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[中止中]伯爵の次男に転生したけど旅に出ます。  作者: 椎茸 霞
「そうだ、王都へ行こう」
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首輪の模造品(レプリカ)/脳筋の優男

「ほれ、ヤート。コレを皆に着けると()い」


「・・・え?」


亜人の集団がいた森。その終着点。

そろそろ王都が見えてくる頃である。

確か森を抜けるとなだらかな丘とかがある平原だったよな。


木々も減り始め、平原にそろそろ出そうな場所で、俺たちは昼食の準備を始めていた。


とは言っても、昼食を作るのは「料理」スキル持ちのレイラなので、俺とアニスでテーブルとかを出してる程度だ。

ちなみに、俺たちの見張りを担う亜人=フォルグスさんも「料理」スキルがあるため、レイラと共に昼食を用意している。


まぁそんな中、同じく見張り役である亜人=ミーアが思いもよらないものを渡してきたわけだ。


「コレ…奴隷首輪(スレイブリング)だろ…」


ミーアの手には3つの奴隷首輪(スレイブリング)があった。

なんなら、ミーアに至っては既に1つ自身に装着している。


模造品(レプリカ)じゃ」


「そうなの!?」


めっちゃ精巧に作られてるじゃん!!

レイラが装着している本物と見間違う、マジで。


「ここ数日で考えていたんじゃが、こそこそするよりも「奴隷」じゃと思わせた方が簡単に王都に入れると思ったのじゃ」


なるほど、確かにその点は少し悩んでいた部分だ。


「コレはランに。コレはアイスに。コレはフォーグスの分じゃ」


そう言って3つの首輪をミーアは見せた。


ちなみにこの子、微妙に滑舌が甘い。

ランはランでちゃんと呼べているのだが、

俺は「ヤート」

アニスは「アイス」

レイラは「レーラ」

マリシテンは「マーシテン」

カルナさんは「カンナ」

フォルグスさんは「フォーグス」

といった具合に微妙に違って聞こえる。


まぁ見た目と相まってちょっと可愛いから良いけど。


取り敢えずお礼を言いつつ首輪を2つ受け取った。

フォルグスさんにはミーアが持って行くんだと。


んんん…でも考えたら、アニスはギルドカードも有るし…首輪は要らないかもしれないけどなぁ?


一応ランには持って行くか。

あの身体じゃどうしても隠しきれないし、いっそ奴隷って言った方が楽だしな。


「ラン、ちょっといい?」


「なんでしょう、主殿」


「王都に入る時はコレ付けてね」


俺の手にある首輪を認知した瞬間、ランの顔が一気に赤くなった。


「はぁぁあああ!遂に名実共に自分は主殿の物になるのだな!!」


「違うわ!ミーアが作った偽物だよ!カモフラージュのためだよ!!」


「あ!そ!そう、そうだな!!」


なんか慌てた様子で首輪を受け取って、そそくさと馬車の陰に行ってしまった。

行ってしまったけど、蜘蛛の足が普通に見えてる。

いいのか?…いいのか。


〜〜〜


取り敢えず昼食も終わった所で、暫く休憩する事になった。

まぁ馬も休ませないといけないしな。


ポチとタマを荷台から離し、少しの間自由にさせる。

既に懐いてくれているようで、逃げ出すこともなく、そこらへんの草を食べ始めた。


早急にやる事も無いので、マリシテンとレイラの訓練を眺めつつボーッとして座る。


どうやら、まだレイラはマリシテンの攻撃を避ける訓練をしている様だが、かなり上達してきてるよな。


この数日で


・「回避」3

・「反射」2


のスキルまで追加していた。

レベルはそれほどではないが、スキルの増え方がなかなか早いな。


「物覚えがいい」って事か。


「あのシスターさんは、見た目以上にお強いんですね?」


いつの間にかフォルグスさんが横に立っていた。


「隣、よろしいですか?」


「あ、どうぞ」


フォルグスさんは会釈して、俺の隣に座った。


「僕もそれなりに強い方なんですけど…彼女はそれ以上ですね」


「まぁ…特別…ですしね」


言葉選んじゃったよ。

「戦闘狂です」って言いづらいわ。


「なるほど…彼女、素手でも戦えるなら、少しお手合わせ願いたいところです」


…この人、もしかして優男な見た目のくせに脳筋か…?


「なら言ってみたらどうです?多分普通に相手してくれますよ」


「そうですね…じゃぁそうします」


「え?」


「シスターさぁん!ちょっとよろしいですかぁ!」


そう言ってフォルグスさんは走って行ってしまった。

…行動派だな。


あ…交渉してる。


…オッケーだったのか?


少し離れたところに居るから、声は聞こえない。

まぁ「聞き耳」とかで聞こえるかもしれないけど、別にそこまで興味あるわけじゃないし。


どうやら手合わせする事になったらしい。


すると急にフォルグスさんは上着を脱ぎだし、最終的に上半身裸になった。


よく見ると、彼の手首から肩にかけて、それにうなじから背中全体は明るい茶色の鱗に覆われている様だった。

色も相まって「地黒です」とか言えばなんとかなりそうだな。


ん?

なんか喋ってる。


…ちょっと「聞き耳」を。


「ーのため硬鱗族と呼ばれています。

その中僕は結構攻撃型なんですけれども…よろしいですか?」


「どうでもいいです」


相変わらずだな、マリシテンは…。


「そうですか…では、シスターさんからどうぞ」


「わかりました」


マリシテンはそう言うと、間髪入れずに踏み込んだ。

と言うか「飛び込んだ」に近い感じか?


