スレイブキリングの会話
亜人奴隷解放集団「スレイブキリング」
「亜人奴隷の解放」と称して、目に付いた亜人奴隷を片っ端から殺害していく殺人集団。
元は、不当に拉致誘拐された上、奴隷契約の首輪によって逃げる事も出来なくなった亜人奴隷を介錯するような、わりと受動的な集団だったらしいが、
時が経つにつれて、単に亜人奴隷を殺すだけの集団と化してしまっているらしい。
ギルドでもその調査が行われているらしいが、現状あまり調査は進展していないらしい。
「アニスは聞いたことあった?」
「んん…一応そんな集団がいる「らしい」って事はね。
でも狙われるのは「奴隷」だし、特に警戒はしてなかったよ」
「えっと…マリシテンは?」
「亜人は人間の成りそこないですし元は魔獣ですから、駆逐されて然るべきだと思いますよ」
あぁ…あんたそーゆー人だったわな…。
ギルドにスレイブキリングについて聞いた後、俺たちは馬車の中でグボラフィッシュの蒲焼きを食べつつ、情報の精査を行っていた。
うん。
ドギツイ色が気になって買ったけど、あれだ。
味は普通だ。
ホッケみたいな味。
「んんん、レイラは何か聞いたことある?」
「一応…私を売りに出していたナリキーン様が、たまにそういった集団へ警戒を行っていました」
なるほどね…奴隷商人からしたら、大事な商品を狙う輩って感じだしな。
売った後はどうか知らないが、売る前に殺られちゃったらたまったもんじゃないしね。
昨晩。
外套を着たスレイブキリングのシガーと対峙し、攻撃を受けたために勢いでバッサリと殺ってしまったわけで…。
言い訳をさせて頂くとすれば、
「骸鎧狼」や「竜甲虫」との戦闘、マリシテンとの手合わせなどが続いたせいか…手加減とかそう言った思考が飛んでいたんです、はい。
正直、直後にかなり動揺し、後を追って来たアニスとマリシテンになだめられたりしたんだが…
さすが異世界…と言うかなんと言うか…。
「襲撃に対する迎撃=正当防衛」
という形になるらしく、
特に俺のステータスにも「殺人」とかは付いてなかった。
アニスにマリシテンにレイラ、更には宿屋の店主でさえも
「襲撃者だから殺られて当然」という感じだった。
人殺してもこの程度ってのは…ヤベェな…。
もぅ前の世界の道理は通じない、と楽観視するには…さすがに時間がかかりそうだ。
〜〜〜
カダルファのとある民家。
いや。
民家に見えるだけで、実質「スレイブキリング」の中で「支部」と呼ばれている「集会所」の1つなのだが…。
黒い外套のを着た4人の男女が、リビングの様な広めの空間におり、中には昼間から酒を飲んでいる者もいる。
その中の1人。
後頭部でポニーテールの様に明るくツヤのある茶髪を縛った青年が、愉快そうに呟いた。
「ねぇ、シガーが追ってたあの不確定な情報のヤツってどーだったの?」
彼はつい先ほど「支部」に入ってきた者だ。
「ん?キッド、まだ聞いていなかったのか?
どうやら、あの情報は「黒」だったみたいでな、
昨晩上機嫌で「狩り」に行ったシガーは、例の「ご主人様」に殺られたよ」
中央のテーブルに向かって置かれたソファに座っていた、
グレーの坊主頭に剃り込みを入れた屈強な男が答えた。
「マジかよゲールス?シガーってバカだけど、暗器の扱いは俺らの中でもなかなかじゃなかったっけ?」
適当な木椅子に座りつつ、驚いた様に聞き返してくる青年=キッドに対し、
屈強な男=ゲールスは、軽く溜息をついて答えながら、手元の本に目を落とした。
「それをものともしない程度には強い相手だったんだろう。
そうじゃなければ、シガーが相当ドジを踏んだだけだ」
「アタシは後者に賭けるわ」
ゲールスの言葉に、別のソファに座っている、緩くウェーブがかかった紫のロングヘアーの女性がそう言った。
女性は皆と同様に外套を羽織っているものの、その下に着ている服の布面積はやたらと少なく、もはや服と呼べるかも怪しいレベルである。
「だってそうじゃない?
このご時世、奴隷を持ってるのなんてせいぜい何処かの商人か、性癖の捻れた貴族の息子くらいよ。
そんなヤツがシガーを殺せるなんて思えないわ」
女性は、その豊満な胸の谷間に挟んでいたキセルを取り出し火をつけた。
「トリヴィア…外で吸ってくれな」
「すっげぇ!トリヴィア姉さん!それどうやってしまってたのさ!!」
怪訝な顔のゲールスの言葉を遮って、キッドは女性=トリヴィアが胸の谷間からキセルを取り出した事に目を輝かせていた。
自分の言葉を遮ったキッドに舌打ちをして、ゲールスはまた本に視線を落とす。
不意に音もなく、キッドの横を通る者がいた。
「うぁあ!ビックリしたな!
