依頼主の話
「おう!アンタらが依頼を受けてくれた冒険者かい!
ヒョロっちい身体してるけど大丈夫かぁ〜?」
「まぁなんとかやってます…」
「それにそっちのチビは?連れか?あ!弟か!」
「ウチと兄さんはパーティーだよ」
「兄さんって、やっぱ兄弟?」
「違うって!」
王都までの運び屋的な依頼を昨日受け、今日その依頼主=カルナ・リリトリアス・バルバトスの元に尋ねたのだ。
カルナさんは「バルバトス商会」と言う商会の主人であり、現在は主に「魔獣素材」を取り扱っているのだと言う。
それにしてもかなり「強い」女性だな…。
「カルナ・リリトリアス・バルバトス 28歳 Lv39 人間」
保持スキル
・「交渉」7
・「ポーカーフェイス」6
・「鑑定:魔獣素材」8
・「鑑定:鉱物」6
・「鑑定:人間」8
・「算術」8
・「商売」7
・「聞き耳」7
・「礼儀作法」6
うん。ま、さすが商人さんという感じかな。
それにしても…「鑑定」スキルってかなり細分化されているみたいだ。
「鑑定:人間」ってのは…人選能力とか、俗に言う「人を見る目」ってヤツか?
スキルになるくらいだから相当鋭いんだろう。
変なことは出来ないな。
…ま、するつもりも無いけど。
「ま、体格なんか良いんだけどね!しっかり仕事をしてくれる人は好きだよ!
立ち話もなんだし、ほら入って入って!」
カルナさんに促され、俺とアニスは家に上がらせてもらった。
あ、そうだ。
まずはこの「バルバトス商会」について、ギルドで事前に聞いていた事を言っておこう。
このどっかの悪魔みたいな名前の商会は、割と最近出来た商会で、先ほども言った様に「魔獣素材」つまり討伐した魔獣の皮や角、骨などを取り扱っている。
「魔獣素材」は本来、冒険者が自身の武装を強化する為だけに利用されていたらしいのだが、
そこにこの「バルバトス商会」は目をつけたのだ。
普通の鉄や木よりも格段に強度が高い素材も普通にあるのだから、日常生活に使う物に流用すればそれなりに便利なはずである。
この「バルバトス商会」だが、出来たばかりという事もあり、まだ店舗は小さい。
国内にもまだ数店しか支店も無いのだと言う。
ただ、現在絶賛成長中という事もあり、国内どころか国外にも支店が増えるのは時間の問題だろうとギルドのお姉さんは言っていた。
俺たちが訪れた「カダルファ支店」は、港近くの長らく使われていなかった倉庫兼住宅を改装した物であり、見た目はなんとも絶賛成長中な感じには見えない支店だ。
言っちゃなんだが、外観だけならもはやそろそろ潰れそうなレベルである。
バルバトス商会カダルファ支店は、倉庫部分はそのまま倉庫として、
住宅部分を、簡易的に寝泊まり出来る部屋付きの事務所として使っているわけで、
俺たちはその事務所(まぁ見た目としては普通の家だが)にある応接室に通された。
「取り敢えずそのソファに座って」
カルナさんの指されたソファに、俺とアニスは座った。
さっき支店の外観はボロいと言ったが、
中はそれなりに清潔かつ整理されていて、逆にとても好感が持てた。
いや、なんか上から目線な感想になっちゃったけどさ。
俺自身が持つ「鑑定」スキルは、やはり大雑把に様々なものの鑑定ができる様だ。
今座っているソファも、目の前のテーブルも、応接室の入口近くにあるスタンドのような物も結構いいものなのがわかった。
余談だが、この「鑑定」スキル、かなり直感に頼っている気がする。
「これは高級!」「これは粗悪!」みたいに分かるわけではなく、
「売ったらいくらくらい」と言う予想が差額無く分かる「感じがする」と言うだけである。
微妙なスキルだわ…。
まぁそれでもスキルレベルは10だし、間違いはほぼ無いだろう。
閑話休題。
しばらくすると、俺とアニスの前にお茶が出された。
そして、カルナさんも俺たちの向かいの1人がけソファに座る。
「うっし。
じゃ早速だけど依頼の話だよ。
まず、アンタらにやって貰いたいのは「物資運搬」だ。
単純に「物を運ぶ」。それだけだ。
それは理解してるな?」
俺とアニスは頷く。
「よし。
んで、問題はこの「運ぶ物資」だ。
「イザナイグサ」と言う肉食植物の「球根」が大樽3つ分と「蜜」が中樽1つ分だ」
「イザナイグサ」ってなんぞや…?
という質問をする前にアニスが口を開いた。
「な、なんでそんな物を!?それも、そんな大量に!?」
おっと…薬屋さんは知ってるみたいだ…。
「おや?おチビは知ってんだね?
兄ちゃんの方は?」
俺は首を横に振る。
「うむ。
んじゃ兄ちゃんのために、まず「イザナイグサ」の説明からしてやろうか…」
「イザナイグサ」
球根植物であり、成長するまでに半年から1年かかり、その速度は土中の養分によって前後するとか。
絵を見せてもらったが、なんと言うか…元の世界にもあった「ラフレシア」に近いだろうか。
と言うのも、見た目としては土から花が直接出ている様な感じであり、そして特性も「ラフレシア」に似ている。
花弁の端からその中心までは緩やかなすり鉢状になっており、中心は壺のような形状で、とてもヌルヌルの「蜜」がたっぷりと溜まっている。
この「蜜」は、匂いは微かに甘いという程度なのだが、この匂いがどうやら魔獣に対して幻惑効果があるのだとか。
「蜜」に惹かれてやって来た魔獣はこの蜜壺の中に入り込んでしまう。
蜜自体とてもヌルヌルしているので、一度壺の中に入ると出られなくなる上、これは「消化液」の役割もしており、魔獣の体液に反応してどんどんその体を溶かすのだとか。
「魔獣を「誘う植物」だから「イザナイグサ」ってな名前なわけだ。
わかったかい兄ちゃん?」
「あぁ、手間を掛けさせて申し訳ありません」
「いいって事さ」
さて、ここまで話を聞けばアニスの抱いた疑問は俺自体も抱いた。
魔獣を引き寄せる植物。
その球根や蜜を何故そんな大量に王都へ?
