海沿いの道
王都に向けて馬車を走らせて、早3時間ほどである。
港町「カダルファ」から王都に向けての旅路はほぼ海岸線沿いである。
お世話になった孤児院から暫くは木々に邪魔されていたが、それを抜けると大海原が視界に飛び込んできた。
ターコイズブルー=トルコ石の様な明るい青。
まさにそんな鮮やかな海の色合いに、俺は自然とため息が出てしまった。
悪い意味のため息じゃない。
何というか…浄化されたみたいな?
いや別に汚染されてたわけじゃないけどさ。
やはり「母なる海」とは比喩ではなく、何か包み込む「母性」に似たものがある様に思える、つまりはそんな安心感があるわけだ。
正直、よく夏場に友人に誘われて行ってた「九十九里浜」とは全然違う。
いや「九十九里浜」をディスっているわけではないが、そう言わざるを得ない。
「あっはー!キレイだねぇ!」
「確かに…」
カルナさんもそう言っている事だし、こっちの世界からしてもこの海の景色はかなり良いものなんだろう。
マリシテンが同意してるのが証拠とも言える。
てか、カルナさん。
めっちゃ馴染んでるな。
外見的にも性格的にも個性の塊みたいな連中がうちのパーティー…と言うか旅の同伴者だ。
レイラは亜人で「黒龍人」。
その名の通り、漆黒の角や尻尾が生えており、足ももはや龍の様になっているし、なんなら髪も綺麗な黒髪。
艶やかな紅い瞳も綺麗な美人だが…俺の「奴隷」である。
別にやましいものではないんだが…成り行きと言うか、ね?
最初に立ち寄った「キャメリア」と言う街で偶然出会い、購入する事になった。
今では内の炊事洗濯を担う重要人物である。
後ろに居る猫耳がアニス。
彼女も亜人で「猫人族」だ。
亜人差別のひどいこの国で、頭を布で隠し「薬屋」として生活していた。
「薬学」だけでなく「医学」の知識も持っており、このメンツでのヒーラー的ポジションで、
俺にとってはこの世界の常識やらなにやらを教えてくれる貴重な存在だ。
アニスが乗っている巨大な蜘蛛の様な彼女はラン。
ラン・ラクネリオス=アラクネアと言う名前で「女郎蜘蛛族」という亜人だ。
その中でも「アシダカアラクネ」と言う種類?部族?らしく、戦闘能力も高いのだとか。
「スレイブキリング」と言う、レイラの事も狙って襲撃してきた集団に姉を誘拐されており、それを救う為にも現在、俺らと協力関係にある。
俺の右に座るシスター。
マリシテン・アリアンロッド。
戦闘狂であり、魔獣の殺戮を動力源にしているみたいなヤツで、ギルドでも注視されていた上「シスターインセイン」なんて呼ばれたりしている。
自分自身の中にある「神」を信奉しており、明確に何か宗教に入っているわけではないが、修道女服を着た、傍若無人のマイペース。
俺と手合わせをした辺りから俺を「神の使い」と言って着いてきている。
このメンツでは俺に次いで高レベルだが、れっきとした人間だ。
なんならこの中で一番キャラが濃い。
さすがに見た目のインパクトはランが強いが、性格的にはマリシテンがダントツだろう。
ちなみにさっきから海を見てテンション上がってるカルナさんは、王都までの同乗者だ。
「バルバトス商会」の主人で、
この商会は「魔獣素材」を扱う新しい商会だが、今後の成長の期待大な商会…とはギルド職員談。
・・・。
さて。
なんで、こんなまとめ紛いなことを考えているのかというと、
めっちゃ暇なのだ。
3時間…何度か同乗者の口論や女子トーク的何かを聞いたり海を眺めたりしていたが、正直俺はずっと馭者台で馬を操るだけ…。
「マップ」と手元の地図を併用して、次の町を確認しても…うん。
少なくとも今日中には着かないな、こりゃ。
「はぁ〜〜・・・」
「お?どうした少年?こんなうら若き乙女たちに囲まれているのに不服かね?」
無意識に漏れ出た俺の盛大なため息に気付いたカルナさんが絡んできた。
うら若き乙女って…あんたあと数年で30歳でしょ…なんて言えない。
報復も怖いが、「ステータス見ました」とも言えないから二重の意味で出来ない。
「いや…ただ、疲れただけだよ」
「それじゃぁ休憩にするかい?」
正直それも考えたが、そうそう何回も休憩を挟んでたら、いつまで経っても王都に着かない。
遅くて2週間前後もかかる旅路だ。
3時間経っただけで休憩なんて出来やしない。
「大丈夫。疲れたって言っても大したものじゃないからね」
そう。
最悪2週間。
早くても1週間とちょっと、王都に着くまで時間がかかるわけだが、ランの姉の事がある。
カダルファのギルドで出会った、俺から見ると「先輩の転生者」であるギルドのトップ、ユキカゼさんの話が本当なら、2週間のタイムロスはデカイ。
リミットが1ヶ月だったとしても、その半分は後に自分の首を絞める事になりそうだ。
まぁ一応、王都までの道中にある小さなギルドで、ユキカゼさんからの進捗報告を聞けるし、
王都に着けばもう少し濃厚な情報も得られると言っていた。
だからって2週間使い切る事はない。
余裕は大事だ。
正直もう死んでいると思っていた人間の(正確には亜人だが)生存の可能性を聞かされたら…。
それも赤の他人では無くなってしまった相手の姉なら…。
はぁ…
面倒ごとは嫌だし、ランも出会って日は浅い。
けど、孤児院で過ごした時間が良いもの過ぎた。
見過ごせない程度には親しくなった。
それなら頑張りますとも。
そこまで腐ってはいないからね。
俺は改めて手綱を握りなおした。




