孤児院の夜
カダルファの端にある教会兼孤児院。
一応、教会ではあるらしいが、もっぱら礼拝に来る人よりも孤児の方が多いのだとか。
「うっしゃ出来た!みんな一列に並んで!」
『わーい!』
下は0歳から上は10歳まで、親を亡くした、または親に捨てられた子達が集まっている。
「世話になるのだから」と俺は1人暮らし故に身につけた適当な料理を作り、その子達に振舞っていた。
その時に新発見だったのが、レイラに料理の才能があった事だ。
マリシテンは動く事もなく椅子に座っていたし、アニスに至っては無味無臭料理を作るから、レイラに料理の手伝いを頼んだのだ。
驚く事に、ある程度口頭で説明したらレイラはすんなりとその料理を作ってしまい、
終いには、余った食材でも料理を何品か作るほどだった。
料理経験があるのか聞いたが無いという。
こりゃ道中の料理係は決まったな。
一列に並ぶ子供達は、みんなそれぞれに器を持っており、俺とレイラでその器に料理をよそっていく。
「こんな立派な料理までご馳走になってしまい、本当にありがとうございます」
教会のシスターであり、孤児院の院長でもある「ロディーナ」さんが頭を下げてきた。
「いえ、そんな。やりたくてやってる事ですから」
「…この孤児院に来た男性が貴方方を襲いに来たと聞きました。
スーネルに用があると言っていたんですが…あの時私ももっと気を付けていれば、貴方方にご迷惑をおかけしなかったと思うのです。
申し訳ありません」
「いやいやいや、相手が勝手に襲ってきただけですし、何より俺が亜人奴隷を連れているからってだけでヤツらは襲撃に来たんです。
ロディーナさんが謝る事ではありませんよ」
俺は器を差し出してきた男の子に料理をよそう。
「それに、むしろ俺の方こそお礼を言わせて下さい。
レイラやアニスが亜人であるにも関わらず、あなたは快く泊まる事を許してくれました。
それに、レイラの事だってスーネルは隠そうとしてくれました。
ありがとうございます」
「いえそんな!
そもそも、私の祖母は亜人とも交流のある魔法使いだったんですよ。
なので、亜人を世間で言われている様な野蛮な種族などと思った事がありませんでしたから。
この子達にも、その話をしていた事もありますので」
なるほど。
やっぱ世間体として亜人は迫害されてるだけで、個人で見ればロディーナさんみたいな人も居るわけか。
そんな事を考えつつ、俺は列の最後の女の子に料理をよそってあげた。
〜〜〜
「竜のねーちゃん!その尻尾って本物なの!?」
「竜のおねぇちゃん、角を飾ってあげるー!」
「竜のねえちゃん、一緒にあそぼ!」
「あ、あの、申し訳ありません、一度にそんなに来られては…」
レイラが子供にやたら人気だ。
いっぺんに声をかけられてアタフタしている。
とても19歳とは思えない狼狽えっぷりだ。
「竜のおねぇちゃん!」
「おねーちゃん!」
「あ、あぁ…ご主人様ぁ〜」
「遊んでやれよ。みんなレイラと遊びたがってるんだから」
「な、何をすればいいんですかぁ、具体的に命令してください〜!」
「いや、遊びの命令ってなんだよ…」
「おねーちゃん、こっちこっち!」
「あ、あぁ〜!」
嗚呼、レイラが連れて行かれるー。
ま、連れて行ってるのは小さくて無垢な子供なので心配はないんだが。
「全く!最近の子は猫より竜の方がいいんですか?」
俺の隣でアニスがじゃっかんブスッとしてる。
単純にやたら子供に人気のレイラが羨ましい様だ。
「大丈夫。俺は犬より猫派だから」
「そーゆー話じゃないって!
だいたい、レイラちゃんだけなら分かるけどさ、なんであの戦闘狂までちょっと人気なわけ!?」
「なに?」
俺はマリシテンの座っている長椅子の方に目を向けた。
マリシテンは何もせず、ただいつもの様に座っているだけである。
だが、その周りには3〜4人ほど子供が座っており、
その子達も何をするでもなく、ぼーっと座っていたり、レイラが持っていた絵本を眺めていたりしていた。
なんだろ…静かな人種同士でなんか感じるものがあるのか…?
