カルナの訪問
「おっほぉ!すごいねぇ!本当に亜人が3人もいるじゃないか!
ねぇアンタ、その角って本物かい?!
脚は完全に龍だし…どこまで龍なんだい!?ちょっと見せてみな!」
「え?!あ、ちょっ!どこを触っているんですかぁ!?ふぁ!?
ご、ご主人様ぁ〜!!」
〜〜〜
「あらぁ〜蜘蛛じゃないか!完っ全に蜘蛛!!
てか蜘蛛から人が生えて…る?
繋がってる部分ってどうなってるんだい?
てか、排泄は!?トイレは!?どうなってるんだい!?」
「な、なぜそこまで話さなくてはならないのだ!?」
〜〜〜
「動かないシスターまでいるじゃないか!」
「刈り取りますよ…?」
「なにを刈り取るってんだい!?あっははは!!」
〜〜〜
「おチビはいいや。昨日会ったし」
「こんのやろぉぉおおおお!!??」
動物園に初めて来た子供かよ…。
てか、アニスにももうちょいかまってやれ…。
俺は静かにアニスの頭をポンポンと軽く撫でた。
強く生きろよ。
この「最高にハイってヤツ」になってるのは…まぁ何と言うか…
次の依頼の依頼主でありバルバトス商会の主人=カルナ・リリトリアス・バルバトスさんだ。
「いやぁ〜亜人つっても結構種類がいるもんだねぇ?
んんん…これを何か仕事に活かせないだろうか…」
わ、急に仕事人な目になりやがった。
〜〜〜
太陽が天頂を通過する少し前、俺らがいる孤児院に来客があった。
言わずもがな、カルナさんだ。
明日にはカダルファから王都に向けて出発するので、今日の内に荷物を積んでおこうと言う話になっていた。
積み込み自体は夕方を予定しているが、その前にカルナさんが訪ねてきていたのだ。
「よっ少年!」
「あ、あはは」
昨日の凄みのある雰囲気はどこ行った?
というか…そんなことよりも驚いたのはその服装だった。
和服。
そう形容するべきか少し迷う程度には着崩しているが…広い意味で言うなら「和風」かな?
「あの…その服は?」
昨日会った時は割と普通の格好だった。
まぁあくまでも「この世界観では」普通の格好だ。
なんなら、商会主でもあるため少し高そうな服だったな。
落ち着いたくらい服だったし、何よりあの凄みを効かせた声や視線から…正直どっかの組長とか言ってもおかしくない感じだったのに…。
それになんなら昨日は特筆する様な感じじゃなかった茶髪が、ショッキングピンクになっている。
「お!兄ちゃん良いとこに目をつけてくれたねぇ!」
カルナさんはその場でふわりと一回転する。
よく言えば「和洋折衷」な服装だ。
ただその格好を見て何よりもピッタリだと思った言葉がある。
「あぁ…歌舞いてますね」
「かぶ?まぁ褒め言葉だろうし、素直に受け取っておこう!」
そりゃどーも…。
「えっとその髪は?昨日は茶髪でしたよね?」
「あぁ、アレね。1日染め。
本来がこっち」
・・・この世界にも1日染めはある様です。
〜〜〜
孤児院に彼女を入れ、数分後に旅の仲間を紹介した。
結果が冒頭のハイテンションである。
「亜人を仕事に活かすのは、俺としては是非ともお願いしたい所ですね。
ある程度亜人への差別が薄らいで貰えると、俺も旅をしやすいですから」
「んんん…ま、逆に言えばその差別のせいで仕事に活かせないんだけどねぇ…。
ねぇアラクネちゃん。
なんかさ、力持ちな亜人っている?」
雑な質問だな…。
「そもそも亜人は人間より強い」
雑な回答だし…。
「個体数が少なく、繁殖力も低い。にもかかわらず生命力は高く身体能力も然り。
個体数と繁殖力が遥かに勝る人間は数と技術で我々亜人や魔獣を排斥しているが、
同数かつ同じ武器で戦争をすれば、まず人間は勝てないぞ?」
あらぁ…。
ランさんや、涼しい顔でそんなこと言ったらさぁ、うちの…
「聞き捨てなりませんね蜘蛛女。ここですぐに刈り取ってあげます」
「やってみろこのシスターモドキ」
ほら、マリシテンが噛みついた。
「…お互い「殺さない」なら外でケンカしてきてくれ」
「「はい」」
2人は息があった力強い返事の後、睨み合いながら裏庭の方に出て行った。
数秒後に凄まじい戦闘音が聞こえてきたので、慌ててアニスが裏庭に走って行くのがちょっと面白かったな。
「兄ちゃん、あれ大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。
うちには優秀な猫耳の薬屋が居るから。
それにランは常識があるし、マリシテンは何気に真面目だからね。
「殺さない」って条件に「はい」って言ったから多分死にはしないと思う」
戦闘音に混じって、いつの間にか子供達の歓声が聞こえてきた。
子供が絡むといよいよあいつらは調子が狂うからね。
なおさら大丈夫だろ。
〜〜〜
「へぇ〜結構良い馬じゃないか」
俺らが使う文字通り馬車馬を撫でながらカルナさんは言った。
「うんうん…食べ物もちゃんとしたのを選んでるね。筋肉の配置もキレイだね。
姿勢も良い。それに毛並みも申し分ない。
…ちょっと最近は運動してない感じはするかな?」
ま、1週間近くこの街にいますからね。
その間あんまり馬車は使ってないから。
ちなみに、彼らの名前だが、
灰色が「ポチ」、栗色が「タマ」になってしまっている。
完全にふざけて
「ポチとタマで良いかなぁ〜」
なんて呟いたのをアニスとレイラに聞かれており、
何故か2人はそれを気に入った様で…結果現在に至る。
すまん、ポチ。タマ。
「もっと良い名前はなかったのかい?