という疑問だ。
「んじゃ次はおチビの質問に対してだ。
「イザナイグサ」の「蜜」は話した通りに「魔獣を呼ぶ」と言ってもいい能力がある。
そんでその能力に目をつけたのが「王都騎士団」の「守衛団団長」だ。
なんとも若くて頭がいいって話なんだよねぇ?
しかも顔も中々男前なんだとか!
…あ、まぁそれはいい。
で、その守衛団団長さんが提唱するには、
王都の周りにこの「イザナイグサ」を意図的に配置する事で、魔獣を呼ぶ事にはなるが逆に討伐がし易くなるって感じらしい。
まぁ確かに対魔獣用の自然兵器って感じの植物だしね。
それに魔獣討伐に行く場合も、ある程度位置が絞り込めるから、迅速に対応出来るわけだ」
なるほど…どうやらその守衛団団長とやらは結構頭がいいのかも知れない。
本来なら「魔獣を呼ぶ」と言う特性に目が行き、危険なものとして排斥しそうな物を逆に利用しようとしているのだから。
上手くいけば確かにいい機能になりそうだが…。
「でも大樽3つもの球根ってなると…かなりの数になりませんか?
だとすると、惹き寄せる魔獣もそれなりの数になりそうですけど…」
「知らないよそんなの」
は?
「だってアタイらは「イザナイグサの球根と蜜が欲しい」と言われたから、それを用意して売るだけだからね。
失敗するかどうかはその「守衛団団長さん」の腕にかかってるだけで、アタイらは関係がない。
これを聞いて怒るも良いけど、それを言う相手はアタイじゃないからね?
王都で直接「守衛団団長」に言いな」
さすが…と言うべきなのだろうか?
カルナさんの目は真剣そのものだ。
つまりは本当に「どうなるかは自分の預かり知る所じゃない」と思っているようだ。
この世界での「商人」「商会」とやらは「冒険者のギルド」と同じように、基本的に国とはほぼ無関係な部分にいる。
「売っている物」を「買いたい人」が居るなら「売る」それだけの事だ。
カルナさんの真剣な目に、アニスは一瞬ビクッとした。
「なるほど…確かにそうですね。
ちなみにその守衛団団長さんとやらは、相当自信があるんですかね?」
俺は特に気にしていない様に話を振った。
「ん?そうじゃないかなぁ?
なんたってこのカダルファがあるキャメロット領領主の長男らしいからね」
・・・待て。
キャメロット領領主の「長男」だと。
あ・・・いや。
確かに俺…と言うか俺の身体の「アルキウス」には兄が居ると聞いた。
王都の騎士団に居るとも…。
守衛団団長が…そうなのか?
「えっと…その人の名前は…?」
「ん〜っと確かアルトリウス・クロード・キャメロットだったかな?」
うわぁお。
ほぼ確実じゃん。
どぉしよ…。
「まぁ何か言いたいことがありゃそいつに言いな」
「ソウシタイトオモイマス。」
片言になってしまった。
「んじゃ改めて仕事の説明に入らせてもらうよ。
要はその「イザナイグサ」の「球根」と「蜜」を王都に持っていくんだが、「蜜」の影響で魔獣が寄ってくる可能性は十分にある。
こちらとしても特注の樽を用意したから確率は少ないと思うけど、この世に「絶対」は無い。
そこで冒険者のアンタらに護衛を頼みたいんだよ」
「護衛だけなら分かりますけど…運搬もですか?」
「ああ…そこなんだけどさ…。
ここからキャメリアの街に行く途中に「アルマナ」って町があるでしょ?
そこで数日前にデカイ「竜甲虫」が出たんだけど、その時に運悪くアタイらの支店が壊されちゃってね。
本来この運搬にあたるはずだったヤツも何人かケガをして、仕事なんて出来る感じじゃ無いのよな。
こっちとしても穴を埋めたいんだけど、またまだ小さい商会だから、どうしようも無い部分が出ちゃってね」
「それで何でも屋の様なギルドに依頼した、と?」
「ま、そゆこと」
アニスがなんとも言えない目でこちらを見てきた。
ああ…この人の話がいろいろ俺に関連してるのがなんとも…。
確実にそのアルマナでの話…俺らが遭遇した「竜甲虫」の話だろう。
その素材…今持ってます…。
「んで、取り敢えず理由としてはこんなもんかな。
ここまで聞いてどうする?
仕事、受けてくれるかね?」
「受けます」
「竜甲虫ドラグーンスカラベ)」が出た事は別に俺のせいじゃ無いが、
なんかこの人、やたら俺に縁がある。
この話を無下にするのは…気が引けた。
補足をココで
第1話にて、「アルキウス」が「兄は騎士団の何番隊かの副団長」と言っていましたが、
コレは「アルキウス」本人の認識違いになります
「騎士団の中で偉い役職だったはず?でも流石に団長はないだろww」
みたいな認識です。
設定として「王都騎士団」は、各部隊を呼ぶ際「王都騎士"隊"○○団」と言う形にもなるので、それだけ「アルキウス」は無知であり、兄に関心がないという事です




