目的の王都へ
さて、カルナさんへの返事だが。
「ふむふむ…なるほどねぇ…。
まぁ支払額を増やせってもんじゃなけりゃ取り敢えずアタイとしては全然いいよ」
という事だったので、俺が出した条件とカルナさんの要望を擦り合わせ、以下の通りの契約となった。
・ヤマト一行は旅をしている為、立ち寄った街にある「バルバトス商会支店」にて運搬の仕事を請け負う。
・ヤマト一行は、立ち寄った街に「バルバトス商会支店」があった場合、支店に「滞在期間」を報告する。
・ヤマト一行は、請け負った運搬の仕事における売り上げの2割を報酬として受け取れる。
・運搬の仕事はあくまでヤマト・クロード氏の好意である為、強制ではない
この契約内容を、現在展開中の支店やこれから開く支店に報告するんだとか。
正直な話、俺からしたら一番重要なのは最後の項目だけだ。
「あくまで好意」
つまり、俺には拒否権がある。
これが有るのと無いのとではかなり違う。
やはりその点を出されるのは想定していた様だが、嫌な顔はされなかった。
「拒否権を求めないって事は「拒否しない」って言ってる様なものとして話を進めようと思ってたけどね。
ちゃんと気づいたなら良いのさ。
元より強制労働じゃないからね」
とはカルナさんの言った言葉。
ついでに言うと、カルナさんから「こーゆー契約をした以上堅苦しくなるな」と言われたので、お互いに敬語は無しになった。
〜〜〜
「本当はこんなに長くお世話になるつもりは無かったんですけれど、ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ毎日朝夕のご飯をいただいてしまって申し訳ないですし、とても助かりました。
それに、子供達の面倒も見ていただいたり、周辺で自生している薬草についてなど、感謝しきりです」
ロディーナさんが深々と頭を下げて、それを真似る様に周りの子供達もかわいいお辞儀を見せてくれた。
「はい!これ!竜のおねーちゃんに!!」
子供達の中からスーネルが出てきて、レイラに何か差し出していた。
見るとそれは刺繍の施された布…恐らくハンカチの様な物だろうが、そこまで上等な物ではなく、取り敢えず手に入った布という感じだった。
刺繍も上手な訳ではないし、なんならとても雑としか言いようがない。
だが…
「女の子みんなで刺繍をしたの!ちっちゃい子は危ないから一針だけだったりするけど、ちゃんとみんなで刺繍したのよ!」
そういう事だ。
確かに出来栄えは雑と言うか…売り物には絶対できない見た目だ。
しかし、孤児院の女の子みんなの手縫い。
そうなってくると、出来栄えなど関係のない、値段も付けられない物になる。
「あ、えと…その…」
「貰ってやれよレイラ。レイラの為に作った物なんだからな」
若干おろおろ気味の黒龍人は、俺の言葉を聞くと、これまたおずおずとスーネルからハンカチ(のようなもの)を受け取った。
「あ、ありがとうございます。大事に…しますね」
「うん!」
スーネルと入れ替わりに、次は男の子が出て来た。
確かあの子は…特に接点があったわけでも活発だったわけでもないが、男子連中のリーダー的な子だったか。
「ディロス 10歳 Lv6 人間」
ディロスくんね。
彼はランに木の棒…いや木剣を向けた。
「俺、蜘蛛のねーちゃんみたいにカッコ良くて強い大人になって、絶対騎士団に入るから!」
カッコ良くて強い…か。
確かに彼を始めとして、男子たちは事あるごとにランに付きまとっていた。
ランがレイラに双剣術を軽く教えていた時も、マリシテンとケンカと称した手合わせをしていた時も、観客としてすぐに集まっていた。
ディロス少年に倣うように、男子たちはみんなそれぞれに棒切れや木剣を構えた。
まるで何かの誓いを立てているみたいだな。
「あの蜘蛛女を見習うというのは解せないですね」
俺の隣のシスターはボソッと呟いていた。
まぁ大きな声で言わないだけ理知的か。
と、思ったら、
男子や女子の内の数名はマリシテンの前にやって来た。
「シスターさん、僕もシスターさんのように強い大人になります」
「私も、シスターさんに文字を教えて貰ったから…もっと勉強して…勉強する!」
「僕も…なる」
あぁ…いつもマリシテンの周りに集まっていた子達か。
てか文字を教えたって…マリシテン、いつの間にそんな事してたんだ?
