ヤマトの呼び方
「あの…ヤマト様」
「ん…んん?はい…ロディーナさん?どうしました?」
だいたい何時くらいだろうか?
この世界は時計が無いから目安が分かんないんだよなぁ…。
ただ、連日の襲撃のせいであまり眠れていなかった俺たちはみんな布団に包まるなり、すぐに眠ってしまっていた。
ちなみに、マリシテンはベッドの布団をたたみ固いベッドの板の上で座って寝ている。
取り敢えず夜中なのは分かるが…。
「あの…ヤマト様に会いたいと言う方が来ているんです」
「こんな夜中に?」
まさか…またスレイブキリングの?
3日連続とか勘弁して欲しいんだけど…?
「はい…ただ、襲撃などでは…少なくともヤマト様の敵…では無いと思うんです。
それに…こんな夜更けに来られたのも納得できる….といいますか」
「…と言うと?」
なんか歯切れが悪いな?
「…ヤマト様は「女郎蜘蛛族」にお知り合いはいらっしゃるんでしょうか?」
「あらくね?」
〜〜〜
「初めまして。
こんな夜分に申し訳ない。何分…この様な姿であるため、昼時には出歩けないのだ。
自分はラン・ラクネリオス=アシダカアラクネと言う。
見ての通り「女郎蜘蛛族」だ」
いや…見ての通りって言われてもなぁ…。
まぁ確かに見ての通りなんだろう…。
目の前にいる彼女は、スミレ色の長髪を高い位置でポニーテールにして、整った顔をした青い目の美少女である。
出るとこは出て、締まるところは締まっていると言う感じのとても健康的な身体が素晴らしいとも思ったのだが…
彼女の腰から下が完全に巨大な、濃紺で艶のある「蜘蛛」だった。
と言うか…巨大な蜘蛛の頭から美少女の腰から上が生えてる…と言った方が合ってる気がする。
最初見たときはそれなりにビックリしたわ。
えっと…
「ラン・ラクネリオス=アシダカアラクネ 22歳 Lv32 亜人種/女郎蜘蛛族」
保持スキル
・「格闘」7
・「双剣」7
・「ランス」6
・「危機感知」4
・「空間把握」5
・「耐性:物理」5
・「弱体:火」8
種族スキル
・「加速」8
・「暗視」9
・「跳躍」6
・「糸生成」3
あぁ…またなんとも戦闘に特化した感じの方だわ…。
「えぇっと…ランさん、ですか」
「自分のことは呼び捨てで構わない」
「あ、わかった…。
えっとじゃぁラン。
まぁ夜中に来たのは別に良いんだけどさ…何か用事でも?」
途端に目の前の女郎蜘蛛…もといランは土下座して来た。
いや、器用なもんだな…。
下半身が完全に蜘蛛のため、脚が8本あるのだが、そのすべての脚を器用に折り畳み、しっかりと両手と頭を地面につけてちゃんとした土下座になっている。
「どうか貴方の力を貸しては頂けないか!」
「うぇ!?いったいなに!?」
ランは頭を床に擦り付けて尚も声を上げる。
「どうか…どうか自分の姉を救う手助けをして頂きたいのだ!!」
〜〜〜
ランの姉、ラーナ・ラクネリオス=アシダカアラクネは2ヶ月ほど前、「人攫い」によって拉致され奴隷として売り払われてしまったらしい。
女郎蜘蛛族の「アシダカアラクネ」と言う部類は、性質上「アシダカグモ」の能力を持っており、その上「女郎蜘蛛族」の中でも屈指の戦闘集団であるらしい。
故に、戦闘奴隷として買われる事もしばしばある様で、そう話すラン自身も「人攫い」に狙われたのは1度や2度じゃ無いという…。
なんとか情報を辿って行き、このカダルファに着いたらしいが、
どうやら既にランの姉、ラーナは「スレイブキリング」によって拉致された後だったのだと言う。
