亜人の見張り/暗躍の亜人
レイラの「料理」スキルがなかなか良い感じに成長しているな。
あんな傷だらけだったのにいつの間にかそれも目立たなくなっているし。
レベルも15になり、スキルも
・「空間把握」6
・「逃走」3
・「双剣」4
・「料理」5
と良い具合に上がってきている。
ただ、スキルレベル7のものはそれ以上の成長が難しいのか、上がってはいなかった。
それにしても、最初にこの世界に転生した時、本能的にスキルレベルは10段階あると感じたのだが、
世間一般じゃ9が最高って言ってたし…。
9から10への壁は相当…それこそ想像以上に高いのかも知れないな…。
加えてマリシテンにも「教授」スキルが付いていた。
レベルは2だが、このまま続ければ彼女のスキルレベルもすぐ上がるだろう。
それにしても…スキル取得については法則性がまだ全然わかんねぇな…。
夕飯も食べ終わり、かと言ってすぐ寝るほどではない緩慢な時間。
団長さんが訪ねてきた。
「冒険者よ、見張りとして同行させる者が決まった。
紹介するので、少しよろしいか?」
「分かりました」
カルナさんは既に寝ている。
ランとレイラ、アニスの3人は、セルディアに貰った暇つぶしのボードゲームで遊んでいる。
「キンヴァス」というもので…2〜5人で遊べるチェスみたいな物らしい。
なんか数種類の駒とカードを使った遊びなのは分かるが…アナログな戦略ゲームみたいな感じかな?
話が逸れた…。
ちなみにマリシテンは、根が真面目な様で、馬車でレイラの修行について考えをまとめている。
毎度嫌な顔をしつつ、言われた事を守ったりやってくれたりする辺り…なんで戦闘狂なんだろ?
団長さんに着いて簡易テントを出ると、2人の亜人が立っていた。
「2人とも自己紹介を」
団長は2人の亜人にそう言って促した。
まぁ相手のステータスは見れるけど、一応聞いとこう。
「ミーア・グランデロギーじゃ!よろしくのぉ!」
「フォルグス・カーボニウス=パンツァールでございます」
またイロモノかよ…。
「〜〜じゃ」とか言ってる子は見た目は15歳くらいの少女だ。
大きなベレー帽みたいな被り物をしており、結構カラフルな服を着ている。
腰にはファーみたいな素材のアクセサリーが結構下がっていて…まぁそうゆう種族なんだろう。
ちなみに俺の方で見た感じだと
「ミーア・グランデロギー=??? ??歳 Lv54 ???/???」
保持スキル
・?????
・?????
・?????
・「製作:装飾品」7
・「製作:衣服」7
種族スキル
・「隠匿:???」?
・?????
・「危機感知」5
・?????
・?????
となっている…。
なんだこの表示…バグか?
…なわけねぇか。
おそらく種族スキルが関係してそうだな…。
レベル差があってもコレだから、結構スキルレベルが高いか…もしくはそういう魔法とかも使ってるか…。
レベルは52…。
マリシテンの次に高いな。
だが、ガタイが良いとかいうわけではないから…やっぱ魔法使う感じか?
「フォルグス・カーボニウス=パンツァール 30歳 Lv39 亜人種/硬鱗族」
保持スキル
・「タフネス」8
・「格闘」7
・「料理」3
・「槍」4
・「騎乗」6
種族スキル
・「耐性:物理」9
・「耐性:火」8
・「減速」5
こっちは結構普通だ。
ステータスには30歳とあるが…見た目はもっと若い。
20代前半…見る人によっては10代と言いそうなくらいだ。
なんかずっと微笑んでるんだけど…。
どちらも共通するのは、結構見た目が「人間」な事だな。
思ったより誤魔化せそうだ。
まぁ…フォルグスさんの方はなんか長い尻尾があるが…ま、なんとかなるだろ。
「ヤマト・クロードだ。よろしく」
「今回はヤマトくん達の見張りと言う立場ですが、よろしくお願いいたします」
フォルグスさんが深々とお辞儀をしてきた。
礼儀正しい人っぽいな。
「よろしくのぉヤート!」
ミーアの方はなんかテンション高そうだな。
てか、「ヤマト」が「ヤート」にしか聞こえん。
〜〜〜〜〜
「ヤマトくん達が使う馬車は既に満杯と聞きましたので、僕達はこちらの馬車を使わせて頂きます」
目の前には俺らの馬車よりも少し小さい馬車がある。
まぁそりゃそうだ。
既にランのせいでギリギリだからな…。
特に何か起こる事もなく、翌朝には普通に出発する事になった。
「では、カルナ。頼んだぞ」
「はいよ、フェリオルの旦那。
ま、何かあったら「バルバトス商会」まで連絡して」
なんか…団長さんとカルナさんが親しくなってる…。
昨日夕飯前に何か話をしていたみたいだったけど…それでかな?