一歩でかなり距離を詰め、膝蹴りをフォルグスさんに叩き込んだ。

フォルグスさんは寸前でその膝を右腕てガードする。


ゴッ!というかなり鈍い音と同時に、

何故か「カシャラ」という音が聞こえてきた。


なんだ?


「いやぁ…なかなか強い一撃ですね。

ですが、これで「(ほど)け」ました」


マリシテンはすぐに2〜3メートルほど距離を取っていた。


「何がです?」


「この鱗です」


そう言うとフォルグスさんは、今更準備運動をするかの様に腕をブラブラ振り、首を回した後、前屈したり腰をひねったりし始めた。


ある事に気が付いた。


鱗が…開いてる?


開いてると言うのは合っているのかわからないが、なんと言うか、背中や腕の鱗がマツボックリの様に広がっているのだ。

その上、鱗は一枚一枚、先が三角の鋭利な形をしており、

なんと言うか…前に動物番組で特集されていた「センザンコウ」という、アルマジロに似た動物の様だ。


「僕たち「硬鱗族」は硬い鱗に身体を覆われており、主に2種類居ります。

1つは見た目通り、防御に適した鱗と特性を持つ者。

もう1つが僕の様に、本来「盾」であるこの鱗を武器にする者です」


フォルグスさんが動くたびに、鱗が擦れて「カシャラカシャラ」と音がなっていた。

さっきのはこの音か。


そんな説明をするフォルグスさんなのだが、その格闘の構えは、どこかボクシングの構えの様だった。


「面白い構えですね」


「独学です」


微笑みつつフォルグスさんは答えた。

シャラシャラと音を立てながら、徐々にマリシテンとの距離を詰めており、

対するマリシテンは鱗を警戒して最初の一撃以降攻めあぐねていた。


まぁそうだよな。

あの鱗。盾であり武器だ。

何も考えずに攻撃すれば、鋭利な鱗が刺さるし。

それを警戒して下手な攻撃をすれば、有効打にもならないし反撃される隙が出来る。

厄介だな…。


武器があればともかく、素手だと面倒だ。


そうこうしている内に、2人の距離がかなり詰まっていた。

多分既にフォルグスさんの有効射程にマリシテンは入っているのだろう。

マリシテンの目付きが真剣になっている。


そう思った瞬間、フォルグスさんの右ストレートが飛んだ。


そして分かった。

マリシテンはコレを待っていた様だ。


クロスカウンター。


フォルグスさんの右ストレートパンチを紙一重で躱したマリシテンは、攻撃時に生まれた数瞬の隙を狙って左腕の掌底打ちを放った。

その掌底は綺麗にフォルグスさんの顎にヒットし、同時に2人の動きは止まった。


「生きてますか?」


「いやぁ…意識が飛びそうになりました。

やはりかなりお強いんですね?」


構えを解いたフォルグスさんは相変わらずニコニコしていた。


…やばいな、あいつもあいつで。

多分それなりに加減はあっただろうが、マリシテンの掌底打ちを顎にクリーンヒットして、尚も微笑みを崩さないなんて…。


確かスキルにあった「タフネス」、それと「耐性:物理」…これのおかげか?


俺よりも近くで2人の戦いを見学していたレイラも少し唖然としているし、

何よりマリシテンが不服そうな顔をしている。


「…なんかこういう屈辱は2回目です。


もういいですか。

弟子との訓練があります」


あ、レイラの事はもう完全に「弟子」って呼んでるのね。


まぁ意外と仲良かったし…いいか。


〜〜〜〜〜


「この感じだと明日か明後日には王都に着きそうだねぇ」


馬車に揺られて数時間。

カルナさんがそういった。


現在の馬車の組み分けは

俺の馬車にマリシテン、カルナさん、ラン。

フォルグスさんの馬車にレイラ、アニス、ミーアと言った感じだ。

なぜか知らんが馭者をやらない6人で毎回組み分けを話してる。


めんどくさくないのかね?


日が沈み始めた頃に、俺たちは森を完全に抜け、平原に出ていた。

加えて、王都も見えてきていた。


まぁ見えると言っても、かなり小さくだがな。

異世界の大陸ってどんだけ広いんだよ。

東京のビル群とか見慣れてると、なんとも言えない感情になるね…。


ちなみに、

カダルファから出発して今日で11日目。

亜人達と別れてから4日目である。

亜人に捕まった時はタイムロスを覚悟したが、やはり前半に出来るだけロスが無いように早め早めに行動した事が功を奏したようだ。


現状予定の14〜15日より早く着くな。


森に入るまでは、村…と言うか旅人向けの露店みたいなのがそれなりに点在していたが、

森を抜けてからのこの平原には全然無い。


森の前にあった「サフィリニア」の町には簡易的なギルド支部があり、そこでユキカゼさんからのスレイブキリングの調査進捗も聞いたが、出発時と変わらなかったし。


まぁ王都に入れば何か動きはあるだろうな。


「よし。

今日はここら辺で休むかな」


太陽が沈み切る前に、ある程度なだらかな場所を確保し馬車を停めた。


明日には王都に着くからか、なんか緊張してきた…。


まぁ「案ずるより産むが易し」ってやつかも知れない。

あまり気は張らないでおくか。


ちなみに。

フォルグスさんは「センザンコウ」の様な鱗を持っているだけで、「センザンコウ」の亜人というわけではありません。

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