「シュナイダー」とか「クレイジー」とか「アバレ○ジャー」とか」
カルナさん。
シュナイダーくらいしかまともなのが無いよ…。
クレイジーは可哀想だし、アバレ○ジャーは戦隊ヒーローだよ…。
知ってるのかよ?
いや、完全に偶然だな…。
「荷台の方はやっぱ旅用だねぇ…大樽と中樽で一杯になりそうだけど、どうすんだい?」
「その点は大丈夫です。積み込みまでには片付けますから」
「…ふぅん。なら良いけどね」
現状、俺らが使う馬車の荷台には食料や衣服を始めとする様々な道具を置くスペースと、座るスペースがある。なんなら、床板の下にも収納スペースがあるくらいだ。
全体的な広さは結構広い。
1畳半…いや2畳くらいかな。
なので荷物自体は結構積み込める。
ま、単純に荷物は全部俺の「アイテムボックス」に入れるだけですけどね。
「ちなみに、大樽ってどれくらいですか?」
「ん?このくらい」
そう言ってカルナさんは、自身の肩くらいの位置に手を出した。
ちょっと待て。
それ高さ140〜150cmくらいあるぞ?
樽ってそんなデカかったっけ?
せいぜい腰ぐらいの高さだと思ってたんだが…。
「で、中樽はこれくらい」
そういって指し示したカルナさんの手は、腰ぐらいの高さにあった。
想像に合ってたのはそっちか…。
「ちょっと予想より大きいですね…」
「言うと思ったよ。一般の人が見てる樽の大きさと、アタイら商人とか業者が使ってる樽は違うからねぇ?
先に言っとくけど、アタイらは荷台は出せるけど馬が居ないよ。
借りるってんなら貸すけど」
馬の無い馬車…ですか。
さぁてどうするかなぁ…さすがに大樽をアイテムボックスに入れるのはなぁ…。
「なぁ兄ちゃん、何か案があるなら言うだけ言ってみな」
考えを読まれた様な感じがした。
一瞬びっくりしてカルナさんを見ると、昨日も見せたニヤリ顔。
顎を撫でながらこちらを見ていた。
「あぁ…まぁなくは無いんですけど…」
「なくは無いって事は有るんだな?」
「・・・んじゃ見てて下さい」
俺は馬車の中からレイラやアニスの服が入った大きめの籠を取り出した。
軽くそれに手を乗せ…「アイテムボックス」に収納した。
「ん?お、え!?なにそれ!?何したの!?籠はどこ行ったんだい?!」
「内容を教えても良いですけど…
この事はマジで他言無用でお願いします。
面倒なことになったら嫌なんで…」
ずっと喋らずに着いてきていたレイラは、何度か俺の「アイテムボックス」について見た事は有るはずだ。
まぁ説明はして無かったからな、それなりに驚いた顔をしていた。
あ、いや、多分自分の服が無くなったことを心配してる顔だこれ。
「んんん…なるほど…。
他言無用、ね。
いいよ、分かった。
それにアタイとしても面倒はごめんだね」
…口約束なのは正直不安があるけど。
まぁそこはカルナさんが「商人」ってとこに賭けるか。
「信用」と「信頼」を重視する職種なわけだし、さすがに口約束でも反故にはしないはずだ。
「分かりました。
とは言っても余り詳細にお教えする事は出来ないんですが…
これは俺の…まぁ固有の魔法みたいなもので、ある程度の大きさの物を収納したり、取り出したり出来る能力です」
「ほっほぉ〜。
ある程度ってのは、限界はあるのかい?」
カルナさんの目は既に仕事人モードだ。
「まぁ厳密にはあると思うんですが、
さっき言ってた樽のサイズなら問題は無いですね」
顎を撫でながらカルナさんは暫く思考を巡らせた。
一応考えていることは何となくわかる。
商品の持ち逃げ。
さすがにやりはしないが、こんな曖昧に説明された能力をすっかり信じるとも思えな…
「そんな便利な能力があるんなら、それでいいんじゃない?」
・・・え?
