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[中止中]伯爵の次男に転生したけど旅に出ます。  作者: 椎茸 霞
「長いチュートリアルは面倒だと思う」
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ユキカゼの依頼

最後はちょっとホッとしたわ。


コレで「出会った人みんな死にました」だと、もぅもはや俺も遠からず死ぬフラグか呪いだったんだからさ。


いや…最後の「ヒビキ」さん?

それも性奴隷だったんだよね…。


少なからず不幸になるじゃないだろうなぁ…。


「さてと、話が長くなってしまって申し訳ないね。


それじゃぁそろそろ本題にも入って行こうかな」


いつの間にか、ユキカゼさんのグラスも3杯目だ。

管理職の人が仕事中にこんな堂々と酒飲んで大丈夫かよ、マジで。


「まずは…そうだな。


君が共に行動している亜人達。

それは今後どうするつもりかな?」


なるほど…亜人、つまりはレイラ達の事を知ってるわけだ。


「正直、どうすると言う予定は無いです。


ちなみに、どこまで知ってるんですか?」


「どこまで…と言うと、そうだね…。


現状あの孤児院に3人の亜人がいる事は知っている。

そう、それと「シスターインセイン」…マリシテン・アリアンロッドがいる事も分かっているよ」


悪びれる事もなくサラッと言ってきた。

レイラとランがバレているのは何となく分かる。

だが…アニスのことも知っている上に、まさかのマリシテンだ。


ただの美人なおっさんじゃ無いみたいだな。


「そこまで知っているなら…俺の事は?」


ユキカゼさんの微笑みは崩れない。


「…アルキウス・クロード・キャメロット。

この領地の領主、キャメロット伯爵の次男だね。


でも、中身は全然の別人の様に僕は思っているし、何なら転生者の話の時点で僕の予想が外れていたら君は帰ったはずだろう?」


ちゃんと見てますね、おっさん。


「まぁそうですね」


「僕は君を「ヤマトくん」という個人として見ているが…それとも「アルキウス様」として扱った方がいいかな?」


「いや、ヤマトでいいです。


と言うか…俺はスレイブキリングについて呼ばれたんじゃ無いんですか?」


「んんっと…そうだね。

正確には、「スレイブキリングの事で呼んだ」というより「スレイブキリングの事があったから呼んでみた」というだけだよ」


お試しかよ。


「そうだね…話にも上がった事だし、スレイブキリングについての話をしようか。

なんなら、それがある意味「本題」とも言えるからね。


君はあの集団についてどこまで知っているかな?」


「亜人奴隷を狙った殺戮集団…と言う事くらいですかね」


「なるほど…。まぁ間違ってはいないかな…」


「どういう意味です?」


ユキカゼさんは4杯目のお酒を飲み始めた。

飲んべえかよ。


「スレイブキリングは、結果として亜人を殺しているが、その実態は「過激な異常性癖者」の集団だ。


亜人に対して興奮し、それに手を出す事で快感を得る。

ただ亜人と愛し合ってくれるなら、世間の目はあるにせよ、こちらとしては特に問題は無い。


だが、彼らは一概に特殊とも異常とも言える性癖を持っているんだよ。

殺してしまうほどの過激な異常性癖さ」


なぁんか…わからなくもない。

と言うのも、俺はちょうどトリヴィアの言動を何となく思い出していたからだ。


「ちなみに君が倒した「仙人掌(サボテン)創りのシガー」と「調教師のトリヴィア」。

シガーは亜人奴隷に自作のニードルを、まるで生け花の様に刺して「仙人掌」と形容できる遺体を作り上げる。

見つかった遺体はどれも、全身100箇所近くニードルが刺さっていて、どれも急所を外してあったから失血死が死因のほとんどだ。


トリヴィアの場合は、「スレイブキリング」には珍しく彼女の元から逃げ出せた者も居てね。

話を聞くに、ただの…SMの女王様という感じだったね。

加えて同性愛者だった様で、雑な説明をするなら「ドSのレズ」という感じかな」


そのやたら渋くて低い声で「ドSのレズ」とか言うなよ。

面白いから。

笑っちゃうだろ。


「まぁ逆にコレが幸いな事でね。

トリヴィアから逃げ出した者から有力な情報は幾つか手に入れる事は出来たんだよ」


「あの、ユキカゼさん。

なんでそれを俺に話すんですか?」


不意に思った疑問をぶつけてみた。


「簡単な事さ。

君にスレイブキリングを撃退して欲しいんだ。

少なくとも拠点とかは見つけて欲しいかな」


うぅわぁ…面倒臭いなぁ…。


「もちろんタダとは言わないよ。それなりに報酬も出そう。

言い換えるのであれば、ギルドから正式に君にスレイブキリングの討伐を依頼しているんだよ」


俺の顔が完全に本音を物語っていた様で、ユキカゼさんが慌てて取り繕ってきた。


いや、まぁ良いんだけどさぁ…なんて言うか…。

うん、ただ面倒臭い。


「ラーナ・ラクネリオス=アラクネア…と言う名前は聞いたかな?」


その名前に心臓が一瞬強く打たれた。


言わずもがな。