「そうですか。
別に私の様にはならなくてもいいです。
けど、魔獣は必ず殲滅して下さい」
『はい』
わぁぁ…一気にこの子たちの行く末が心配になってきた…。
まぁほどほどにしてくれれば…。
子供達からしたら亜人も人間も関係無いんだという事を知った。
正直、別にこの世間の「亜人差別」をどうにかしてやろうなんて崇高な考えはさすがに俺も持っていない。
なればいいとは思ってるが…。
ただ…願わくばこの子達が、今持っているその感情を持ち続けたままで大人になって欲しいとは思ったね。
「ウチには何も無いのは本当に悲しくなってくるんだけど…」
あ…アニスが本当に泣きそうな顔してるし…。
おいマリシテン。
さすがにその「ドヤ顔」は今はダメだ。
ただの追い打ちだから。
「いいですよーだ。今時「猫耳」は流行らないんですよねえー。
亜人の中でも多い種族だしさ。
猫派の子がいてもいいのにね」
あぁ…完全に拗ねたなコレ。
どうしたものかと頭を抱えそうになった時だった。
「ほらみなさん、並んで」
ロディーナさんがそう言うと今までレイラやラン、マリシテンの元に集まっていた子供達がロディーナさんの元に集合した。
「はい、それじゃみなさん」
『アニスねぇちゃん、いつもケガの手当てをしてくれて、ありがとうございます!!』
アニスの頭頂部、その猫耳がピクッと立ちあがった。
ロディーナさんから偶に聞いていたので知っているのだが、
恐らくアニスが、ここの子供達と一番関わりがあった。
確かにレイラやランやマリシテンは特定の何人かに人気だったのだが、あくまで遊び相手みたいなものだ。
それに比べてアニスは、目立った人気は無かったものの、その医学知識のため、怪我をしたり体調を崩した子供達の面倒を見ていたのだ。
子供というのはいつの間にか怪我をしているもので、本当に毎日、アニスの元に誰かしらがやって来ていた。
もしくは、子供から来なくても、ケガをしている子を見つけるとアニスの方から手当てに行っていた。
俺も偶にそれは見ていたし、ロディーナさんも気付いていた。
そして手当てされている子供達が一番よくそれを分かっていた。
「アニスねーちゃんみたいにお医者さんになるからね!!」
「俺もアニスねーちゃんみたいな医者になっていろんな人を助けるんだ!」
「アニス先生!また来てね!!」
まぁ、ことごとく全員がアニスの事を「医者」と思っている様だったけどね。
みんな、この猫耳はただの「薬屋さん」ですよ…。
「お…おう!
みんな、ちゃんと手洗いうがいを毎日するんだよ!
ご飯も好き嫌いしたらダメだからね!
そうじゃ無いとウチみたいにはなれないし、ウチもそんな子達には会いに来ないからね!!」
『はぁーい!!』
なんか、盛大に誰よりも「大人」みたいな事を言ってたけど、知ってるぞ。
アニスは「ノルグ」と言う、この世界では比較的安価に買える野菜が食べられない。
まぁその「ノルグ」だが、元の世界で言うところの「ネギ」に似た味の野菜だから、猫的にダメなんだろうか…?
「それじゃ、挨拶も済んだのならそろそろ出発すっかね?」
既に俺らの馬車に乗り込んでいたカルナさんが声をかけてきた。
「そうだね。
それじゃロディーナさん、俺たちは出発します。
またカダルファに立ち寄った際は顔を出しに来ますね」
「えぇ、是非いらして下さい。
大したおもてなしは出来ないかも知れませんが、ね」
「大丈夫ですよ、来たくて来るので。
それじゃ、また」
俺は馬車の馭者台に乗ると、我が馬車を引く馬「ポチ」「タマ」に鞭を入れた。
後ろの方から聞こえる子供達の別れの声が徐々に遠くなっていき、しばらくするとその声も聞こえなくなり、馬車の車輪が道を走るガタガタと言う音が主になってきた。
〜〜〜
さて、ちなみにランなのだが。
割と無理をして馬車に乗っている。
カルナさんから預かった樽4つに加え、今まで荷台に置いていた荷物も全て「アイテムボックス」に収納している。
「アイテムボックス」内にはまだ「竜甲虫」の遺体が入っているが、問題なく収納は出来た。
思ったより容量はあるらしい。
現状、馭者台には俺を挟む様にして右にマリシテン、左にレイラがいる。
荷台はほとんどランが占拠してしまっている。
アニスはランの蜘蛛部分、その背中に座っている状態で、カルナさんも何とか空いたギリギリ1人分のスペースに座っている形だ。
さて、この王都までの旅路だが、カルナさんも同行する事になっている。