「あ、あの怪しんだりしないんですか?」
「怪しむも何も、便利な物は使う。それだけさ。
それにアタイのスキルで、アンタが悪い人間じゃないのはわかってるからね」
ニヤリと笑いながらそんな事を言われた。
あぁ…「鑑定:人間」ってそういうことか…。
商人にしたらかなり強力なスキルかもな。
「ま、わがままを言わせてもらうなら、
その能力、たまに貸してくれないかね?」
「貸す…ですか?」
「あぁそうだよ。
なんかその能力はアタイどころか、商人と言う職業からしたらとんでもなく有用だろ?
アンタ1人とそれを守る数人が居れば物の動きにかなり自由度が増すからね」
あぁ…確かに…。
「そうだなぁ…一回の運搬ごとに、その時の売り上げの2割を支払うってのでどうだろう?」
「2割ッッ!?」
2割。
100円の売り上げで、20円支払われる。
それだけだと小さく見えるが、相手は商人だ。
おそらくだが、そのやり取りの額は小さくは無いだろう。
売り上げ額が上がれば、支払額も増える。
単純に、
100万なら20万、1000万なら200万、1億なら2000万も俺に支払うと言うのだ。
原価やら人件費やらその他諸々の経費を考えれば、決して安い割合じゃない。
「そんなに支払って良いんですか…?」
「それだけ見込みがあるって事さ。
それにアタイらが請け負ってるのは「魔獣素材」だ。
それなりに他の商人より仕入れに金がかかってる。
そこから更に運搬費用とその護衛を雇う費用とかかかるわけ。
アンタはギルドに登録してるから、護衛も必要無さそうだし、
運搬と護衛の料金がアンタ1人に支払うだけで済むなら、正直全然元は取れるんだよ」
カルナさんは懐からキセルを取り出して吸い始めた。
…キセルってコッチにもあるんだ。
「ま、別に金に困ってないなら良いんだけどね。
アタイがただお願いしてるだけさ。
それに、別にこの話を蹴ったところで、アンタの能力は口外しないさ。
アタイらのライバル商会に目をつけられちゃ溜まったもんじゃないからね。
だからそこらへんは安心しな」
「そう…ですか。
ちょっと、その話については少し考えます。
明日にはしっかり返事をしますので」
口から煙をふわっと吐きながら、カルナさんは口角をニヤリと釣り上げる。
「即断即決もキライじゃないけど、美味そうなものを前に飛びつかない思慮深さはもっと好きだよ」
なるほど…。
商人ってのはみんなこうなのかは知らないが、この人のこの若さで立ち上げた商会が急成長中なのが何となく分かった。
ヘラヘラした様な印象に、この傾奇者な外見。
正直想像してた商人とは全く違うぶっ飛んだ印象があるが、
その実、世間から侮蔑される亜人にさえ臆せず、むしろ仕事に利用しようとする常識にとらわれない柔軟な発想を持ち、加えて相手の善し悪しを見抜くスキルを併用した交渉。
もはやその外観や態度も計算かも知れないな。
さすがに悪い人とは思ってないが、あくまでも仕事上の関係で信頼するに留まった方が良さそうだ。
取り敢えず、その他はわりと他愛ない話をした後一度カルナさんは商会に帰り、
夕方、改めて運搬する物資を持ってきてくれた。
さて、明日には王都へ出発する。
カルナさんへの返事も考えておかないとな…。
「あの…ご主人様…」
夕飯の後、レイラが声をかけてきた。
「ん?どしたん?」
「あの…そろそろ…服を返していただけると…。
お風呂に入りたいので…着替えが…」
・・・忘れてた。
慌てて籠を「アイテムボックス」から取り出してレイラに渡した。




