ユキカゼの出会った転生者
ギルド職員として働き始めて4年が経った頃、初めて僕以外の転生者と出会った。
その頃は、ただの受け付けとしてアーキルット王国のギルドに居たんだけど、ギルドカードに書かれた名前が「アキラ・ナカムラ」と言う思った以上に日本人な名前だったんだ。
余りにもストレート過ぎてね。
正直、死神さんのとこがどう言う方針でやっているのかは分からなかったから。
さすがに話をしてみたら、彼は正確にはこの世界に「転生」ではなく「転移」して来たんだと言っていた。
彼は「能力」ではなく「武器」を死神さんに授けられていたよ。
確か名前は「魔剣バスカヴィル」だったかな。
問題は彼が「自分は選ばれた人間」と言う自負がとても強くて…僕の存在さえ許せない様な感じだった。
話もものの数分で決別。
「二度と顔を見せるな」とまで言われたよ。
普通、初対面の人間にそこまで言えるかな?
彼の訃報を知ったのは、その2ヶ月後だった。
ドラウス帝国とエルクール王国の戦争に傭兵として出向き、そこで戦死したらしい。
彼がギルドカードを持っていたから、僕の所まで話しは降りてきていた。
討伐依頼以外でギルド冒険者が死ぬなんて、余り多く聞く話じゃないからね。
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次に出会ったのは、「ユウナ・フェルグス」と「ユウキ・フェルグス」と言う双子の兄弟だった。
弟のユウナくんは人当たりの良い子。
能力は「超加速」と「高感覚」と言うもので、3秒だけ音速で動ける能力と、その速度に追随できる感覚だった。
兄のユウキくんは反対にとても無口で無愛想だったが、能力は「サイコキネシス」と「広域生命感知」と言うものでね。
「サイコキネシス」は言わずもがな「念動力」…つまりは思念でものを動かしたりする能力。
「広域生命感知」は街1つ分の広さの中にある生き物を感知できた。
2人は正確こそ真逆だったがとても仲が良かった様に見えたよ。
彼らの場合は…本当に不幸な事故としか言えないね。
アーキルット王国を未曾有の大津波が襲ったんだ。
2人とは個人的にも親しくさせて貰っていたから分かるが…とても優しかった。
それにあつらえた様な彼らの能力もあった。
故に小さな子供や老人の避難に手を貸して…結果自分達が…ね。
復興の為にギルド職員の下っ端も駆り出されていたんだが…遺体の安置所で彼らを見つけた時は、柄にもなく大声を上げて泣いてしまったよ。
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4人目は「ヒナタ・ユイガハマ」。
女の子だった。
出会ったのはユウナ、ユウキ兄弟の死から8年後だ。
ここ、エルクール王国の東側に位置する「タールケット」とという「職人の聖地」とも呼ばれる技術者の街だった。
この頃には、僕もギルドでそれなりの地位に居てね。
いわば「中間管理職」…とでも言えるかな。
「転生者」はみんな、元の世界の頃の名前をギルドに登録しているらしい事が分かった。
と言うのも、それくらいの地位になればある程度ギルド登録者の名簿も見る事が出来たから、名前だけなら他にも12名ほど発見出来たんだ。
まぁ、その何故かその過半数は討伐依頼中に死んじゃって居たけどね。
ヒナタさんは、なんと言うか…とても元気な女の子だったね。
まぁギルドに登録するのはそういう活発な子が多いのは分かりきった事だから大して重要ではないんだけど。
能力は「魔力永久機関」。
そして「魔槍ゲイボルグ」と言う武装を持っていた。
「魔力永久機関」は、魔力を吸収しそれを自分の肉体の様々な用途に活用する事ができる能力だった。
「魔槍ゲイボルグ」の方は、持ち主の内包魔力が高ければ高い程真価を発揮する…と言っていたけど、流石に全部は教えてくれなかったね。
彼女の場合、とても呆気ない死に方だったよ。
階段から落ちたんだ。
ただそれだけ。
いかに反則級の能力を持っていても、そんな程度で死ぬんだから…もはや笑えてきてしまうよ。
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5人目の「リョウ・ハマカゼ」くんは、どうも1人目のアキラくんと似た様な子でね。
同じ様に喧嘩別れ。
そして魔獣討伐に失敗して死亡。
そんな感じだったね。
これは転生者だけでなく、ただのギルド登録者にも言える事なんだけど、順調に仕事が進んでいき慣れた頃と言うのが一番危ないんだよ。
特に魔獣討伐任務は、迅速な決定と「諦める」と言う意思が大事だね。
確かに依頼の失敗はペナルティとして取り扱われるけど、その点はギルドもちゃんと確認しているつもりだ。
依頼時に報告が無かった大型魔獣の出現なども無いとは言えないからね、ちゃんとそこは加味しているんだよ?
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君の前に出会った転生者…つまり6人目の転生者は、ギルドで出会ったわけじゃない。
ギルド冒険者が壊滅させた盗賊に性奴隷として飼われていた。
「ヒビキ・ミナザワ」さん。
保護した時には既に満身創痍。身体だけじゃなく、心もボロボロだったよ。
保護した時点で16歳。
性奴隷として飼われて5年だと聞いた。
さすがに生活に支障が出るレベルだったし…第一に人との接触がかなり苦手になっている様でね…。
「同郷」…という安心感からかな。僕はまだ話をして貰えたから…成り行きで今は僕の所有する王都の別宅に住んでいる。
それがちょうど4年前で、
僕が出会った7人目の転生者が君、ヤマトくんだよ。