「…そんな中、スレイブキリングの襲撃者を2日に渡って撃退した者がいると聞いたのだ」
「それが俺って?」
テーブルを挟んで向かいに座るランは静かに頷いた。
ちなみに、俺の隣にはロディーナさんが座っている。
まぁランの言う通りだけど…あ、いや2日目はマリシテンが殺ってたな…。
ただ1つ気になることが有った。
「ランのお姉さんは「戦闘奴隷」として売られたんだよな?」
「そうだ」
「じゃあ買った主人の意思で…もう死んでたりしないのか?」
奴隷は購入時に「奴隷首輪」と言うものを付けられる。
命令違反時に奴隷の首を絞めたり、主人の意思で奴隷の首の骨を一撃で折り、苦痛を与えながら殺す忌々しい道具だ…。
そうは言っても…レイラにも付いてるんだよなぁ、アレ。
「それはない。
なぜなら、首輪が外れて落ちていたらしいからな」
「首輪が…外れていた?」
「ああ。どうやら、スレイブキリングの中には奴隷首輪を外せる者が居るようでー」
「それは本当か!?」
俺は勢いよく立ち上がっていた。
ランもそうだが、コレにはロディーナさんも驚いていた。
「え、えぇ。確かな様だ…」
という事は…レイラの首輪も外せる可能性があるって事か。
これは…ランに手を貸した方が良い気がして来たな…。
「猫と黒龍人の次は蜘蛛ですか、ヤマト様」
不意に聞こえた声に振り返った。
「マリシテン、起きてたのか」
「はい。敵なら殺そうと思っていました。
まぁ亜人なので殺すのもやぶさかでは無いですけど」
恐らく本心だろう。
両手にいつもの手斧を握っている。
「ヤマト様…その修道女は…?」
「おや…ヤマト様を「ヤマト様」と呼べる分、猫よりも賢いようですね」
「あぁコイツはマリシテン。一応、旅の…連れ?」
ランに説明しようとしたところで、そもそもマリシテンはなんで俺らと一緒に居るのか?と言う疑問が出てきたため、俺も疑問系になってしまった。
「ヤマト様は「私の神」の使い。ならば、ヤマト様に付き従うのは「私の神」に身を捧げた「私」の役目です」
あぁ…なんかそんな事言ってたな、この「自分教信者」さんは。
「なるほど、ヤマト様の従者様か」
「そうです。ヤマト様の為の従者であり、ヤマト様の信者です」
「さすがヤマト様。この様に厚く信頼されているなど、スレイブキリングを撃退するだけはある!」
「なるほど…あなたはヤマト様の事をしっかり理解できている様です。
ならば、しかとヤマト様にその身を捧げヤマト様を「私の神」の使いとして崇めるのであれば、ヤマト様とーーー」
「ヤマト様ヤマト様うるっせぇな!!!
なんだよ!新手の嫌がらせかお前ら!!」
なんだコイツら、めんどくさいな!!
「ヤマト様は、ヤマト様です」
「あぁ…何か呼び方を変えた方が良いだろうか?」
うちのシスターはブレ無いんだな…。
「あぁ…もぅ好きに呼んでくれたら良いよ…」
「では、主殿と」
「おい、それはなんか違うんじゃねぇか?いや、絶対違うだろ?」
なんだこの蜘蛛。
こいつもなかなかおかしなヤツか?!
「自分は、少なくとも姉を救うまでは、ヤマト様に尽くすつもりだ。
であれば、呼び名もそれなりに上下を分けるべきだろうと思うのだが」
…だから呼び捨てで良いって言ってたのか。
「はぁぁぁ・・・もぅなんでも良いよ・・・」
マリシテンが来た瞬間にどっと疲れた…。
不意に肩を叩かれ、そちらを向くとロディーナさんが困り顔で首を傾げていた。
「あの…私も「ヤマト様」から何か変えた方が良いでしょうか?」
あなた様もその呼び方だったかぁぁぁ・・・ッ!!