ランの姉の名前だ。


正直な話、俺はランの姉はもう死んでいると思っている。

首輪は外れていたと言うが、スレイブキリングに捕まったのだから。

さっきヤツらは殺戮集団じゃなく「異常性癖者集団」と聞いたが…まぁ大多数が死んでいるなら変わらないはずだ。


「ランの姉ですよね」


「あぁそうだね。

僕は、ラーナさんを拉致したのは、十中八九「この男」だと見ている」


そう言ってユキカゼさんは、デスクの上にあった紙を数枚俺に差し出してきた。


「クリサリス・ファニー(標本師のクリサリス)」


資料には人相書きが一緒にあった。


どうも…見るからに「根暗」という言葉が似合いそうだ…。

昆布というかワカメというか…そんな感じの長髪をダラリと無造作に伸ばしきっている細身の男。


「彼は主に昆虫に似た容姿の亜人を狙う男でね。

まぁ昆虫型の亜人がそもそもそんなに多いわけではないから、被害も少ないんだけど…故にこの男がラーナさんを拉致したとみて間違いないと思う」


ユキカゼさんも別の資料に目を通しながら話を続ける。


「彼の通り名は「標本師」だね。

君は昆虫標本を見た事はあるかな?」


「えぇ、図鑑とか博物館とかで」


「彼が狙った亜人はその昆虫標本の様な姿で発見されるんだよ。


加えて何か美術的なものを表現しようとしているのか…彼が手をかけた亜人はどれも、かなり人目がつく所に…まさに「展示」されるんだよ」


ユキカゼさんは持っていた資料を俺に渡してきた。


「アルマナの中央広場にて4ヶ月前に行方不明となった蛾人族の遺体が発見される。

両腕を広げ、脚は揃えられ、身体を軽く反らせた状態。

蛾人族特有の背中の羽は、シワもなく異常とも思えるほど綺麗に開かれていた。

遺体の各所に関節を固定する様な極細いピンが確認されている」


「エルクリア大神殿跡にて2ヶ月ほど前に行方不明となった蟷螂人(とうろうじん)族の遺体が発見される。

蟷螂(かまきり)特有の羽を広げ、大きく鎌を振り上げた様な状態。

その鎌や周囲には、3日前に行方不明となっていたギルド冒険者ポール・フェルドマン(26)の解体された遺体が散乱していた。

以前発見された蛾人族の遺体同様、関節を固定する様なピンも確認されているため、同一犯の可能性が高い」


「コーネリア公園の中央噴水前にて3ヶ月ほど前に行方不明となった百足人族の遺体が発見される。

別件として9ヶ月前に行方不明になっていた他の百足人族と絡み合う様な状態。

以前の昆虫型亜人を狙った犯行とも合致する点が多く、またどの亜人も奴隷であることから「スレイブキリング」の者の犯行と思われる」


…こーゆー感じの犯人って確かサイコパスとか言わなかったっけ?


遺体の様子を描いた絵が、なぜか無駄に写実的に書かれており、グロいと言うよりなんか本当…そう、「趣味の悪い美術品」という感じがした。


「…その後も幾つか犯行は有るんだけどね。

どの亜人も拉致から遺体発見まで時間が空いている。

早くて2ヶ月程度。長くて1年半なんてのもあるよ。


そして、遺体の検死結果なんだけど、そのどれもが遺体発見の2〜5時間前までは生きていた事が分かっている。

その時の環境によって3時間のラグはあるけども、それは仕方ないね」


ようやくユキカゼさんが言いたい事がなんとなく分かった。


「ラーナさんの遺体は…まだ?」


「発見されていないね。

少なくともここ2〜3ヶ月の内に女郎蜘蛛(アラクネ)族の遺体は見つかっていない」


俺はランの話を思い返した。


ランの姉、ラーナさんは2ヶ月ほど前に「人攫い」に捕まった。

ランがこのカダルファに到着したのは、今から1週間と数日前。

でもその時にはラーナさんは「スレイブキリング」に拉致された後だった…。


ユキカゼさんが言う様に、最短2ヶ月の行方不明期間と、遺体発見の数時間前まで亜人が生きていたと言う話が本当なら…


「…ラーナさんはまだ生きている可能性が高い、と?」


「そういう事だね。


ただ、ここまで資料が揃っているんだけどどうもこの先は現場の判断や意見が重要になってきそうなんだ。


さて、ここで改めて説明させてもらうよ。


僕は君に「スレイブキリング」を撃退または拠点の発見をして欲しい。

これは正式なギルドとしての依頼とするのでしっかりと報酬も出す。

加えて、こちらで用意できるだけの資料や情報はしっかりと提供させてもらう。

必要なら人員も手配しよう。


言い方はアレかも知れないが…

君はその情報を元にスレイブキリングを叩くだけだ。


どうだい?やってくれないかな?」


聞こえは良いし、簡単な様に思える。

けどこの人の微笑みは正直胡散臭い。


さすがに即答で首を縦にふる事は…


「もしもう一押しだと言うのなら、僕の秘密を1つ教えてあげよう」


「秘密…?ピーマンが苦手とかそんな下らない事だったら普通にキレますからね…」


「いや、確かに苦手だけどそうじゃないよ。もっとちゃんとしている」


苦手なんだ、この40代…。


「君の元にランを送ったのは僕だよ」


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