「ほんとだ…」
「もぅ!ウチも子供に懐かれたい!!」
うわ。本音が出たよ、アニスさん。
「アニスさんには助けてもらって、私としてはとてもありがたかったんですけどね」
そう言ってロディーナさんが微笑みながらやって来た。
「アニスにですか?」
「ええ。
ちょうど傷薬と、風邪の飲み薬が切れかかっていたんですけれど、アニスさんに少し薬を分けてもらいましてね。
それと、裏庭に自生していた草の幾つかが薬草だったみたいで、その事も教えてもらったりしました」
おぉ、さすが薬屋。
「街で薬を買うとやはり高くつきますから、薬草が自生していたのを教えてもらえたことは、本当に助かりました」
「あ、明るくなったらもうちょっと周りに薬草が無いか調べてみますね!」
数秒前まで「子供に懐かれたい」とか言ってた猫人族の薬屋さんは、照れている様に顔を赤くしている。
ちゃんと見たぞ。
「ご、ご主人様ぁぁ〜これからどうすればいいですかぁ〜!!」
暫くロディーナさんやアニスと話をしていると、向こうでレイラがなんか泣きそうな声をあげた。
見ると…あぁ…なんか面白いことになってるな。
レイラは、膝に手をつき腰を「く」の字に曲げているのだが、尻尾はピンっと伸ばしており、どちらかと言えばシルエットは「T」の字になっている。
尻尾には4歳くらいの男の子が1人跨って楽しそうに笑っており、
猫じゃらしにじゃれ付く猫の様に、尻尾の上の男の子より少し小さい女の子が1人、尻尾の先端に手を伸ばしている。
更には、腰を曲げるレイラによじ登ろうとする女の子が1人と、既に登り終え背中と腰に座った男の子が2人。
そして、レイラの頭から伸びる黒い角に、お花やら小さな人形やらをくっつけてる女の子が3人。
その周りにも2〜3人男の子や女の子がキャッキャと戯れている。
「アニスもああなりたいのか?」
「…アレはさすがに、ちょっと」
薄情なヤツだなと苦笑いしつつ、さすがに足腰も尻尾もプルプルしているレイラを放っては置けない。
「ほら、お前らそろそろ寝る時間じゃ無いのかぁ?」
「えぇー?まだ竜のおねぇちゃんと遊びたーい」
「ちゃんと眠らないと、明日の朝みんなが起きる前に俺たちは旅に出ていなくなっちまうぞー?」
『寝ます!!』
聞き分けのいい子たちだ。
てか、どんだけ遊びたいんだこいつら。
「ありがとうございます、ご主人様…」
「レイラこそ、子供達の相手、ありがとう。
ゆっくり休んで」
「はい」
レイラの頭を軽く撫でてやると、心底嬉しそうな顔をされて、逆に俺が照れた…。
てか、今の俺の見た目ってレイラより年下だよな…。
レイラってショタ属性好きか?
ホントにそろそろ寝る時間だった様で、ロディーナさんも頭を下げていた。
ふと、マリシテンの方を見ると…マリシテンと目があった。
あぁ…あっちもなんか大変そうだな。
マリシテンの周りに静かに群れていた子供達がみんないつの間にか寝ており、中にはマリシテンにもたれかかったりしてる子もいた。
魔獣や亜人に対しては狂気の塊なマリシテンだが、さすがに普通の子供達相手だとなんともやりづらい様で、嫌そうというわけでは無いが困った様な顔をしていた。
「どうした、マリシテン。こっちおいでよ」
俺はニヤリと笑いながらそう声をかけた。
「いや…その…動けません」
「えー?どーして?」
「その…子供がいますので…。
えっと…助けて下さい」
マリシテンに助けを求められてしまった。
そんなに苦手か、子供。
〜〜〜
既に寝てしまった子供をレイラとロディーナさんと共に部屋に連れて行った。
俺たちが寝ることになった部屋には2段ベッドが2つ有った。
聞けば、数年前まで使っていたが今は空き部屋になっている部屋で、泊まっている間は好きに使っていいとのことだった。
さて…ここまで子供達の笑顔に彩られていたため気が緩んでいたわけで…。
流石に3日目の襲撃は無かったのだが…なかなかイベント臭のする来客が有った…。