今回運搬する「イザナイグサ」の「球根」と「蜜」をご所望のお客様が王都騎士団、守衛団の団長である為、商会主のカルナさんが直接引き渡すのだとか。
そのお客様…守衛団団長さんは恐らく俺の身体「アルキウス・クロード・キャメロット」の兄なのだが…。
その点については何も想定して無いな…なる様になる…って感じでいけるだろ。
さて、話は変わって王都までの道筋だが、カダルファからの道は少し変わっている。
俺が最初に立ち寄った「キャメリア」は、中央に流れる巨大な川が王都までの続いていた。
なので船で一気に行けるのだが、カダルファはそういうわけには行かない。
ほとんど海沿いに王都近辺まで行き、途中森を抜け丘を越える。
丘の先に王都は存在する。
ちなみにキャメリアからの運河は、その丘の辺りで見えてくる様で、王都内にも運河は走っている。
まぁ地図で見た感じだと、キャメリアを2〜3倍くらいにしたのが王都ってな具合である。
馬車で行けば遅くて14〜15日程で着くのだとか。
あぁ…遠いな。
一応途中には幾つか「アルマナ」の様な中継地点的な町があるとの事で、
そこで必要な食料などは買う事にする。
そう言えば、
カダルファの孤児院に居る間に、レイラのステータスに変化があった。
レイラ 19歳 Lv13 亜人種/黒龍人」
保有スキル
・「言語:龍」4
・「暗視」5
・「危機感知」7
・「空間把握」5
・「逃走」2
・「双剣」2
・「料理」5
種族スキル
・「自然治癒」7
・「耐性:闇」5
・「耐性:火」5
・「耐性:土」5
・「耐性:水」5
・「耐性:風」7
・「耐性:物理」7
レベルが13に上がっていた。
それとスキルに新しく「双剣」と「料理」が増えていた。
「双剣」はランに教えて貰ったので、実戦レベルとまではいかないが、ある程度自衛できるくらいになっている。
「料理」は言わずもがな。
もとから才能はあったが、そもそも料理を作る機会が無かった為にスキルとして発現していなかったって感じだろう。
今後の成長に期待だな。
それと、これはあくまで予想なのだが。
トリヴィアが襲撃してきた際、俺はレイラに全力疾走をかました。
全力と言えば、マリシテンとの手合わせの時、全力の寸止め攻撃であいつは気絶していたが、レイラは気絶していなかった。
俺の「賭博」スキルが発動してたかどうかまでは知らんが、ある意味賭けに勝った感じだったが、それだけでは無かったらしい。
「耐性:風」と「耐性:物理」が5から7に上がっている。
要因として考えられるのがアレしか無い…まぁ十中八九当たりだろうな。
取り敢えず、主人と言うか兄の様な心持ちなんだが、
成長している様で、それが目に見えると嬉しいもんだな。
ちなみにそのレイラは、俺の横で孤児院の子供達に貰ったハンカチもどきを眺めて嬉しそうに目を細めていた。
可愛いな、このやろう。
右にいるマリシテンは…まぁ平常運転。
微動だにせず座っている。
「ねぇ、やっぱどうやってトイレするのか気になるんだけど?」
「カルナ殿はなぜそんなにしつこいのだ!?」
「いいじゃないのランちゃん。教えてあげればー?」
「あ、アニス殿!?」
「ほら、おチビもそう言ってんだよアラクネちゃん!
ちょっとトイレしてみな?」
「何故今なのだ!?ちょ!こら触るな!!おい!!」
「あぁ!?おい暴れるな!!馬車が揺れるだろ!!」
「す、すまない主殿!しか…しかしカルナ殿が…あぁん!!」
「変な声も出すなよ!?気になるだろうが!!」
「蜘蛛女で発情するとは…ヤマト様はそういう趣味ですか…?
ちょっと引きます…」
「勝手に引いてんじゃねぇよマリシテン!?」
「ご主人様…そうなんですか?」
「レイラもお決まりな勘違いしなくていいから!!??」
「あ、主殿は自分には何も魅力を感じない…と」
「あぁほらぁ!少年のせいでアラクネちゃんがしょんぼりしちゃったじゃーん」
「あらぁ…兄さんったらヒドイなぁ」
「カルナさんもアニスも悪ノリしすぎだからな!?」
「そうですよ、蜘蛛女。
ヤマト様は人間に「のみ」発情するんです。
わきまえなさい亜人風情が」
「マリシテンも急に死体蹴りとかやめたげて!?」
「そうですよね…亜人は…無いですよね…」
「飛び火してる!レイラがなんかショボンとしちゃったから!!もぅやめて!?後生だから!!」
このメンツで王都まで行くのが、
凄まじく不安である!!
最後はワチャワチャした雰囲気を想像していただきたく、台詞のみを書かせて頂きました。
実はこういう言葉の掛け合いが個人的に好きだったりw