またカルナさんの事だから、商売に益がある事を取り決めたかな?
出発の組み分けとしては、
俺の馬車にラン、レイラ、マリシテン、
フォルグスさんの馬車にカルナさんとミーア、アニスという感じだ。
アニスは何かアウェイに感じているのか浮かない顔をしている。
まぁ、ジャンケンで決めてたから文句までは言ってないが。
「それじゃ行くか」
俺は団長に手を振りつつ馬車を進めた。
〜〜〜〜〜
「オヤジ。話って何だよ」
「ガリアか。まぁ座れ」
「いつものクソまずいコーヒーなら飲まないぞ」
「・・・そうか。残念だ」
サイフォンでコーヒーを作りながら、蜥蜴頭の男=ウェーターは静かに言った。
狼頭の男=ガリアもどかっと椅子に座り、ポケットから取り出した干し肉を嚙り始めた。
「んで、何だよ」
「昨日現れた人間達の事だ」
「さっき馬車で行くのを見たよ。団長がなんか取り決めたんだろ?」
「その事だ。団長…フェリオルはどうやらあの「カルナ」という商人の女と何か密約を交わした様だ」
「密約?」
ガリアは干し肉を噛みちぎって怪訝な顔をした。
「あぁ。
アイツ自身、私たちに損はない話と言っていたが…どうだかな」
「団長がそう言うならそうなんじゃねえのか?…まぁ釈然としねぇが」
「…あの商人、亜人を雇うとか言う話をしていた」
「なに!?」
「定かではない。フェリオルのテントをからそう言う女の声を聞いた者がいる」
「雇う…それって「亜人奴隷」って事か?」
ウェーターはコーヒーを注ぎながらも、視線はガリアに向けていた。
「そう決まったわけではない。
決まったわけではないが…」
「俺らの中から奴隷をわざわざ渡す約束をしたってのかよ!
なにが損はないだ!!」
「フェリオル自身には損はないだろうな」
「でもなんでそんな話を俺に…」
「…私は子どもが居ない。
だが、親類の居ないお前を息子の様に育ててきた。
私はこの一大事を1人で抱える事など出来なかったんだ…」
ウェーターそう言いながら目頭を押さえた。
その様子と鼻をすするウェーターの声に、ガリアも目元を熱くしていた。
「オヤジ…」
「すまない…。
ガリアよ。
私たちが諸悪の根源「エドモンテ」を討つ事を計画し、その計画を成す残り時間も僅かとなった。
みんなの士気も上がっている。
そんな大事な時期にこの事件だ…」
「これからどうすんだ?
黙って見ておくのかよ?」
「さすがにそうはいかない。かと言ってまだ不確定な部分が多い…。
取り敢えず今の話は頭の隅に置いておいてくれ。
しばらく私も考えてみる」
その後2〜3言葉を交わし、ガリアはウェーターのテントを出て行った。
「く…くくく…。
さて…あの「犬っころ」の事だ。
すぐに噂になるだろうな…。
さてと…それにしてもあの「ヤマト」とか言う人間の集団は厄介だな…。
特にあの商人…まぁいい。
こんな所で気を揉んでも仕方ない。
「あの方」たちにも一応報告をせねばな…」
そう呟いた蜥蜴男の目は、普段の柔和な物ではなく、狡猾で獰猛な鋭いものになっていた。




