、裏の通りに入る。
大通りの賑やかな商店と違い、隠れ家的な飲食店や宿屋が目立つ。
更に進むと、恐らく風俗街であろう場所に出た。
わぁ…なんか久々に何処かの店にでも入りたい。
元の世界じゃ月に1度給料日に遊べるかどうかだったしな…。
あ、いや今はそんな事どうでも良いんだ。
後でこれは考えよう。
「・・・兄さん、やらしい顔してるよ」
「おわ!びっくりさせんなよアニス!」
「鼻の下が伸びてますねぇ…成人でもないのにやらしい」
そうだ…俺の見た目って中学生くらいじゃん!
風俗街を通ってニヤニヤしてる中学生って…!!
「アニス殿、考えてもみなさい。
これくらいの男性は思春期と言うものだ。
それこそ頭の中は、あの娼館の娼婦に○○○を○○○されたり、○○○で○○○なー」
「おい待てそこまでだラン」
コイツの下ネタ耐性はなんだ!?
ビックリしたわ!!
色ごとには疎い様な見た目や喋りと裏腹に飛んでもねぇ猥語が飛び出してきたわ!
ふと見ると…マリシテンがすっげぇ顔を赤くして俯いていた…。
あ、確かパンツ見たときも動揺が凄かったし…こっちは下ネタ耐性ないのかよ…。
意外なとこで意外な発見。
てか…
若干空気がなんとも言えないものになって来たので、早々と風俗街を抜けた。
〜〜〜
18小区画の5…6…7。
この建物か。
周りの家よりは立派な2階建ての一軒家。
見た感じは結構オーソドックスな西洋の一軒家という感じだ。
三角屋根に煙突が伸びている。
敢えて言うなら、周りの建物よりは1.5倍くらい大きい印象なくらいだ。
小さいが庭もあるみたいで、馬車も停める事が出来そうだし。
俺は先に降りて鉄格子の門を過ぎ、玄関をノックした。
「突然訪問しすみません。ユキカゼさんの紹介で来ました。
ヤマト・クロードと申します」
暫く待つと鍵を開ける音が聞こえたので、少し玄関から下がる。
玄関…それなりに大きいな…。
「えっと…ヤマトくん…ですか?」
少しだけ開いた玄関の隙間から白髪のみが出てきた。
・・・頭、だよな?
「あ…はい。ヤマト・クロードです。
ユキカゼさんから聞いていますか?」
…なんで頭だけなんだ…ま、いいか。
「はい…えっと…「同郷」…だと」
それだけ聞いていれば問題ないか。
足りない部分は俺が話せば良いし。
相変わらず隙間からは頭だけが出ている。
それが揺れたりしているだけなので結構変な図だ。
「ちょっと…待ってて…下さい。
お連れの…方も…呼んでいて…下さい。
馬車は…そこに…」
「わかりました」
そう言って白髪が引っ込み扉が閉まった。
恐らく今のが、ユキカゼさんが保護したと言う「ヒビキ・ミナザワ」さんだろうな。
取り敢えず彼女の指示に従い馬車を敷地内に入れ、レイラ、アニス、マリシテン、ランにも降りてもらった。
それから数分。
玄関の扉が大きく開いた。
「お待たせ致しました。ヤマト様。そしてそのお連れの方々。
中へどうぞ」
立っていたのは白髪ではなく、キッチリと毛先のそろった前髪にロングストレートの黒髪…所謂「姫カット」のメイドさんだった。
なんだろ。
この肩透かしを食らった気分は…。
「あの、先ほどの白髪の方は?」
「あぁ…お嬢様ですね。
勝手に玄関に出ていたので、暫しお説教を致しました。
不甲斐ない家主で申し訳ありません。
私は、この家の家事全般やお嬢様のお世話をしております。
ルーシーです。よろしくお願い致します」
一応家主ではあるのね。
説教してるけど…。
「この家自体はユキカゼ様が購入された物ですが、家主はお嬢様となっています。
そうですね…お嬢様が「副店長」、ユキカゼ様が「店長」という感じでしょうか」
その例えは合ってるのか、メイドさん…??
「ルーシー・スカーレット 21歳 Lv37 人間」
メイド…だよな?
その割に「レベル」高いな…。
メイドさんに案内され家の奥に進む。
辿り着いたのは応接室なのだが…この入り口はどう見ても人間仕様だ。
ランは入れない。
玄関は大きな扉だったのでなんとか通れたが、それ以外は結構キツそうに見える。
廊下とか、2人並んで余裕の広さなのに、ラン1人でギリギリだ
「んじゃぁ…ランはお留守番で」
「だと思っていた」
苦笑いを浮かべながらランはそう言った。
「蜘蛛女」
そんなランに、マリシテンが急に声をかける。
「…なんだ、シスターモドキ」
「・・・フッ」
「殺す!!」
マリシテン…何を言うわけでもなく、ただただ意地の悪い顔をして鼻で笑うだけとか、そりゃ殺意を抱かれるわ…。
「やれるものならやってみなさい。蜘蛛女」
「今回は本気で殺す!」
「おい!人の家で乱闘とかマジでやめろ!!」
「そうだよ!傷薬を調合するウチの身にもなってよ!!」
アニスはそっちの心配か…。
てか、メイドさん?
あなたの職場で戦闘が始まりそうなのになんで普通に眺めてるだけなの?!
「本気ですか。良いでしょう、ならこちらもそれなりの対応をします。
行きなさい、弟子」
「わ、私ですか!?」
「レイラを使うな!!
おい、本気で辞めないと、俺が本気でお前らを叩くぞ!!」
その瞬間、ラン以外の3人がビクッとして止まった。
ランはポカンとしている…そう言えば、俺の戦闘を見てないのってランだけか…。
レイラ達…もしくはユキカゼさんから何かしら聞いてる可能性はあるが、この顔を見るに知らないな。
マリシテンは身をもって知ってるし、レイラとアニスはそれを近くで見てたもんな…。
ま、何はともあれ喧嘩しなくてよかった…。
ほとんど脅しだったけど…。
「さすが、コレ程の亜人を連れているだけありますね」
メイドさんが静かにそう言っていた。
お前止めろよ…。
「まぁ終わったならそろそろ応接室に入っていただけますか。
そろそろ夕飯の準備を始めておかなくてはいけません。
なにせ、お客様が5名もいらっしゃいますから。
ですので早くして下さい」
あ、もしかして怒られてる?
なんかこのメイドさん、マリシテンと同じくらい淡々としている…と言うか、マリシテンより声に抑揚がないからロボットみたいに見える…。
とりあえず…怒らせないようにしようと、無意識に思った…。
〜〜〜
「お嬢様、お連れ致しました」
「はい…えっと…ありがとうございます」
俺たちが応接室に入ると、メイドさんは外から扉を閉めた。
部屋には俺、レイラ、アニス、マリシテン…そして白髪の女性が残された。
「さっきは…すみません…。家主が…すぐに…出るな…と」
「いえ、それは別に良いですよ」
「えっと…ヒビキ…ミナザワ…です」
そう言って女性はお辞儀をした。
「ヒビキ・ミナザワ・フォルデンスタイン 20歳 Lv98 人間」
転生者って…レベル高いよね…。