クリス!お前足音くらい立てろよ!」
「…すまん。…癖で。…それより…俺が使う…ニードルって…どこだ?」
濃紺のヌラッと光る長髪の男=クリスと呼ばれたその男は、キッドに目を向けた。
「さぁね。俺もさっきコッチに来たし。
…てか何?また捕まえたの?」
「あぁ…今回は大物だ。
何せ…「アシダカアラクネ」だ…」
それを聞いてゲールスが少し視線をクリスに向ける。
「何歳くらいだ?」
「…ゲールスの趣味には…合わないよ。
実質…多分30手前…くらいかな。
見た目は…20歳くらいだし。
それに…10歳以下でも…ゲールスには渡さないよ」
「ふん…年増には興味はない。
それに、「女郎蜘蛛族」は見た目がどうもな」
2人の会話にトリヴィアが口を開いた。
「多分二階の物置じゃないかしら?
行くならついでにアタシの鞭も持ってきてくれないかしら?
そろそろ手入れしたいのよ」
「…わかった」
クリスはそう言って部屋を出て行った。
「…なぁ、昆虫にエロさ感じた事ある?」
クリスが居なくなってすぐ、キッドはゲールスに聞いた。
「無いな」
「だよねぇ…」
「なんなら、お前の「亜人の死体にしか興奮できない」と言うのも、理解は出来ないがな」
「なぁにさ!テメェの方がよっぽどヤベェだろ!
10歳以下の亜人ばっかり狙ってるし!!」
「そういう性だからな」
さも普通であるかの様にゲールスは涼しい顔をしている。
「落ち着きなさいよキッド。
アンタもアタシも、なんならそこで酔い潰れてるケイトでさえ、
スレイブキリングの人間はみんな「亜人に対する特殊性癖」の持ち主なんだから」
トリヴィアがなだめた事で、キッドも落ち着き改めて椅子に座った。
「ま、多分この中で一番エゲツないのはトリヴィア姉さんだと思うけどね」
「あら、失礼ね?」
「同性愛者で強姦趣味ってどうなのよ?」
「楽しいわよ?」
「…俺、自分がメスの亜人じゃなくて良かったって思うわ」
無垢なトリヴィアの笑顔に対し、キッドの笑顔は引きつっていた。
「そういやぁ姉さん、鞭の手入れって、どこかに目星つけてるのか?」
キッドがふと思い立った疑問をトリヴィアに聞いた。
「どこかって、そりゃシガーを殺った人に会いに行くのよ。
情報も「黒」らしいし、だとしたら結構可愛い亜人がいるんじゃないかしら」
その表情は既に火照っている様にも見える。
「…トリヴィア。別に行くのは勝手だが、余り舐めてかからない方がいいぞ」
「わかってるわよ。
それにしてもクリス遅いわねぇ。
ちょっと様子を見てくるわ」
トリヴィアはそう言って、部屋を後にする。
数十秒後に上階から「ガラガラ!ガタガタ!ドサドサ!」と言う様な雪崩の音を聞いて、キッドは苦笑いになった。
そして、次にゲールスに質問を投げていた。
「てか、ゲールスはなんでそんなに用心してんの?この「ご主人様」ってそんなヤバイの?
どっかの貴族?」
「…シガーの死体を民衆に紛れて確認したんだがな、何かかなり斬れ味のいい得物で一刀両断という感じだった。
それもかなり綺麗にな。
その時点で相当の腕を持つ者と思っていたんだが…」
少し間を置き、ゲールスはまたしゃべりだした。
「この「主人」なんだが…もしかすると、キャメロット領領主の次男「アルキウス・クロード・キャメロット」の可能性がある」
「キャメロット領…って結構デカイ領地の…てか伯爵の息子?」
「まぁまだ信憑性がな…。
あそこの次男は、確かに捻じ曲がった性格で身分差別がかなり酷いと聞いていたし、それなら奴隷を持っているのも何となく分かるんだが…。
実際にシガーを迎撃した者は「ヤマト」と名乗っている上に、他に顔を隠した少年と、何故かシスターを連れていた」
「あぁ…なんか、聞いてたイメージと全然違う的な?」
「まぁそういう事だ。
いろいろと不確定要素が多過ぎるから…慎重になっているだけだ」
「ふぅ〜ん…」
キッドはしばらく思考を巡らせていたが、その後特に何か発言する事は無かった。




