次の依頼
これは意外とまずくないだろうか…。
本当であれば、ギルドで新たな仕事を請け負い、2〜3日の内には別の街に向けて出発するところだった。
しかし、既にカダルファの孤児院に来て4日が経ってしまっている。
女郎蜘蛛のランに「何もしないのか?」と言われたのだが、その時俺は「特に急いでもないからいい」的なことを言った。
だが、さすがにコレは…。
少なくともギルドで仕事を貰いに行こう。
〜〜〜
ということで、アニスを引き連れてカダルファの冒険者ギルドにやってきた。
「別に兄さん金持ちだし、仕事しなくても良いんじゃない?」
「金はあるにしても「有限」だ。ギルドに登録したのも長い目で見たらいつか金が尽きるからだぞ?」
「まぁねぇ…お、これは?」
【王都への物資運搬】
王都かぁ…あ、そういえば、確か兄が王都に居るんだよな。
誰の兄か?
いや…俺のですね。
正確には俺の身体=アルキウスの兄だ。
んんん…なんか、面倒な事にならないとも言い切れん。
でも、王都かぁ…。行ってみたい。
興味はある。
「でも、配送なら業者に頼めば良いのにね。なんでわざわざギルドに依頼してるんだろ?」
「確かに…聞いてみるか?」
俺は依頼書を手にすると、係りの人に声をかけて聞いてみた。
「あぁこの依頼ですね。
確か…あぁありました。
理由としては、物資と同時に依頼主様も同行されるとのことで、その護衛も兼ねて腕の立つ冒険者の方に依頼したいとの事です」
腕の立つ…か。
「じゃぁ俺は無理かな。ランク1だし」
そう言って俺はギルドカードを軽く見せた。
「ヤマト・クロード様ですか…ん?ヤマト様って言えば…スレイブキリングを二夜連続で撃退された?」
「え?あ、まぁ…そうですね?」
「であれば、少しカードをお借りしても宜しいでしょうか?数秒で済みますので」
俺は首を傾げつつカードを渡した。
因みに、これはアニスに聞いた裏技てきなものなんだが。
ギルドカードの情報は持ち主の意思で隠す事ができる。
まぁそう言った仕様のカードにするには手数料として銀貨5枚が必要らしいが、別に痛いほどの出費ではない。
手続き自体も、専用の魔道具にカードを通すだけなので簡単だ。
正直最初からやれば良かったんだが、
この時期に多い依頼の1つに、はぐれ「戦斧蜥蜴」の討伐というのが有り、その蜥蜴1匹の討伐で10銀貨なのだとか。
その「戦斧蜥蜴」だが繁殖期は気性が荒く、初心者なら殺される危険性もある。
にも関わらず1匹10銀貨。
対してカードの加工に5銀貨。
普通の感覚なら割りに合わない。
故にアニスも、カダルファに来た時に思い出した様で、軽く謝りながら教えてくれた。
話を戻すか。
カードの情報を隠せるという部分だが、
「名前」「ギルドランク」「何処のギルドでカードを発行したか」は隠せなくなっている。
依頼を受けるにあたって最低限必要な項目だな。
まぁそういう事もあり、650レベル以上なんてこの世界じゃ馬鹿げた数字を見られる心配は無くなっていたため、首を傾げはしたがギルド職員にカードを渡したのである。
「ギルドの正式な依頼ではありませんでしたが、宿の主人や、現場を確認した警備兵から話は伺っております。
ですので、スレイブキリング所属者2名撃退の功績により、ヤマト様のギルドランクを1から3にさせて頂きます」
「うぇ?!それだけで!?」
「はい。
元からスレイブキリングの者は賞金が掛けられておりますので。
それに倒されたのも「仙人掌創り」のシガーと「調教師」のトリヴィアでしたので、その点も加味しております」
初耳だ。
てか、あの2人そんな通り名があるくらいには有名だったのか?
てか「仙人掌創り」ってなんだよ。
「はい、ランクの変更は完了致しました。
これでランク3までの依頼を受ける事ができます。
あ、この【王都への物資運搬】も受注可能です」
「あ、ありがとうございます」
なんか実感がない。
来たやつを倒したらギルドランクが上がった。
しかも正式な依頼じゃないのに…。
まぁ考えても仕方ないのか…?
余談だが、賞金の方は全てギルドの俺の口座に入れておいて貰った。
ちょうど1金貨であった。
1金貨と言うとなんか少ないように思えるが、日本円にしてみれば大体100万くらいだから、なかなかなものだろう。
アニスの所に戻り状況を説明したのだが、
「なんかもはや驚くポイントが分からないよ」
と言われてしまった。
俺も分かんないよ。
まぁ幾つかアニスが聞きたい事があると言っていたので、改めて職員のところに行き、
暫くののち【王都への物資運搬】依頼を受注した。
〜〜〜〜〜
「あ、ユキカゼさ〜ん。さっき、ヤマト・クロード様がいらっしゃってたので、ギルドランクを上げて置きました」
「そうですか。ありがとうございます」
先ほどヤマトのギルドランクを上げる手続きをしたギルド職員は、暗いグレーの髪を三つ編みにした職員にその旨を報告した。
ユキカゼと呼ばれた職員は、カダルファのギルドのトップである。
「それにしても、なんでヤマト様のギルドランクを3にまで上げたんですか?
正式な依頼ならまだわかりますけど…」
「なんと言いますか…彼は僕と同郷…なんですよ。
彼の実力は本来であれば「ランク1」なんてものじゃぁ無いはずですからね」
そう言うユキカゼの見た目は、男性とも女性とも言えない中性的かつキレイな顔立ちだった。
男であれば美男子。
女であれば美人。
そんな感じだ。
ただ、それは顔だけを見ればの話だ。
声自体は、結構低い。
バリトンボイス…と言っても良いくらいだろう。
故に男性であることはすぐに分かる。
「えぇ!そうなんですかぁ!
ん…?あれ?そういえばユキカゼさんの出身ってアーキルット王国じゃなかったですか?」
「育ちはね」
「生まれは?」
「サナールさん。そろそろお仕事をして頂けませんか?減給しますよ?」
「うひ!そうでした!しつれいしまぁ〜す!」
サナールと呼ばれた女性職員は足早にその場を後にした。
それを微笑みながら見送ったユキカゼは、改めて手元の資料に目を落とす。
「さて。
ヤマト・クロード…ですか。
「ヤマト」ねぇ…それに、この報告資料から見るにどう考えても偽名ですし…レベルについてはなんとも言えませんね。
やはり彼女の報告待ち、ですか」
ユキカゼはそう呟きながらも、微笑みは崩れていない。
声の低さ故か、何か含みがある様に聞こえはするものの、彼には「ポーカーフェイス」スキルがある為真偽も定かでは無い。
「願わくば、彼が話の通じる者だと良いのですけど…」




